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中国の大学受験/京都大学・南部広孝准教授に聞く

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中国の最難関大学のひとつである北京大学の西門前。子供連れの見学者も多かった photo:Koyama Kentaro

――中国の大学全国統一試験、「高考」とはどういった試験でしょうか。 
1952年に始まり、文化大革命による中断を経た後1977年に復活し、現在まで実施されています。新入生の9割以上がこの試験の成績だけで決まります。各大学がまず省別に合格者の人数枠を割り振り、各省で上位の得点者から希望する大学に入学できるようになっています。全国統一試験と銘打ってはいますが、省ごとに試験科目や試験問題が決まっています。大学ごとの試験では、大学側は膨大な受験生を相手にしなければならず、受験生は住む地域によっては何千キロも移動しなければいけなくなります。双方の負担を解消し、効率よく優秀な人材を選ぶために生まれた仕組みです。

――受験熱は高いのですか?
大学進学率は2~3年制も含めると2014年で37.5%に達し、以前よりは進学しやすくなってはいますが、競争は依然として激しい状況がみられます。有名大学への合格が有利な就職に結びつく点も大きいですね。90年代半ばまでは国が就職先を決めていましたが、現在はそういった割り振りはありません。市場経済が発展する中で、企業はますます有名大学の卒業生を求めるようになっています。具体的に言えば、211プロジェクトという教育政策によって予算が優先的につけられている約120校の「重点大学」に人気が集まっています。その卒業生を受け入れたいと公言する企業が増えているのです。就職市場が生まれたことで、大学がいっそうはっきりランク分けされてきたといえます。

――本人の政治的な思想で落とされたり、コネで合格したりはしないのですか?
まずは成績。入学は点数だけで決まるといっていい。政治的な思想は大学入試に決定的な要素にはなっていないようです。よほど政治的に過激なことをしていない限り落とされることはなく、成績が優秀であればそちらのほうが優先されます。誰が見ても合否がはっきりしているところが高考の利点です。本人の点数や各大学の最低合格点は公開されるので、1点足りなかった、5点足りなかったと分かります。その面では落ちた受験生も親も納得でき、受験競争は加熱しますが、公平感は保たれる制度だといえるでしょう。政府も公平感については強く意識していて、カンニングなどの不正に対して厳格に対処しているとメディアを通じて大きくアピールしています。

――高考のほかには大学への道はないのですか?
点数重視による受験競争の弊害が指摘され、2003年から、高考による選抜とは別に各大学が独自に選考できる制度が導入されました。自主募集と呼ばれ、各大学で作成した試験や面接などと高考を組み合わせて合格者を決めています。ただ、自主募集ができるのは、短大もあわせると2500校あるうちの上澄みの約80校だけ。さらにその大学内の合格者の5%にしかすぎませんから、全体から見れば高考で合格がほとんど決まるという構図は変わっていません。これ以外に推薦入学制度などもありますが、とても小さな規模にとどまっています。

ただ、一発型の統一試験ではない選抜方法の拡大を中国政府も考えていて、2010年からの10年間で改革を進めるという方針を示しています。徐々に変わっていくのではないでしょうか。

――省ごとに問題が異なり、合格者の定員も割り振られているのはなぜでしょうか?
地域間の公平性を図るという考え方があると思います。全国一律に学生を募集して点数だけで合否を決めるとなると、経済格差、教育格差が大きい内陸からは、都市部の有名大学にほとんど入れなくなるおそれがあります。そこで大学側が省ごとに合格者枠を設定することで、そういった地方からも北京大や清華大などトップ大学の入学者が出るように配慮しているのです。

その卒業生が故郷に帰って、地方政府で指導的地位についてもらえば、政権党である共産党にとってもやりやすい。こういった人材の割り振り方で国全体の安定をはかるという狙いも、この仕組みには含まれています。

東アジアの他の国や地域を見てみると、台湾は高校ごとの成績上位者をとるというやり方をして、結果的に地方出身の子たちをすくい上げていますし、韓国でも地域間格差に配慮した選抜方法が導入されています。日本ではこの点の取り組みはまったく遅れています。地域や家庭の経済力と進学状況との関係が話題となるように、もう少し日本全体で考えないといけない問題ではないかと思っています。

なんぶ・ひろたか 1967年生まれ 京都大学大学院教育学研究科准教授(比較教育学)。中国を中心とした東アジアの高等教育制度を研究する。今年2月、『東アジアの大学・大学院入学者選抜制度の比較―中国・台湾・韓国・日本』(東信堂)を出版した。