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所得格差は寿命の格差 これが米国の現実

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Seniors who evacuated from other assisted living homes during Hurricane Dorian stay at the Good Samaritan Society in DeLand, Fla., Sept. 3, 2019. A new Government Accountability Office study illustrates how the widening inequality gap is helping the rich lead longer lives, while cutting short the lives of those who are struggling. (Eve Edelheit/The New York Times)
ハリケーン「ドリアン」に襲われ、介護施設から避難した高齢者たち。米政府監査院による最新の調査は、経済格差の拡大がいかに寿命の格差を一段と広げているかを明らかにしている=2019年9月3日、米フロリダ州、Eve Edelheit/©2019 The New York Times

貧富の格差拡大は、米国では所得や資産だけではない。米政府監査院(GAO)が9月上旬に発表した調査によると、格差拡大は金持ちたちの寿命を延ばしたが、苦しい生活を余儀なくされている人たちの命を削った。

1992年に50代および60代だった米国人の富裕層は、2014年時点でもまだ4分の3が生存していた。一方、貧困層の生存者は半分をわずかに上回る程度だった。

「金持ちたちが長生きをしているだけでなく、一部の人たちのグループは親の世代よりも寿命が短くなっている」とキャスリーン・ロミグは言う。リベラル系の公共政策シンクタンク「Center on Budget and Policy Priorities(CBPP)」の上級政策アナリストだ。 所得の不平等は、米国の社会や政治を長年にわたって混乱させ、08年の金融システムの崩壊がバラク・オバマの登場を後押しし、右翼ポピュリズムの台頭やドナルド・トランプのような国粋主義指導者の出現を促し、民主党を左へと向かわせた。民主党の大統領候補指名を目指す自称「民主社会主義者」の上院議員バーニー・サンダースは、議会の独立監視機関である政府監査院からの報告書を受け、その結果にとびついた。

「貧困はこの国の何百万もの人たちの生命を脅かしており、この報告書はそれを確認するものだ」とサンダースは声明で指摘した。

国勢調査局は9月10日、貧困率が昨年11.8%に低下し、01年以来の最低レベルになったと報告。しかし、18年の世帯収入の中央値は6万3200ドルで、前年から実質的に変わっておらず、昨年の所得の伸びは15年および16年の増加と比べて鈍化した。

監査院の調査は、所得と資産および寿命との関係、そして高齢の米国人の間における財産と所得の分配状況について幅広く検討を加えている。70代や80代まで生存している高齢者は以前より増えているが、誰もが長生きしているわけではない。所得や資産のレベルが高いほど長寿との相関関係が高い。

この報告書は、1931年から41年の間に生まれた米国人について調べた。中堅キャリア時の所得が下層20%内だった人のうち、2014年の時点で生存していたのはちょうど52%だったのに対し、上層20%内の人の場合は75%近くが生存していた。この調査では、年収の代わりに累積資産に焦点を合わせて比較しても似たような結果が得られた。

監査院の調査で、人口統計学上の特性も寿命と関係があることがわかった。つまり、同じグループでも女性の方が男性より長生きする傾向があった。2014年時点で、女性の約70%が生存していたが、男性の生存率は60%ほどだった。

しかしロミグは、「最貧女性の40%は、彼女たちの母親と比べ、実際に平均寿命がより短い」ことに注目した。

非ヒスパニック系の白人やヒスパニックは、黒人より長生きする傾向がある。ヒスパニックの68%、非ヒスパニック系白人の65%は少なくとも2014年までは生存していたのに対し、非ヒスパニック系黒人の生存率は52%だった。

黒人妊産婦の死亡率が高い原因を例に挙げ、代弁者たちは、ずっと以前から医療制度における人種差別の問題を指摘してきた。

(学歴との関係を)1931~41年生まれのグループについてみると、2014年時点での生存率は大卒が75%だったのに対し、高卒は65%、それ以下の学歴の人は50%だった。

高等教育を受けている人は、そうでない人に比べて一般的に所得や資産が多いことに一因がある。

「私たちは、各グループの人たちの状況が後退してほしいとは思っていない」とロミグは述べ、こう付け加えた。「私たちは、特定の人たちだけがより健康でより長生きすることを望んでいるわけではない。誰もが等しく利得を共有してほしいと願っているのだ」

この調査は、母集団のかなりの人たちが2014年時点で生存していたことに注目。「全体でみると」としたうえで、報告書は「低所得とか低学歴といった寿命を短縮する要因を持つ人でも、長生きする可能性はある」としている。

とはいえ、米国人は長生きかもしれないが、生活に四苦八苦するようになった。55歳を超えても働いている米国人の割合は1989年の30%から、2018年には40%に増えた。その背景の一部に、賃金水準の低迷が貯蓄や資産の蓄積を妨げていることがある。

高齢になった米国人が最終的に引退生活に入る時は、おおかたは「ソーシャルセキュリティー(Social Security=SS=社会保障)」の年金など社会安全網の制度に頼ることになる。今回の調査は、SSが「財政的な困難に直面しており、しかるべき対応がとられなければ、長期的な安定性に悪影響が出てくる」と警告している。

「もし変革が行われなければ、現時点での予測だと、退職プログラムの信託基金は2034年までに、給付予定額の77%しか払えなくなるだろう」としている。

こうした結論は、保守派によるSS改革への取り組みの復活を後押しする可能性があり、それはある人たちにとっては給付額の増加を抑えることになるかもしれない。保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の研究員レイチェル・グレスラーは、SSは「速やかな改革」が必要だと言っている。彼女は、政策立案者たちは「低所得者のための給付額を増やして、その水準を維持」し、一方で「(SSの年金に)あまり頼る必要がなく、引退後の貯蓄がある高所得者への給付を減らす」ことを提案している。(抄訳)

(Lola Fadulu)©2019 The New York Times

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