ハーバード大学が卒業生や寄付者の子弟を優先的に入学させていることに対する教育省の公民権調査は、有色人種の学生を含むより優秀な志願者よりも、不適格な志願者を優遇しているとの訴えに基づくものである。
新しいデータによれば、エリート私立大学では、レガシーと呼ばれる卒業生の子どもたちは、入学事務局が判断するところでは、一般的な志願者よりも実際わずかに優秀である。
ハーバード大学の研究グループ「Opportunity Insights(オポチュニティー・インサイト)」の分析によると、たとえレガシーだということが考慮されなかったとしても、彼らは他のすべての資格や人口統計学的特徴、親の収入や学歴を背景に、同じテストスコア(試験の得点)の志願者よりも合格する可能性が約33%高くなる。
研究者たちは、彼らがより教育程度の高い家庭で育っていることを考えると、これは驚くべきことではないと指摘した。おそらく、彼らの親は教育により多くの資金を投入でき、私立学校や特権的なスポーツのような分野によりカネを使い、大学側が何を求めているかについて見識がある可能性が高いだろうというのだ。
とはいえ、多くのエリート大学では、同窓生の子弟であることで得られる選考に際しての有利さはそれよりもはるかに大きい。7月下旬に発表されたデータによると、彼らは、テストで同じ点数を取ったほかの志願者よりも、入学が許可される可能性が4倍近く高かった。また、最も裕福な層1%の家庭出身のレガシーたちは、入学許可の可能性が5倍だった。
この最新研究は、エリート大学12校のうち、いくつかの大学の合格に関する内部データをもとにしている。アイビーリーグを構成する大学(訳注=ハーバードなど8校)とデューク大学、MIT(マサチューセッツ工科大学)、シカゴ大学、スタンフォード大学の計12校だ。
研究者たちは、情報提供を受けた大学に大学名を明かさないことを約束したので(研究対象に)ハーバード大学が含まれているかには言及していないが、このグループ内の大学では、MITを除き、入学審査の方式はおおむね一貫していたと言っている。
研究者たちは、レガシーが彼らの親の通っていた大学に合格する可能性と、ほかのエリート大学に合格する可能性を比較した。その結果、他の大学に合格する可能性は、同じ点数の一般の志願者よりわずかに高いことを突きとめた。
しかし、それは親が通っていた大学を受験する際のアドバンテージに比べればささいなものだった。
「ある人は、『レガシー贔屓(びいき)は、彼らがレガシーだという理由ではなく、本当に優秀な生徒だから正当化されるのだ』と言うだろう」とブラウン大学の経済学者で今回の論文の筆者の一人ジョン・N・フリードマンは語る。「そして、他の大学の合格率が少し高いことも事実だ。でも、そのほとんどは彼ら自身の学校における純粋なレガシー好みによるものだ」
エリート大学の入試で、レガシーたちが有利なことはすでによく知られている。しかし、内部の入試記録を分析することで定量化したのは今回のデータが初めてだ。
フリードマンやハーバード大学の経済学者ラージ・チェティとデビッド・J・デミングといった研究者たちは、生徒がどこの大学に出願し、入学したか、低所得学生向けの「ぺル・グラント」(訳注=米政府が支出する返済不要の奨学金)の受給の有無、さらにはSATスコア(訳注=米の大学進学希望者を対象にした適性試験の成績)や受験生の親の1999年から2015年までの所得税記録など包括的なデータを分析した。
研究者たちは所得税記録など最新データを使って、研究対象であるエリート12校の卒業生たちの状況を分析した。その結果、レガシーたちは、その他の卒業生と比べて、収入面で上位1%に入る可能性やエリート大学院に進む可能性、あるいは一流企業で働く可能性も高くなかった。どちらかと言えば、その可能性はわずかに低かった。
「これは、不適格な学生が入学しているという意味ではない」とマイケル・ハーウィッツは指摘する。「カレッジボード」(訳注=SATなどを運営する非営利団体)で政策研究を主導して同様のパターンを突きとめ、レガシー入学に関する研究を行ったハーウィッツは、「しかし、定員の10倍いる適格な受験生の中から合格者を絞るとなると、こっそりと控えめに優遇するだけでも統計学上はかなり大きな数字になる」と言っている。
選考に際してレガシーたちが優遇されていることについて、民主・共和両党の議員と大統領ジョー・バイデンが最近、疑問を投げかけた。連邦最高裁は2023年6月、人種に基づくアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)は違憲だとの判決を下した際に、この問題を提議した。
「この優遇措置は志願者の実力とは何の関係もない」と、教育省に訴状を提出した公民権弁護士は書いている。「むしろ、それは志願者の出自にのみ基づいて与えられる不公平で不当な恩恵だ。この慣習や様式、慣行は排他的で差別的である。それは有色人種の志願者に重大な不利益と損害を与える」と言うのだ。
レガシーたちは白人であることが多い。最高裁に提出された2019年のデータ分析によると、ハーバード大学では10人のうち7人が白人だった(18歳のアメリカ人の約半数が非ヒスパニック系の白人だ)。この分析は、レガシー優遇をやめれば非白人の数が増えると結論付けている。
また、レガシーたちは裕福な家庭の出身者である可能性が高い。レガシーたちの中でも最も裕福な生徒が有利だということが、オポチュニティー・インサイトの研究者たちが今回発表したデータで判明した。
エリート大学は、いくつかの理由からレガシー(の入学)を優先しているのだと言っている。卒業生との強い絆を保つのに役立ち、寄付や人脈づくり、共同体意識の維持に役立つ。合格すれば、卒業生の子どもたちは入学する可能性が非常に高く、それは入試事務局が言う「歩留まり率」を高めることになる。
ところが最近、ウェズリアン大学(訳注=コネティカット州に本部を置く大学で、少数精鋭教育が特色)のようないくつかの私立名門校がレガシー優遇をやめ、コロラド州の公立大学はこの慣行を禁止した。
ハーバード大学の広報担当は声明で、次のように述べている。「私たちは、最高裁の最近の決定を受けて、選考方針の見直しを図っている。法律を順守し、特異な才能や幅広い経歴、考え方、人生経験を有し、並外れた才能と将来性を備えた学生たちを歓迎するというハーバード大学の長年の取り組みを推進するためである」
アイビーリーグの入学担当部長は匿名で、次のように述べた。レガシーたちは資質が劣っているとか白人が圧倒的に多いという世間一般の認識は、アイビーリーグを構成する大学やその仲間の大学には当てはまらない。
「確かに学術面においては、レガシーたちはきわめて優秀だ」と同部長は指摘する。「そして、大学は時の経過とともにより多様化しており、レガシーの志願者たちもかつてと比べ、一段と多様化しているのだ」と言っている。
それでもなお、同部長はこうも言う。「圧力は以前にも増して強くなっており、選考過程でレガシーたちを優遇する理由を説明するのが、ますます困難になってきている」(抄訳)
(Claire Cain Miller、Aatish Bhatia)©2023 The New York Times
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