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ニューヨークはいま、駅が面白い 100年の歴史を超え、ふたつの時間を味わう

At the Scene 現場を旅する 更新日: 公開日:
中央郵便局だった建物を改造し、ペンステーションに新たに設けられた駅舎

実は70年代、駅舎は存亡の危機にあった。高層ビル建設のために取り壊す構想が打ち出されたが、市民から保存運動が起き、訴訟が最高裁まで争われた結果、駅舎が残ることになった。それ以来、歴史的建造物の保存の象徴にもなっている。

グランド・セントラル・ターミナルの正面入り口=中井大助撮影

ニューヨークは新しいビルがどんどん建つが、古い建物も大切にしている。ニューヨーク史跡保存協会のペグ・ブリーン会長は「何重もの建築の層は、新しい人がどんどんと来る街でありながら、先人もここで成功を収めたことを想起させる」と話す。

ニューヨークの郊外に向かう通勤列車が発着するグランド・セントラル・ターミナルのメインコンコース=中井大助撮影

駅舎を後に、マンハッタンを東西に横断する42番通りを西へ進むと、ニューヨーク公共図書館(②)の本館が見えてくる。こちらも1911年に開館した、現役の施設だ。南には、エンパイア・ステート・ビル(③)の姿も。

ニューヨークの高層ビルの中でも、ひときわ高くそびえるエンパイア・ステート・ビル=中井大助撮影

「世界の交差点」と呼ばれるタイムズスクエア(④)にさしかかったところで、左折。南下すると、ニューヨークのもう一つの主要駅、ペンステーション(⑤)に到着する。ただ、こちらは荘厳な建築も、歴史を感じさせる雰囲気もない。かつては立派な駅舎があったが、維持費がかさみ、60年代に取り壊されたのだ。現在は、スポーツ会場として有名なマディソン・スクエア・ガーデンの地下に駅が収まっている。

スポーツやコンサートの会場として有名な、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン=中井大助撮影

狭い地下空間に押し込められた駅は、使い勝手が悪いうえ、決してきれいとはいえない。古い駅舎を失った市民の喪失感と、新駅の評判の悪さが、グランド・セントラル・ターミナルの駅舎保存を後押ししたともいわれる。

だが、今年に入って、ペンステーションに大きな変化があった。道路を挟んだ場所にあった、旧中央郵便局が新駅舎(⑥)に改造され、1月から営業を開始したのだ。

中央郵便局だった建物を改造し、ペンステーションに新たに設けられた駅舎

初めて足を踏み入れ、息をのんだ。築100年以上の建物の雰囲気を残しながら、ガラス張りの天井から光が注ぐ、広々とした空間はこれまでのペンステーションと比べものにならない快適さだ。「公共空間のあり方と、歴史的な建物の使い方の双方として素晴らしい」とブリーン氏も語る。ニューヨークの観光名所のリストに、新たに一つの場所が加わった。

■つながっていない主要駅

ペンステーションの入り口。駅のほとんどは地下にある=中井大助撮影

米国の鉄道の多くは私鉄として建設され、グランド・セントラル・ターミナルとペンステーションもそれぞれ、私鉄駅として開業した。その後、鉄道会社は経営難に陥り、現在は両駅を発着する列車は公社などが運行している。ただ、建設の歴史的経緯もあり、ニューヨークの二つの主要駅を直接つなぐ路線は現在もない。

■「碁盤の目」の道路

碁盤の目のように交わるマンハッタンの道路は東西に「ストリート」、南北に「アベニュー」が走り、それぞれ数字が名称となっている場合が多い。ただ、例外もある。メトロノース鉄道のトンネルを走らせるため、かつての「4番街」は拡張され、「パークアベニュー」となった。その沿道は米国きっての高級住宅街だ。

■「地産地消」のこだわり

ニューヨーク市立図書館の正面入り口=5月、中井大助撮影

ニューヨーク公共図書館の西側に、ブライアントパーク(⑦)という公園がある。昼間は大勢のニューヨーカーがランチを食べ、冬はアイススケートのリンク、夏にはコンサートステージも設けられる、オフィス街のオアシスだ。

公園内には、食品や装飾品の売店も並ぶ。歩きながら、目が止まったのは「アップル・サイダー・ドーナツ」。日本では「サイダー」は炭酸飲料を指すが、米国の「アップル・サイダー」は無炭酸のリンゴ果汁のことだ。

ブライアントパークの売店に並んだ「アップル・サイダー・ドーナツ」

ニューヨークはドーナツが人気だが、派手なアイシングの味が強すぎて、口に合わないこともある。その点、リンゴ果汁やシナモンで味付けをしたアップル・サイダー・ドーナツは、より繊細な味わいだ。

実はリンゴも、ニューヨーク州の名産。ドーナツを購入した売店は、マンハッタンの隣を流れるハドソン川沿いの食材を専門に扱う。「地産地消」のこだわりを感じながら、ドーナツをほおばった。