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世界遺産登録を抹消された街 リバプールに何があったのか

At the Scene 現場を旅する
海上貿易の拠点として英国の栄華を支えたリバプール
海上貿易の拠点として英国の栄華を支えたリバプール

リバプールの地図

銅像から徒歩5分のところに立つロイヤル・アルバートドック(②)を歩いた。船の修理や荷役業務を担った赤れんがの倉庫街には、今はレストランや雑貨店が入り、街の最大の観光スポットに姿を変えている。地区は再開発を進め、魅力を増しているように見える。だが、ユネスコは「遺産が持つ普遍的な価値の継承が失われている」と断じた。

リバプールは18世紀後半、産業革命の中心となったマンチェスターで機械生産された綿製品の輸出港だった。それ以前には、欧州と西アフリカ、新大陸のアメリカをつなぐ「三角貿易」の英国の拠点港として栄えた。ただ、その繁栄は「奴隷貿易」という負の歴史も抱える。

一角にあるマージーサイド海洋博物館(③)の一部が、「国際奴隷博物館」になっているので足を運んだ。奴隷にされたアフリカの人々の証言や、移送する際に使われた拘束具、現代につながる差別の課題などが展示されていた。学芸員の男性は「世界遺産の抹消は残念ですが、歴史は登録前から伝えてきたし、これからもきちんと伝えます」。そして、こうも話した。「歴史的景観の保護も大事だけれど、いま生きている人が街のことを決められないのはナンセンス。抹消はやむを得ないと思う市民は多いですよ」

この街のもう一つの魅力は、イングランドサッカー「プレミアリーグ」のチームだ。サッカー熱が高く、強豪リバプールFCとエバートンFCの2チームがプレミアで戦う。日本代表フォワードの南野拓実も在籍するリバプールFCの本拠地アンフィールド(④)へ向かった。

スタジアムツアーに参加した。前夜に行われた試合の余韻が漂うスタジアムのピッチや選手控室を、案内役のケニー・ライスについて歩いた。クラブは現在、約90億円を投じて観客席を7000席増やし、スタジアムを6万1000人規模に拡張中だ。ライスは「アジアや中東からも試合を見に訪れる。その期待にチームも投資で応える」と話す。リバプールの魅力を世界に発信する役割は、今は歴史遺産よりもスポーツが担っているのかもしれない。

■船乗りが愛した味

リバプールの郷土料理「スカウス」

海上交易で栄えた港町らしい郷土料理がリバプールにはある。寒い冬の海を渡る船乗りたちが愛した「スカウス」というシチュー料理だ。

北欧の「ロブスカウス」が原型とされる。塩漬けの牛肉か羊肉をタマネギやジャガイモ、ニンジンなどと煮た素朴な料理だが、リバプールでは決まったレシピがなく、家々や料理店ごとに独自の味を楽しむという。肉や野菜が溶け込んだトロトロのものもあれば、汁気が少なめでイモがゴロゴロした肉じゃが風のスカウスもあるらしい。

足を延ばした大聖堂のカフェにもあったので頼んでみた。出てきたのは、赤キャベツのピクルスがたっぷり乗ったスカウス。柔らかいジャガイモをハフハフと口にし、牛肉はホロホロとほどけるような食感。取材したのは1月。寒風にさらされ、冷えた体に熱々の具と汁が染みた。

ちなみに、スカウスはリバプールの方言を表す言葉としても使われている。

■歴史的なライブハウス

ライブハウス「キャバーン・クラブ」
ザ・ビートルズを育てたライブハウスとして知られる「キャバーン・クラブ」。世界中からファンが訪れる

ビートルズが結成初期に演奏したライブハウス「キャバーン・クラブ」(⑤)。閉鎖や移転に見舞われたが、1984年に当時とほぼ同じ場所に再建された。お酒を片手に生演奏が聴け、世界中のビートルズファンが集う。記者が訪れた日も、「レット・イット・ビー」を観客が一緒に歌い、盛り上がっていた。

■英国最大の大聖堂

リバプール大聖堂
荘厳な雰囲気があるリバプール大聖堂

アルバートドックから徒歩約25分の英国国教会の「リバプール大聖堂」(⑥)。英国最大で、高さ約100メートルの塔や約30トンの鐘、1万本以上のパイプを使ったオルガンが有名。荘厳な聖堂内にあるカフェや土産店は地元の人や観光客に人気だ。

わけ・しんや/1979年生まれ。2019年4月にロンドン赴任。英国に来てから巧みな連係プレーで相手を崩して攻めるリバプールFCのファンに。クロップ監督のような明るい指導者にも憧れる。