気候危機止めて、立ち上がる若者たち 日本に及ぶ「環境法廷」 動物を原告に訴えも
猛暑が続いた2024年8月、10~20代の若者16人が、火力発電所を運転する大手電力など10社を相手取った訴訟を名古屋地裁に起こした。
電力事業は日本のエネルギー起源の二酸化炭素(CO₂)排出量の約4割を占める。10社の多くは排出量の上位で、パリ協定の国際目標の達成を妨げないよう、排出の削減を求めている。
原告のプロフィルは様々だ。
安部芙祐実さん(27)は名古屋市の小学校教諭。子どもたちとすごすなかで気候危機を実感してきた。「熱中症指数」が高すぎて、外遊びや体育の授業ができない。登下校もつらそうで、暑さで集中できない子もいる。
「私が子どものころはそんなことなかったのに」。子どもたちに申し訳なく思う。
大阪市のアウトドア用品メーカーで働く仲地賢作さん(27)は、夏はサーフィン、冬はスノーボードと自然に触れる中で異変に気づいた。
線状降水帯などによる豪雨や台風の進路の変化で、お気に入りのサーフポイントが被害を受けた。降雪が減り、スノーシーズンが短くなっていく。「この2~3年で急激に変わった。将来は不安だらけです」
2人とも、個人で取り組む環境保全の活動だけでなく、構造的な変化が必要だと感じていた。そんなとき、浅岡美恵弁護士が理事長を務めるNPO「気候ネットワーク」が訴訟を準備していると知り、参加を決めた。
日本では、2017年から2019年にかけて仙台や神戸、横須賀で石炭火力発電所の運転や建設の中止を求める訴訟が4件提起された。ただ、いずれも棄却されている。
それでも、安部さんは「企業が変われば市民の意識も変わる。国も動かざるをえない。自分一人で伝えようとしても無視されるかもしれないが、裁判という形で対等に企業に向き合える」と期待する。
東京地裁では昨年12月、気候変動で初めて市民らが国を相手取った「気候正義訴訟」が起こされた。
国の対策が不十分で、「平穏に生活する権利」が脅かされていると主張。熱中症、異常気象で起こる災害などで、生命や健康についての権利や財産権(電気代など経済的負担の増加)などを侵害していると訴える。
原告は市民ら452人。SNSでの呼びかけがシェアされるなどして北海道から沖縄まで広がった。提訴時に開いた記者会見では、このうち5人が思いを語った。
「夏は何度も日陰で休みながらでないと働けない」。建設現場で働く立場から訴えたのが、東京都足立区の水道工事業、秋山喜一さん(58)だ。猛暑の中、ファンのついた服などを買う負担がかさみ、休憩を頻繁に挟むため、1日でと請け負った仕事が3、4日もかかる「被害」が生じているという。
原告らは、一人あたり1000円の損害賠償を求める。弁護団の島昭宏弁護士は「金額を争点にするのではなく、(国の対策が)違法で人権を侵害している、という司法の判断を引き出すための裁判だ」と説明。国家には気候変動対策を取る義務があるとした国際司法裁判所(ICJ、ハーグ)が昨年7に出した勧告的意見も、主張に盛り込んでいく。
日本の気候訴訟のさきがけは、気候ネットや島も参加した通称「シロクマ訴訟」だ。気候変動をもたらすCO₂の排出を「公害」だとして国の公害等調整委員会に訴えたが認めてもらえなかった。
そのため2012年、温暖化の影響を受けるシロクマ(ホッキョクグマ)も原告に含め、却下の取り消しを求めて国を訴えた。訴えは棄却され、シロクマについては当事者能力はないとされた。
シロクマ訴訟は、動物の声を代弁する自然の権利訴訟でもあった。
係争中なのが、沖縄・石垣島の「カンムリワシ訴訟」だ。2023年9月、リゾート開発計画をめぐり、住民たちが、国の特別天然記念物カンムリワシを原告に加えて提訴した。沖縄県が求めた環境の調査や保全策に事業者が一部応じておらず、原告は生物調査のやり直しや計画の見直しを求めている。
日本初の自然の権利訴訟は1995年、鹿児島・奄美大島のゴルフ場開発許可の取り消しを求めた裁判だ。自然保護団体と住民はアマミノクロウサギなどの動物を原告に加えた。
米国で野生動物などの「自然」を原告にした裁判が起こされていると知った籠橋隆明弁護士のアイデアだった。勝訴の可能性は絶望的だったが、動物を原告にする「一種の表現行為」(籠橋弁護士)を通じて社会にアピールできるのではと考えたという。
2001年1月、鹿児島地裁はクロウサギらに原告になる資格がないとして訴えを却下。敗訴となったが、判決は「自然が人間のために存在するとの考え方を押し進めてよいのかは、検討すべき重要な課題」と指摘。「現行法の枠組みのままでよいのかという問題も我々に提起した」と言及した。景気の悪化などもあり、ゴルフ場の建設計画は頓挫した。
その後も、各地の開発や工事をめぐってナキウサギ、ホンドタヌキ、アカウミガメなどを原告とした裁判が10件以上、起こされている。沖縄県の普天間飛行場の代替基地建設をめぐっては2003年、米国の裁判所に原告となったジュゴンの保護を求めて訴えた。
だが、日本ではまだ、自然の権利を認める判決は出ていない。