1. HOME
  2. World Now
  3. 日本の大学、世界順位で低迷「古くて新しい」グローバル教育問題、東大副学長が語る

日本の大学、世界順位で低迷「古くて新しい」グローバル教育問題、東大副学長が語る

World Now 更新日: 公開日:
東京大学の安田講堂
東京大学の安田講堂=2011年11月、東京都文京区

――イギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が発表した2023年の「世界大学ランキング」で東大は39位でした。日本の大学としてはトップですが、どうとらえていますか。

大学としてどこまでランキングを気にするべきか、学内でも議論があります。日本の大学のランクを下げている理由は、主に国際性の指標だと思いますが、共著論文の数や外国人教員の数、英語授業などいろいろ要素があります。英語による授業や学部生の留学生数をもっと増やしていかなければならないでしょう。

たとえば、東大にくる留学生は増えていて、現在は5千人を超えています。全体の学生は3万人なので、留学生の割合としては多い。ただ、圧倒的多数が理工系の大学院生です。大学院は日本語がそれほど堪能ではなくても、分野によっては先生と英語でコミュニケーションをしながら研究ができます。

一方、学部の留学生は2パーセント程度に過ぎません。大学1年生の年齢で日本語が十分にできる外国人学生は限られており、英語による授業がなければ、日本で学ぶことが難しい。東大に限らず、日本の大学の学部では英語で学ぶ機会が非常に限られています。

多様性の欠如も問題です。東大は男女比だけでなく、学生の多くが私学男子校出身という点でも偏りがあります。

学校推薦などで地方の公立高校出身者の受験を促していますが、大学はまだかなり均質な空間です。世界のいろんな価値観、やり方を取り込まなければいけないという危機感が必要です。

――東大はこの4月に「グローバル教育センター(Center for Global Education: GlobE)」を開設しました。なぜいまなのでしょう。

いまさらグローバル教育かという人もいるかもしれません。グローバル教育がなかなか進まない理由や言い訳はたくさんあるのですが、やらなければならないのは間違いない。グローバル化を徹底的に支えるという意味で、学生のための「グローバル教育のコンシェルジュ」になろうと思っています。

まず、外国からの留学生と日本人の学生の双方が英語で教養的、学際的な内容を学べるようにするため、主に3、4年生向けに少人数の英語による授業を増やします。一つの授業は2単位で、いくつもの授業を履修できるようにします。

教員は50人規模で、日本国籍をもっていない人が35人くらい。外国人教員が全体の半分以上を占めます。会議は原則、英語と日本語を併用し、外国人、女性比率の高い組織をめざしています。

学生の空間的バリアを乗り越えるため、ポストコロナでも、対面とオンライン、ハイブリッド型(対面とオンラインの両方)を併用していきます。授業はいまの時代に大切なSDGsに絞ります。様々な専門性と関連づけられるというメリットもあります。

たとえば専門が化学の学生でも、それをよりグローバルなコンテクストで学んでみるとか、環境やサステビリティの観点から考える、ということができるようになってほしい。

――英語教育は日本の長年の課題ですが、グローバル教育をどうとらえていますか。

「アイビーリーグ」など欧米の一流大学に行くのももちろんいいことですが、アジアにもっと目をむける必要もあります。世界を変革する夢を持っている海外の学生たちと交流し、双方にグローバルな人材を育てたいと思っています。

たとえば、バングラディシュにはアジア女子大学(AUW:Asian University for Women)というユニークな女子大があります。南アジアの貧困地域出身で、学ぶ機会が限られた優秀な女性たちを集めて教育しており、アフガニスタンから300人以上、ロヒンギャも100人以上が学んでいます。

普通であれば日本などに来る機会はなかなかない学生ですが、今年の夏に学生を東京に招き、東大生と共に10日ほど、移民と難民をめぐる諸問題について学びます。そうすることでお互いに刺激し合い、成長していけると信じています。

私自身、1月にこの大学を訪問したのですが、衝撃的でした。教えることの責任を真剣に考えないといけないと思ったからです。彼女たちは一生懸命に勉強しているけれども、それが幸せにつながるとは限らない。教育を受け、考える力を身につけることで、自らの社会の矛盾を強く感じるようになるし、女性の教育を認めないアフガニスタンにはもはや帰ることもできない。

体を覆う伝統衣装ブルカ(中央)を身につける女性たち
体を覆う伝統衣装ブルカ(中央)を身につける女性たち=2022年6月、アフガニスタン東部ジャララバード郊外、乗京真知撮影

また、多くのロヒンギャはバングラディシュの難民キャンプから来ています。パスポートすら持っていないわけで、卒業しても身分がなければ就職もできず、難民収容キャンプに戻らざるを得ない。せっかく学んだことが活かせないわけです。

ロヒンギャの子どもたち
ロヒンギャの子どもたち=2020年1月、バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプ、奈良部健撮影

それならば勉強なんてしない方が幸せなのかもしれません。教育者として、自分の仕事の意味は何なのだろうと思いました。こういう素晴らしい学生たちが世界に貢献できるようにするのは何をすべきかまで考えるのが、本来の大学の姿です。

またこの交流は、ユニクロを展開するファーストリテイリング社が創設したファーストリテイリング財団(柳井正理事長)が支援しています。しかし日本では、企業によるこのような形の大学支援は多くはありません。

これからの時代はもっと日本企業からの支援を受け、大学が人材を育成し、将来的に日本企業と社会を支えたり、世界を変えていったりする可能性を高めていくという良いサイクルをつくり、相乗効果を生むようにしていきたい。

そのために必要なのは産学の対話で、企業側はこういう人材が欲しい、大学側は本当にいい人材というのはこういう人材だ、といったコミュニケーションや情報交換を密にすべきです。