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「自国第一」で細る援助、変わる世界 日本の役割は? 国際政治学者・藤原帰一さん

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インタビューに応じる藤原帰一・順天堂大学特任教授=2025年9月2日、東京都文京区、中崎太郎撮影

国際援助より「自国第一」。そう訴える政治家は、トランプだけでなく世界で増えています。国際政治学者の藤原帰一さんは、援助をめぐって起きている現実は、「米国不在」の国際社会へ世界が転換する姿を映し出しているといいます。私たちはどこへ向かい、どう支え合えばよいのでしょうか。(聞き手・中崎太郎)

トランプ政権は国際援助について「無駄で、人種差別的だ」という認識を持っています。米国が続けてきた支援は、諸外国による米国に対する搾取であり、白人を人種差別するものだ、という考え方です。

米国による支援停止の影響は、ますます深刻になっていくでしょう。

保健医療や平和構築への影響懸念

米国が国際援助で果たしてきた役割は幅広いですが、保健医療分野が最も懸念されます。特に医療体制が脆弱(ぜいじゃく)なアフリカでは、清潔な水の確保が困難になり、栄養失調が深刻化するなどして、多くの命が危険にさらされています。既にエボラ出血熱の感染拡大が伝えられるなど、感染症対策への影響も深刻です。

平和構築分野でも米国が果たしてきた役割は大きく、影響は計りしれません。コンゴ民主共和国、南スーダンなどでの紛争は深刻さを増しています。アフリカの紛争では、ロシアが資源収奪を目的に関与しているとも言われます。

欧州にも広がる「自国第一」

ただ、反グローバリズムや排外主義という共通性を持つ勢力の台頭は、米国だけにとどまりません。

欧州では英国のEU離脱を主導したファラージ氏が党首の右派ポピュリスト政党「改革党」、ドイツでは2月の総選挙で第2党になった極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」などが代表例です。

英改革党の党大会で演説するファラージ党首=2025年9月5日、英バーミンガム、藤原学思撮影

難民受け入れが課題となる中で、援助に関心が高いとされていた欧州でもアフリカや中東への関心は下がっています。

ウクライナ支援は継続していますが、人道支援より自国防衛という要因もあり、分けて考えるべきです。

影響力を高める中国も、経済目的の支援として批判を集めています。軍事的な勢力圏に含めるという思惑もあり、国際社会からの風当たりは強いです。

「米国不在」の状況を一気に穴埋めできる存在はいない、ということでしょう。

欧米が退行する中での日本の役割

しかも、トランプ政権の任期が終われば、また元通り、とも期待できません。トランプ氏による国際関係の破壊は、止めようとしなければ止まらないのです。これまで国際秩序を形作っていたのは欧米でしたが、その退行は決定的です。

こうした状況の中、日本の果たすべき役割は大きい。多国間貿易に依存する日本は「チームプレーヤー」です。そして、質の高い技術協力や紛争地でも継続性のある支援は、評価されています。

日本と経済的に結びつきの強い非欧米の国々との関係が重要になってきます。多国間で連携し、国際主義を体現する役割を果たしていって欲しいです。

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ふじわら・きいち 順天堂大学特任教授、東京大学名誉教授。近著に朝日新聞夕刊の連載コラム「時事小言」をまとめた「世界の炎上 戦争・独裁・帝国」。