日本の国勢調査はQRコードを活用 データに基づき外国人との向き合い方を考える
少子高齢化などで国勢調査の調査員のなり手が減る一方、日本に暮らす外国人は増えています。人手をかけず、言葉の壁を越えて回答率を上げることが求められています。
国勢調査で得られたデータをどう活かすかも重要です。
排外的な主張が広がるなか、増える外国人との向き合い方について、データを基にした冷静な議論が重要です。
日本では昨年10月に国勢調査があったばかりだ。一定の条件を満たす外国人も調査の対象になる。質問は「国籍」を簡潔に問うものもあれば、「5年前にはどこに住んでいましたか」と少し込み入った内容もある。そんな国勢調査を、まずは外国人たちがどう感じているのか。調査に答えた留学生に聞きに、東京23区の中でも外国人が多い江戸川区にある日本語学校「東洋言語学院」に向かった。
東京メトロ東西線の西葛西駅から10分ほど歩き校舎に着くと、授業を終えた生徒らが談笑しながら出てきた。
中国からの留学生、王超敏さん(29)は「スマートフォンでQRコードを読み込みました。10分かからずに答えられ、簡単でした」。英国出身のマシュー・ペッパーさん(31)も「シェアハウスで一緒に住んでいる日本人の友人に助けてもらい、スマホで回答しました」。2人とも事前にインターネットで国勢調査があるというニュースやお知らせを読んでいて、スムーズに対応できたと話す。予想したより問題なく答えていた。
総務省によると、2025年1月1日時点の住民基本台帳に基づく外国人の人口は367万7463人。都道府県別では東京都が最も多く72万1223人だった。同じく住民基本台帳を基に東京都が発表した同年10月1日現在の23区内の外国人人口を見ると、江戸川区が5万1800人で、新宿区をわずかに上回り最多だった。
その江戸川区では、国勢調査について外国人向けの対応を取ったのだろうか。同区生活振興部地域振興課長の中沢清人は、「江戸川区は外国籍の方を分けた対応は考えていません」とし、国が示す実施方法に従いつつ、区として独自に対策はとらなかったという。調査票の書き方がわからないので教えてほしい、と区役所に直接来た外国人は、多い日で1日10人以上いたというが、「多くの方が日本の会社や介護施設などで働いていて、わからないことは職場で教えてもらうようです。日本に来たら日本のルールに従うということを、みなさん理解しているのだと思います」。
国勢調査で「国籍」についての質問が入ったのは、1920年の第1回からだ。日本は当時、台湾、樺太、朝鮮半島、南洋群島を植民地にしたり、委任統治したりしていた。日本本土に住む日本人と区別するため「民籍」という言葉を用いて「民籍または国籍」を尋ねたが、1945年の終戦で「民籍」はなくなった。
第1回からちょうど100年後の前回2020年の国勢調査で外国人は274万7137人だった。今回はさらに増えることが見込まれる。国勢調査を所管する総務省統計局の統計調査部国勢統計課の課長補佐・井岡貴司さんは「外国人が増えているので、(回答率を上げて)うまく把握することが課題になってきている」と話す。
そのため今回の調査では、外国人向けのリーフレットを作ってQRコードを掲載。スマホで読み込めば28言語で調査についての説明を読め、7言語で回答できるようにした。戸別訪問する調査員の負担を軽くするためにも、外国人にはまずこのリーフレットを渡すよう伝えたという。「人を介さずに解決できるようにするには、スマホを使うのが一番理想的だと考えました」と井岡さんは説明する。
調査結果は、「人口」を基に衆院選小選挙区の決定に、通勤・通学に伴う「昼間人口」などは防災対策に、さらにはコンビニエンスストアの出店計画など多方面に活用される。将来の人口についての予測もその一つだ。
国立社会保障・人口問題研究所が国勢調査の結果に基づいて2023年に公表した「日本の将来推計人口」では、2070年に日本の人口の10.8%が外国人になると予測する。
同研究所の国際関係部長・是川夕さんは、日本は少子化や人手不足で外国人を雇いたいと考える企業などが増えており、外国人からも「趨勢(すうせい)的に選ばれる国になっている」と言う。
送り出す側のアジア諸国は経済成長を続け「中所得国」になってきており、さらに「高所得」の国をめざす中産階級が増加。受け入れ側の日本では、働くためのビザや永住権取得のハードルは高いものの、取得のための条件は明確にされていてライフプランが立てやすいため「ハードルを越えられるだけの実力のある人が日本を選んでいる」という。
ところが日本では最近、参院選で「日本人ファースト」を掲げる参政党が躍進し、高市政権は「国民の不安」を理由に、外国人政策の厳格化を検討している。
排外的な主張が広がる理由について是川さんは、「一つにはインバウンド(訪日外国人旅行者)が増えていることと、外国人人口が増えていることを混同している人が多い」と見る。一部地域でオーバーツーリズムの問題が出ていることは確かだが、外国人が社会保障にただ乗りしているとか、犯罪率が上がっているといったことは「基本的に事実誤認」と言う。「さまざまなデータを見ていて、外国人が増えて困るという話にはならないだろう」とし、「政治家などポリシーメーカーには正しい情報を知っていてほしい」と話す。
明治大学政治経済学部の加藤久和教授は「国勢調査から将来の計画や見込みが生まれてくる。これがしっかりしていないと将来の青写真を描けなくなってしまう」。少子化が続き、外国人が増えている日本の現実を前にこう言う。「これからどう外国人と向き合っていくのか、国勢調査の結果やそれに基づく予測を用いて、『民主的』に議論ができればよいと思います」