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「トランプ関税」の背景は? 「グローバル・インバランス」の解消、関税でめざす

World Now 更新日: 公開日:
ホワイトハウスで2025年4月16日、トランプ米大統領(左)を前にMAGA帽子をかぶる赤沢亮正経済再生相(右)=ホワイトハウス提供

突然の強硬策に見える「トランプ関税」だが、米国にどういった事情があるのか。これから世界は、そして日本はどう対峙(たいじ)していけばいいのだろうか。

第2次世界大戦後から続く「ドル基軸通貨体制」が、トランプ関税の背景にあると分析するのは、財務官を長く務めた前アジア開発銀行総裁で国際通貨研究所理事長の浅川雅嗣さん(67)だ。「ドル基軸通貨体制は米国にとって大きな特権だが、トランプ政権はその重い負担にいらだっている。理論的な支柱が、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長から米連邦準備制度理事会(FRB)理事になったスティーブン・ミランが昨年11月に書いた『ミラン論文』だ」

国のお金の出入りを示す「経常収支」で、中国や日本、ドイツなどの黒字国と、米国などの赤字国の不均衡「グローバル・インバランス」を背景に、労働者の不満をすくいとって誕生したトランプ政権が、貿易不均衡を関税によって解消しようとしている構図だという。

各国間の貿易で広く使われるドル。アジア地域がそうであるように、自国通貨をもつ国同士の貿易でも多くがドルで支払われる。米国は国内のドル以外に、世界で使われるドルも供給しなければならない。そのために米国は経常収支の赤字を強いられているが、各国のドル需要が強いため結果的にドルが高くなっているというのがトランプ政権の考え方だという。

財務官を長く務めた浅川雅嗣・国際通貨研究所理事長=2025年9月、東京・日本橋、星野眞三雄撮影

だが、トランプ政権のねらいどおりにことは進まないと浅川さんはみる。「米国が各国に関税を課すにしても、ドル安に誘導するにしても、貿易赤字が解消されるわけではない。関税やドル安で輸入品の価格が上がり米国内のインフレ圧力が高まる」としたうえで、「グローバル化が製造業の雇用を奪ったという反発がトランプ大統領誕生につながったが、悪いのはグローバル化ではない。増えたパイを公平公正に分配するのは国内政治の問題だ」と指摘する。

今後、どう対応すればいいのか。浅川さんは「トランプ関税の問題は、多国間の自由貿易体制を無視して、一国一国に個別に関税を課したことだ。マクロの政策協調を進めるとともに、CPTPP(米抜きTPP)などを拡大し、地域間の貿易システムがグローバルな自由貿易体制を支えるようにするべきだ」と訴える。

「自由な世界を求める同志国の連帯を」

東京大学公共政策大学院教授の宗像直子さんは、経済産業省の官僚として長く通商政策に携わってきた。世界貿易機関(WTO)など多国間交渉の行き詰まりについて、「米国を始め先進国は関税をぎりぎりまで下げていたので、新興・途上国を動かすテコを失い、交渉は行き詰まった」。トランプ政権の高関税政策は「そのテコを取り戻す手段」とも分析する。

宗像直子さん=本人提供

先進国には中国やロシアに対する「失望がある」と指摘し、「第2次大戦後、貿易自由化によって経済の相互依存が進めば平和につながると期待して自由貿易体制が作られたが、冷戦終結後にWTOに加盟した両国は違った。ロシアはウクライナ戦争を始めた」。

特に中国は「WTO加盟後も国家主導の経済政策を強化し、先進国市場を踏み台にし、技術を吸収して国力をつけ、富国強兵を進めている」。国家主導で重要鉱物(レアアース)の輸出を規制し、供給網を支配する動きは「一国では太刀打ちできない」。かつての圧倒的な優位性を失った米国については「当面、同志国を束ねる余裕はないが、経済安全保障がルール形成の軸となる今、米国との協働は不可欠だ」。

法的安定性の「避難港」と中国の過剰輸出などに備える枠組みとして、日本政府に対してCPTPPとEUの連携の推進を訴える。中国のレアアース輸出規制問題は「米国が同盟協調の価値を再認識する契機となりうる」とし、「日米首脳の信頼関係を基盤としながら、権威主義国家による抑圧や監視をうけない自由な世界を求める同志国の連帯を深めていくべきだ」