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移民による事件相次ぎ「排斥」訴える ドイツの極右政党が躍進 首相に影響

World Now 更新日: 公開日:
ドイツ東部マクデブルクの聖ヨハネ教会前で2025年12月20日、クリスマスマーケット襲撃事件の犠牲者を追悼するメルツ首相ら=寺西和男撮影

選挙前に相次いだ事件が、一気に「移民・難民問題」を最大の争点に引き上げた。そんな典型例がドイツだ。排外的な主張を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が国民の不安をあおり、総選挙で躍進。政権与党の政策にも影響を与えている。

ドイツ東部マクデブルクの聖ヨハネ教会前に昨年12月20日夜、ろうそくを手にした数百人の市民が集まる中、犠牲者を追悼する鐘の音が響き渡った。

教会前で開かれる伝統のクリスマスマーケット。その日の1年前、サウジアラビア出身の男(当時50)が運転する車が突っ込み、6人が死亡、300人超が負傷する事件が起きた。追悼式典でメルツ首相は「我々の心の目には襲撃現場での胸が張り裂けるような光景が焼き付けられている」と祈りを捧げた。

ドイツ東部マグデブルクのクリスマスマーケットに車が突っ込んで6人が死亡、300人以上が負傷した事件から1年となる2025年12月20日、現場近くの教会前で献花する人々=寺西和男撮影

当時現場にいたという清掃員のマリアン・ドゥミトルさん(58)は「すべてがカオスだった。ドイツはもうドイツ人のための国ではなくなった」と話した。

この事件は2カ月後に控えていた総選挙にも影響を与えたとみられている。

政治の重要課題「移民・難民」がトップに

独公共放送ARDの世論調査によると、事件前の2024年12月初めの時点では、総選挙後に政治家が緊急に対処すべき最も重要な課題について「経済」(45%)との回答が最も多く、「移民・難民」(23%)を引き離していた。だが、翌1月初めの調査では「移民・難民」(37%)と「経済」(34%)が逆転した。

事件で国民の不安をあおり、「移民・難民問題」の争点化に利用しようとしたのが、排外的な主張を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。

「イスラム主義者の犯行だ」。事件の3日後、現地に入ったAfDのワイデル共同党首は動機が判明していない段階にもかかわらず、イスラム的な思想が犯行の背景にあるかのように訴えた。

ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の青年組織の設立総会で、演説するワイデル共同党首=2025年11月29日、独西部ギーセン、寺西和男撮影

ドイツでは24年8月に西部ゾーリンゲンでシリア出身の男が刃物で3人を刺殺し、8人を負傷させる事件が発生。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、厳しい移民政策を求める声が強まった。ワイデル氏は12月の事件も同じような構図で描き、移民政策の転換を訴える自党に有権者をひきつけようとしたとみられる。しかし、その後の調べで容疑者はイスラム教に批判的な考えを持っていたとされ、ワイデル氏の主張とは異なっていた。

それでも、ワイデル氏は選挙戦の演説で移民や難民による事件を取り上げては不安をあおり、滞在許可が切れたシリアなどからの難民らを強制送還する「再移住」を呼びかけ、「この国を強くて豊かで安全な国にするにはAfDが必要だ」と訴えた。集会では聴衆が「国外追放だ」と叫ぶ異様な光景が広がった。総選挙ではAfDは得票率を倍増させて初めて第2党に躍進した。

「対峙する主要政党が同じ土俵に」

シリア内戦の激化などを受けて15年、中東やアフリカから多くの難民が欧州に押し寄せた際、当時首相だったメルケル氏は国境を閉じずに受け入れた。この10年でドイツでの難民申請者は延べ310万人超に上り、さらにロシアが22年に侵攻したウクライナからも130万人を超える避難者を受け入れた。人口に占める「外国人」の割合は日本の約3%に比べドイツは約15%に上る。

ベルリンでシリアのアサド政権崩壊から1年を記念するデモに参加し、新国旗を掲げるシリア出身者ら=2025年12月7日、寺西和男撮影

物価高などで経済が低迷し、福祉に頼る難民らの増加に不満が高まっていたところに、選挙直前に襲撃事件が相次ぎ、AfDへの追い風になった格好だ。

ただ、「移民・難民問題」の争点化には、AfDと対峙(たいじ)する他の主要政党の対応が重要な役割を果たしたと、マルティン・ルター大学ハレ・ウィッテンベルクのマルセル・レバンドフスキ教授(政治学)はみる。「AfDは移民や難民に少しでも関連付けられる事件があると自らの主張に沿うように利用してきた。主要政党は冷静な議論ができたはずだが、同じ土俵に乗ってしまった」と話す。とくに政党支持率で首位を走っていたメルツの中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が保守層の支持を取り戻そうと移民政策の厳格化を押し出したのが大きかったとみる。

ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の集会に参加する党員ら=2025年1月25日、独東部ハレ、寺西和男撮影

総選挙の約1カ月前、南部アシャッフェンブルクでアフガニスタン出身の男(当時28)が男児と通行人の男性を刺殺し、3人を負傷させた。男は難民申請手続きを停止され、国外退去を求められていた。

「ついに限界点に達した」。この事件に強く反応したのはメルツ首相だった。翌日の記者会見で「ここ10年間、ドイツで誤った方向に進んできた移民・難民政策の破綻(はたん)に直面している」と語り、同じ政党のメルケル元首相時代の政策を正面から批判した。総選挙の公約で掲げていた「不法移民対策のための国境管理の強化」を政権発足初日に実行する方針を表明した。

社会に溶け込める「共存」の必要性

メルツ首相は予告通り、昨年5月に政権につくと国境に警察官を増員するなどして不法移民対策を強化した。シリアの内戦が終結したとして今後、シリア難民らの送還を進めていく考えも示している。

ただ、イスラム系の難民を支援する弁護士のナフラ・オスマンさん(47)は「内戦のトラウマを抱えるなどして帰国が難しい人も少なくない」と懸念する。

アシャッフェンブルクで今年1月下旬に行われた追悼式典で、事件現場で救助に当たった救急救命士のフランツ・エッツェルさん(62)は「私は多くの善良なシリア人やアフガニスタン人を知っている。残念ながらどの国にも悪い人間は存在する」と話し、出身国や宗教などの「属性」で悪者扱いする風潮に懸念を示した。そのうえで難民らがドイツ社会に溶け込めるような「共存」の方法を探る必要性を訴えた。