極右政党AfDが躍進したドイツ総選挙 移民政策や欧州の団結への影響、課題を読み解く

――今回のドイツ総選挙をどう評価しますか?
過去3年間、ドイツでは最悪の経済発展が見られました。いわゆる「信号機連合」(赤=社会民主党・SPD、黄=自由民主党・FDP、緑=緑の党)は、野心的な目標を掲げていましたが、エネルギー、経済・金融、移民などの政策で失敗しました。
緑の党と自由民主党の間では絶えず口論と争いがあり、その結果、自由民主党が昨年11月に連立政権から離脱しました。「信号機連合」とショルツ首相は、(西ドイツが誕生した)1949 年以降のドイツ歴代政権のなかで最も不人気だったと言えます。
――与党の社会民主党はなぜ、敗北したのでしょうか。
連立政権の第一党である社民党を率いたショルツ首相でしたが、連立政権で意見をまとめ上げられませんでした。
特に、ショルツ氏自身ではありませんが、社民党の指導者であるシュレーダー元首相や(同党副党首も務めた)北部メクレンブルク=フォアポンメルン州のマヌエラ・シュヴェーズィヒ首相らがロシアと非常に近い関係にあったため、ウクライナ戦争を通じて社民党が多くの信頼を失う結果を招きました。
ただ、実際の主な要因は、移民の大量流入とそれに伴う犯罪、特にイスラム過激派のテロがドイツ人の考えを完全に変え、以前よりもはるかに移民に対して不信感を抱くようになった結果だと思います。「社民党は、国境を厳格に管理してイスラム過激派の犯罪者に対処するつもりはない」と(世論から)見られていました。
――なぜ、AfDは第二党に躍進したのでしょうか。
AfDは元々、欧州の共通通貨ユーロに懐疑的な政党でしたが、二つのテーマを掲げて勢力を拡大してきました。
まず、AfDはドイツ全体では反移民政党です。さらに旧東ドイツ地域に限れば、「旧東ドイツの利益と見解」を(極左の)左翼党とともに擁護する政党でもありました。
さらに、AfD支持者は、(与党社民党による)新型コロナ対策や、「目覚めた」政策と呼ばれる2年ごとに人々が「認識された」性別を変更できるようにするジェンダー法の制定、(実際にウクライナ戦争などに歯止めがかからないのに)「平和」というテーマを掲げていたことなどに、懐疑的な人々が集まったグループとも言えます。
旧東ドイツ地域では、AfDの政策はロシアに対する批判的な姿勢が弱いとも認識されていました。こうした姿勢が(親ロシア・反西欧感情が残る旧東ドイツ地域で)支持を集めたのだと思います。
―― AfDとナチスとは何が違うのでしょうか。
AfDは、特に旧東ドイツ地域で地方政策に深く関わっています。同地域で市長は少ないものの、多くの地方議会で最大政党でもあります。AfDには過去、極右のために解散を余儀なくされた青年組織など、より過激な一派もいます。多くの旧東ドイツ地域の州では、AfDは国内治安機関である連邦憲法擁護庁やその地方組織によって監視され、「右翼過激派」というレッテルを貼られています。
ただ、AfDの政策方針は、ナチスなどの国家社会主義政党はもちろん、伝統的な「右翼」政党の政策方針とは非常に異なります。
AfD支持者の多くは、言論の自由に対する制約に非常に懐疑的です。「左翼の主流派が、自分たちが信じていないことを強制している」と考えているのです。テレビやラジオで(リベラルな立場を取る)公共放送が支配的な地位を占めているため、この傾向がさらに強まっています。
AfDはナチスではないものの、主流政党の理論から大きく逸脱しているところもあります。
キリスト教民主・社会同盟や社民党、緑の党などは欧州連合(EU)加盟をドイツ外交の要としていますが、AfDはEUからの離脱を検討しています。他の政治勢力が独裁国家とみなしているロシアに対しても、はるかに肯定的な見方もしています。
――今後、ドイツの外交・安全保障戦略はどう変化するのでしょうか。
ここ数年、ドイツの外相は緑の党出身者が占め、気候変動やいわゆる「フェミニスト外交」を進めていましたが、こうした動きは止まるでしょう。
メルツ次期首相は、いわゆる「ベルリン・パリ枢軸」、すなわちフランスとの緊密な協力関係を復活させようとする可能性が最も高いと思います。イスラエルとの良好な関係を維持し、明らかな政策の違いにもかかわらず、米国との関係改善も望んでいます。アジアでは、日本と韓国は価値あるパートナーとして、ドイツにとって非常に重要な存在であり続けるでしょう。
ドイツは他の欧州諸国と同様、安全保障に対する貢献の拡大、国防費の増額について議論していますが、新政権でパートナーとなりうるキリスト教社会・民主同盟と社民党では大きな意見の相違があります。徴兵問題も再び議論されるでしょう。
――ドイツ人はトランプ米政権をどうみていますか。
オールド・メディアや政界を中心とするドイツ人は、トランプ大統領や、イーロン・マスク氏がAfDに投票するよう主張したことに衝撃を受けました。
でも、一部の幹部を含む社民党のメンバー数人がかつて、米民主党から大統領選に立候補したカマラ・ハリス副大統領を直接支援するために訪米したことを忘れてはいけないと思います。ドイツ人が米国で問題なく(選挙に)介入できたのに、「米国政府がドイツの内政に介入したと非難するのはあまり誠実ではない」とも言えるのです。
――ドイツ総選挙の結果は他の欧州諸国の政治に影響を与えるでしょうか。
ドイツは欧州最大の国家であり、経済的にも最も強力な国です。現在、ドイツは2年間に及ぶ長期不況に陥っているため、他の全欧州諸国の経済を圧迫しています。新政府が景気回復を達成すれば、EUとヨーロッパ全体に大きなプラスの影響が及ぶでしょう。
第2に、大量移民の問題です。ドイツは欧州で最も寛容な社会制度を備えていますが、2015年以降、国境をほぼ開放しました。このため、シリア、アフガニスタン、エリトリアなどから、若い男性を中心に不法移民が大量に流入しました。テロ事件も何度も発生しました。
このため、ドイツ国民に移民に対する深い不信感が生まれ、反移民感情によるAfDへの投票数の増加や右派に反対する大規模なデモが見られました。こうした現象が収まれば、他の欧州諸国に非常に重要な影響を与えるでしょう。
ドイツの法律によると、「安全な」第三国に居住する亡命希望者は、ドイツに亡命を求める権利がありません。つまり、飛行機でドイツに来る人以外は、すでに安全な第三国、つまりEUパートナーにいるという結論になります。こうした国々は将来、移民に対して一層の責任を負うことになります。今後、欧州でさらに議論されるでしょう。
最後に、安全保障分野で懐疑的な姿勢を示す米国と、ロシアの拡張主義による差し迫った危険に対抗するため、ドイツは欧州がより強力に団結するために貢献することになるでしょう。