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6人に1人が外国籍の小学校 先生が「ここの子どもは本当に幸せ」と言う理由

World Now 更新日: 公開日:
田富小学校の通訳、岡本リジアさんから勉強を教わる子ども=2020年9月、山梨県中央市

山梨県中央市に「児童の6人に1人が外国籍」という小学校がある。市立田富小学校だ。日系ブラジル人が多く暮らす地域にあり、学校には通訳もいるという。このまま日本に住む外国人が増え続けると、将来はありふれた光景になるかもしれない。そんな学校の1日を見せてもらうと、言葉の壁にぶつかりながらも、人手不足の中で奮闘する教員たちの姿があった。(中村靖三郎)

田富小は約340人の児童数のうち外国籍の子どもがブラジル人を中心に57人に上り、日本語をほとんど話せない子どももいる。また、日本国籍があっても、日本人と外国人の両親が離婚し、外国人の親に引き取られた場合など、日本語に触れる機会がないまま育つこともある。藤巻稔校長(60)は「日本語サポートが必要な子どもは2割近くになる」と話す。

ローマ字がふられた田富小学校の校歌=2020年9月、山梨県中央市

ブラジル人ならポルトガル語が母語となるが、大半の教師は理解できない。しかも外国人の親は派遣社員が多く、仕事の都合で1週間前のような急な転出入となることも珍しくない。このような難しい環境でも、教師たちは子どもたちと精いっぱい向き合っていた。

午前、5年生のクラスをのぞくと、最前列に座った男子児童の隣に、ぴったりと日本語指導の教師が寄り添ってサポートしていた。これは「入り込み指導」と呼ばれる手法だ。授業についていけない子どもを「日本語教室」という名前の別の教室で指導する「取り出し指導」もある。ただ、いずれも難点は人手がかかること。田富小には昨年度まで、県の予算で二人の日本語指導と市の予算で一人の通訳が配置され、さらに今年度は文部科学省の事業で午前中だけ日本語指導の教員2人が増員された。それでも教員の数は十分でなく、増員も期間が限られた臨時的なものだ。

クラスと離れて個別に日本語や勉強を教わる「取り出し指導」=2020年9月、山梨県中央市の田富小学校

給食の時間、2年生のクラスをながめていると、外国籍の子どもが直面するのは言葉の壁だけではないことが分かった。元気に昼食をほおばる児童の中で、箸をぎこちなく持ちながら、ほとんど手をつけられない子どもがいた。日本の食事は味覚が合わず、給食を食べられない外国人の子どもは珍しくないという。「パンは食べるんですが、ご飯は全然食べない。『おなかがすいていない』と言うんですが……」と女性教師は心配そうに見守る。

外国籍の子どもの中には、給食が全く食べられない子どももいる=2020年9月、山梨県中央市の田富小学校

放課後になると、「日本語教室」に続々と子どもたちが集まりだした。元々は週に2回、主に外国籍の子の宿題や自習を指導していたが、日本人も参加して「共生」するようになった。

「17引く7は?」。通訳の日系ブラジル人、岡本リジアさんが勉強をみながら、時折ポルトガル語も交えて語りかけた。「たまにはポルトガル語も話さないと、子どものストレスがたまって集中力が下がっちゃう。私が入ることで、子どもたちが『あー、分かった!』と言うのが一番うれしいです」

通訳の仕事も多岐にわたる。学校からの便りをすべて翻訳し、日本語が話せない親からの問い合わせを一手に引き受ける。「明日は何を学校に持っていけばいい?」「連絡帳には何と書いてありますか?」。早朝や夜にも親から届くメッセージに一つ一つ答えていく。

ドッジボールをする田富小学校の子どもたち=2020年10月、山梨県中央市

日本人とブラジル人の双方に文化や習慣の違いを伝えるのも重要な役割だ。教師が慌てるような場面も少なくない。「家族の誕生日だから学校を休みます」と連絡が来たり、「神社には行かせられない」と修学旅行に参加しなかったり。「親が市役所に行くのに子どもが通訳として必要だ」と休ませるケースもある。「兄弟の運動会があるので学校を休む」と連絡があったときは、家を訪ねて親を長時間説得し、学校に連れてきたこともあったという。

学校による地道な日本語サポートが実り、着実に成長する子もいる。日本語指導の谷口あゆみさん(26)は、「1年生のときは『分からない』とわんわん泣いていたのが、いまでは国語も算数も全部100点という子もいる」と手応えを感じている。学年が上に上がるほど、言葉が通じない中で勉強を教える難度は増すが、「1日5時間の授業全部が分からない、という状態から、せめて1時間でも分かるようになれば」と力を込める。

田富小学校の校内にある日本語教室=2020年9月、山梨県中央市

一方、同僚の清水ひとみ教諭(46)は、日本人の子どもたちも成長していると実感している。「田富小の子どもは外国人がいるのが当たり前。違う文化を学べて『国際化』が染みついている」と感心する。学校に来たばかりで言葉も分からない子どもに上手に教えたり、相手が何と言っているのか考えたりすることを自然と身につけているという。清水さんは20代の頃、青年海外協力隊員として中米ホンジュラスへ赴いた経験がある。「ここの子どもたちは異国の言葉を受け入れるのが早い。本当に幸せだと思う」

■日本語指導が必要な子ども、5万1千人

文部科学省の調査(2018年度)によると、日本語指導が必要な子どもは全国の公立小中高校などで約5万1千人に上り、16年度から約16%増えた。

だが、教育支援の態勢は十分とは言えず、子どもや親とやりとりする上で欠かせない通訳の配置も市町村任せとなっているのが実態だ。財政負担から常勤の通訳を置けない自治体もある。ある小学校関係者は「通訳がいないと回らないのに、末端の現場で『どうにかしなさい』ということでいいのか。10年後、そんな悠長なことは言っていられない」と警鐘を鳴らす。