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アメリカ建国時から続く国勢調査の「区分」の矛盾 「必要以上に人種に固執」と反発も

World Now 更新日: 公開日:
850万人がひしめくニューヨークには様々な人が暮らしている=2025年11月、ニューヨーク、
850万人がひしめくニューヨークには様々な人が暮らしている=2025年11月、ニューヨーク、坂本真理撮影

近代で初めての民主主義国家の建設にあたり国勢調査を始めたアメリカ。
世界中から移民が集まってできた国だからこそ、国勢調査での「人種」の質問は複雑になっているようです。
最近では人種によって政策決定をすることへの反発も強まっています。

米国の国勢調査で「人種」の質問がこれほど複雑になっているのは、世界中から移民が集まった国の成り立ちが影響している。同時に、建国時から抱える矛盾の表れでもある。国勢調査は米国で始まったわけではない。しかし、近代で初めての民主主義国家の建設にあたり、各州への議員数の割り当てを決めるため、人口を知ることが不可欠となった。そこで国勢調査が特に重要となり、10年に1回行うことが憲法にも盛り込まれた。

ところが、今度は「誰を人口として数えるのか」という問題が生じた。奴隷制があった南部の州は「黒人奴隷も人口として数えるべきだ」、北部の州は「投票権を持たない奴隷は数えるべきではない」と主張した結果、「奴隷は5分の3人として数える」という折衷案が生まれた。結果として、1790年に実施された最初の国勢調査から「自由人」「奴隷」という実質的な「人種項目」が設けられた。

19世紀半ばから項目は「白人」「黒人」と「色」によって分けられるようになったが、1860年には「インディアン(先住民)」、さらに1870年には「中国人」、1890年には「日本人」の区分が生じる。移民の増加を受けての変更だったが、それまで「肌の色」で定義されていた人種に「国籍」の概念を持ち込むこととなった。同時に、「白人」と「それ以外」を分ける形にもなった。

さらにややこしくさせたのは、「ヒスパニック」の概念だ。1960年代に中南米系の人たちを数えるべきだという機運が生じ、「人種」ではない「民族」のくくりで「ヒスパニックか否か」を問う趣旨の質問が1970年から段階的に盛り込まれた。その後も、人種や民族をめぐる質問はより細かい方向へと向かっている。

さまざまな人が行き交い、にぎわうタイムズスクエア=2022年10月、ニューヨーク
さまざまな人が行き交い、にぎわうタイムズスクエア=2022年10月、ニューヨーク、朝日新聞社

一方、人種によって政策決定をすることへの反発も強まっている。トランプ政権は人種や性別などを考慮する「DEI(多様性・公平性・包摂性)」に反対し、「人種を考慮しない能力主義」を主張する。もっとも、「人種を考慮すべきではない」という動きは前からあった。

象徴的な例の一つが、大学の入学者選抜における「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」をめぐる争いだ。元々は「人種差別がないように配慮する」という意味の言葉だったが、入学者選抜では次第に「多様性を保障するため、マイノリティーを優遇する」という趣旨で使われるようになった。

その是非は何度も裁判で争われ、連邦最高裁は限定をつけつつ認めてきた。だが、全てのマイノリティーが優遇されているとは限らない。アジア系の志願者らが「成績だけで判断したら合格者が増えているはずなのに、人種を考慮することで逆に不利になっている」としてハーバード大などを訴えた訴訟で最高裁は2023年、人種の考慮は「法の平等保護を求める憲法に反する」と判断し、多くの大学が採用してきた方法では違憲だとした。

訴訟を起こしたNPO「公平な入学選考を求める学生たち」の代表、エドワード・ブルムさんは「過去に米国でひどい人種差別があったことは事実で、多くの米国人はそのことを認識している。だが、過去の差別を新しい差別で是正することには、多くの人が抵抗感を持っている」と話す。

企業や政府の採用などでもアファーマティブ・アクションは用いられてきた。ブルムさんはこういう分野でも訴訟を手がけており、今後も広めていく方針だ。そのうえで、国勢調査の変化についてはこう語る。「現在用いられている人種の区分は歴史的な経緯もあり、存在する理由は分かる。しかし、新しい区分を設けたり、さらに細かくしたりすることは、必要以上に人種の違いに固執することになり、大きな間違いだ。現在の政権が見直し、撤廃することを期待する」