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学校現場で病院で「やさにち」 日本人にも役に立つ

LifeStyle 更新日: 公開日:
聖心女子大の岩田一成教授は、学校でふだん出しているお知らせをどうやって「やさしい日本語」に書き換えてわかりやすくするか、事例を使って示していった=2025年12月、熱海市立桃山小学校、藤崎麻里撮影

「やさしい日本語」、略して「やさにち」をご存じだろうか。1995年の阪神大震災の際、日本人だけでなく外国人の命も守る意思疎通の必要性が痛感されたことに端を発する。日本在住の外国人やインバウンド旅行者が増える今、学校や病院などで広める動きが進む。

 

昨年12月のある放課後、静岡県熱海市。桃山小学校に校長・教頭や教職員、そして地域の他校の教職員が集まった。今年度2度目の「やさしい日本語」研修のためで、講師は日本語教育が専門の聖心女子大の岩田一成教授(51)だ。

前回、宿題が出ていた。学校が配る「おたより」を、やさしい日本語で書きなおす、というものだ。もってまわった書き方では、何が求められているのか、とくに外国ルーツの子の保護者には分かりにくい。時候のあいさつは不要なのでばっさり省き、伝える対象をはっきり絞り込むとよい、と助言もあった。

「あらかじめ1ページと決めて分量を減らしたこと、子どもだけでも読めるようにふりがなを振ったのはいいですね」「見出しは『~について』よりも、『~を持ってきてください』と書いた方がいい。1行目を読んだだけで分かる」。岩田教授が講評していく。

熱海市内の複数の学校の教員らが学びに来ていた=2025年12月、熱海市立桃山小学校、藤崎麻里撮影

昨年度に研修を受けた熱海第二小の今福勝教頭(52)は、「あいさつがないと失礼なのでは、と思ってしまいがちだ。だが、このスタイルに改めたら、問い合わせが来なくなった」と話す。日本語ネイティブにとっても、分かりやすく変わったからだという。

岩田教授は言う。「簡単な言葉を使ったり、あいさつを省いたりすると手抜きととられかねない。学校全体で理解を求めて取り組むことが重要だ」

文章をやさしくするには

ちなみに、文章をやさしくするポイントは、次の①~④の通りだ。

  1. 一文を短くする
  2. 尊敬語と謙譲語は避けて「です・ます」を使う
  3. 漢語や外来語の難しい言葉を避ける
  4. 漢字にはふりがなを振る

話す場合には、「です」「ます」で言い切ると分かりやすい。区切りが分かりやすいよう、一文を長くしないよう心がけるのが、相手への「やさしさ」だという。

6月に講義を受けた後から、桃山小学校の藤原睦養護教諭(28)は実践に生かし始めている。思い当たる節もあったからだ。

「『ほけんだより』を誰も読んでいないのではないかと薄々感じていて。読んでもらっていないのでは意味がない」

紙を埋めるようにではなく、焦点を絞って書くようになった。

熱海市立桃山小学校の保健室にはられている掲示物。やさしい日本語講座を受けた藤原睦養護教諭が、来日まもないネパールからの児童のためにつくった。日本人の児童が一緒に話題にしてくれて、うれしかったという=2025年12月、熱海市立桃山小学校、藤崎麻里撮影

思わぬ落とし穴も

学校では、思わぬ落とし穴もある。たとえば「連絡帳」「赤白帽子」のように、その学校の在校生や保護者なら知っているのが当然だとして、説明なしに使われる言葉の存在だ。

教科の学習で出てくる難しい言葉や概念なら、先生も意識的に説明してくれる。一方、学校特有の言葉のほうは、外国人だけでなく、転校生にさえ理解不能な場合もある。

鹿児島県や宮崎県、愛媛県の一部で使われる「ラーフル」(黒板消しのこと。オランダ語起源とも言われる)はまだ知られている方だろうが、では千葉県の一部で使われる「パンザマスト」と聞いて分かるだろうか(防災行政無線から夕方に流れる音楽のこと。「パンザマストが鳴ったら家に帰りましょう」のように使う)。

病院の場合も、相手が誰かによって「やさしさ」は変わってくる。痛みの程度や様子を「きりきり」「しくしく」といったオノマトペで表現すると、お年寄りや子どもには伝わりやすい。一方で、外国人にはオノマトペは通じにくく、「10段階で表すなら何番目か」といった尋ね方のほうがよい場合がある。

難民支援などの現場で働く日本語教師の矢崎理恵さん(66)は言う。「相手が理解できるまで伝え方を工夫するのが『やさしい日本語』だったはず」。簡単に読めるという意味の「易しい」と、相手に伝わるかどうかおもんぱかる「優しい」の両方そろってこその「やさしさ」だ、という指摘だ。岩田教授も言う。「いろんな人に分かりやすい、日本語のユニバーサルデザイン化だと理解してほしい」

やさしい日本語になっているかどうか判定するツールの一つ「やさにちチェッカー」に、書き直し中の記事を入れてみた
やさしい日本語になっているかどうか判定するツールの一つ「やさにちチェッカー」に、書き直し中の記事を入れてみた。文の長さや、文一つあたりの名詞の数などに基づき、診断している