学校現場で病院で「やさにち」 日本人にも役に立つ
昨年12月のある放課後、静岡県熱海市。桃山小学校に校長・教頭や教職員、そして地域の他校の教職員が集まった。今年度2度目の「やさしい日本語」研修のためで、講師は日本語教育が専門の聖心女子大の岩田一成教授(51)だ。
前回、宿題が出ていた。学校が配る「おたより」を、やさしい日本語で書きなおす、というものだ。もってまわった書き方では、何が求められているのか、とくに外国ルーツの子の保護者には分かりにくい。時候のあいさつは不要なのでばっさり省き、伝える対象をはっきり絞り込むとよい、と助言もあった。
「あらかじめ1ページと決めて分量を減らしたこと、子どもだけでも読めるようにふりがなを振ったのはいいですね」「見出しは『~について』よりも、『~を持ってきてください』と書いた方がいい。1行目を読んだだけで分かる」。岩田教授が講評していく。
昨年度に研修を受けた熱海第二小の今福勝教頭(52)は、「あいさつがないと失礼なのでは、と思ってしまいがちだ。だが、このスタイルに改めたら、問い合わせが来なくなった」と話す。日本語ネイティブにとっても、分かりやすく変わったからだという。
岩田教授は言う。「簡単な言葉を使ったり、あいさつを省いたりすると手抜きととられかねない。学校全体で理解を求めて取り組むことが重要だ」
ちなみに、文章をやさしくするポイントは、次の①~④の通りだ。
話す場合には、「です」「ます」で言い切ると分かりやすい。区切りが分かりやすいよう、一文を長くしないよう心がけるのが、相手への「やさしさ」だという。
6月に講義を受けた後から、桃山小学校の藤原睦養護教諭(28)は実践に生かし始めている。思い当たる節もあったからだ。
「『ほけんだより』を誰も読んでいないのではないかと薄々感じていて。読んでもらっていないのでは意味がない」
紙を埋めるようにではなく、焦点を絞って書くようになった。
学校では、思わぬ落とし穴もある。たとえば「連絡帳」「赤白帽子」のように、その学校の在校生や保護者なら知っているのが当然だとして、説明なしに使われる言葉の存在だ。
教科の学習で出てくる難しい言葉や概念なら、先生も意識的に説明してくれる。一方、学校特有の言葉のほうは、外国人だけでなく、転校生にさえ理解不能な場合もある。
鹿児島県や宮崎県、愛媛県の一部で使われる「ラーフル」(黒板消しのこと。オランダ語起源とも言われる)はまだ知られている方だろうが、では千葉県の一部で使われる「パンザマスト」と聞いて分かるだろうか(防災行政無線から夕方に流れる音楽のこと。「パンザマストが鳴ったら家に帰りましょう」のように使う)。
病院の場合も、相手が誰かによって「やさしさ」は変わってくる。痛みの程度や様子を「きりきり」「しくしく」といったオノマトペで表現すると、お年寄りや子どもには伝わりやすい。一方で、外国人にはオノマトペは通じにくく、「10段階で表すなら何番目か」といった尋ね方のほうがよい場合がある。
難民支援などの現場で働く日本語教師の矢崎理恵さん(66)は言う。「相手が理解できるまで伝え方を工夫するのが『やさしい日本語』だったはず」。簡単に読めるという意味の「易しい」と、相手に伝わるかどうかおもんぱかる「優しい」の両方そろってこその「やさしさ」だ、という指摘だ。岩田教授も言う。「いろんな人に分かりやすい、日本語のユニバーサルデザイン化だと理解してほしい」