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【神尾篤史】グローバル社会を揺さぶる新型コロナ 世界は再び「鎧を着る」

World Now
中国から到着した列車(右)の積み荷載せ替えが行われる「ドライポート」=カザフスタン・ホルゴス、村山祐介撮影

――グローバル社会はどう形成されてきたのでしょうか。

世界のモノの輸出額は1980年代後半から大きく増加し、特に2000年代に入って急速に伸びました。先進国と新興国の間に緊密な貿易関係が構築されたためです。その原動力となったのが中国。2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟すると、外資系企業が中国に進出してサプライチェーン(供給網)を作り上げ、中国はグローバル化の主役になりました。

その背景にはICT(情報通信技術)革命もあります。情報の伝達が進化してアイデアの移動が簡単になり、コミュニケーションコストが低下しました。今まで1カ所に複数の工程を置いていた製造業でも、細分化して複数の国で分担することが可能になり、競争力を高めようと企業は国際的な分業体制を築き上げました。安価な労働力を活用するため、労働集約的な工程を新興国に移す動きが進み、関税引き下げなど貿易障壁の削減・撤廃も進みました。

WTO本部の内部。昼食や打ち合わせに使われるスペース=ジュネーブ、笠井哲也撮影

――モノの輸出入が増えることで、何が起きたのでしょうか。

モノが動くとカネも動きます。ICT革命で国境を越えて決済ができるようになると、株式や債券の売買も容易になりました。旅行や輸送などサービスの国際取引も活発になっており、規模では及ばないものの、モノの貿易を上回るペースで成長しています。

――新型コロナの感染拡大はグローバル社会にどのような影響を与えていますか。

これまで国を開くグローバル化は良いことだという価値観の下で、2国間や多国間の関税引き下げや非関税障壁の撤廃が進められてきました。ですが今回、飛行機や船などが止まることで、モノの動き、ヒトの動きが停滞しました。都市が封鎖されれば製造も行えず、買い物もできずカネの動きも止まりました。世界的な感染拡大で、こうしたグローバリゼーションの弊害も見えてきました。

――グローバル社会は「鎖国」を経て変わっていくと思いますか。

ヒト、モノ、カネの動きが活発であるべきだという考えは揺るぎません。なぜなら、各国や各企業はグローバル化によって生産性の向上を可能にし、多大な富を蓄積することができたからです。グローバル化がもたらす利益を追求し続けていくことには変わらないでしょう。

大和総研の神尾篤史主任研究員(本人提供)

ですが、グローバル化に一定の歯止めがかかる可能性はあります。以前から、グローバル化でもたらされた利益が、すべての人々に平等に分配されていないことに不満を持つ人々の存在があり、ブレグジットや米トランプ政権の移民政策などで表面化してきていました。今、トランプ大統領は中国をやり玉にあげ、自国中心主義に走っています。

同様に今回の危機で国境の壁を低くしすぎたと考え、グローバル化を見直す国が出てくる可能性があります。同じ価値観を持つ国同士のつながりは深まる一方、考えが違った国の間では、ハードルを上げていこうという動きが広がるでしょう。「鎧を着る部分は鎧を着る」ということになると思います。

パナマ運河近くの港に積まれたコンテナ群=五十嵐大介撮影

――1929年からの世界恐慌後、各国は関税引き上げやブロック経済化に走り、第2次世界大戦につながりました。今回も同じような懸念がありますか。

戦争とまでは言わないが、多国間の協定に影響が出てくることが考えられます。これまで網の目のように貿易を行ってきた国同士の利害関係が明確化されることで意見が割れ、進みや歩みが遅くなる可能性があります。

――国同士だけでなく、民間同士の交流が途絶える影響は大きいでしょうか。

これまでは国家間がぎくしゃくしても、企業が国に訴えて国同士の関係を前進させてきた部分もありました。ただ、今回は国と民間の両方で距離が生じる可能性があります。そうなれば、経済的にも平和的にも結びつきが弱まってしまう懸念があります。

かみお・あつし 1981年生まれ。2006年に大和総研入社。財務省出向などを経て現在は同社政策調査部主任研究員。専門は日本とアジアの経済、社会構造分析。