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「気候変動は安全保障上のリスク」というとらえ方 欧米ではもう広まっている

World Now
ソマリア難民らを受け入れるケニア東部の「ダダーブ難民キャンプ」で暮らすソマリア人少女たち=2015年、朝日新聞社撮影

プロフィール 1980年生まれ。スウェーデンのウプサラ大学で博士号を取得。気候安全保障の研究者で、スウェーデンのシンクタンク「ストックホルム国際平和研究所」の気候変動リスクプログラムディレクターを務める。

ストックホルム国際平和研究所のフロリアン・クランプ氏=本人提供

――気候安全保障とは、どういう概念なのでしょうか。

気候安全保障は非常に重要な問題だ。気候変動が社会、経済、政治にどのような影響を与えているのか。私たちは、気候変動が紛争や暴動を引き起こす直接的な要因だけでなく、幅広い「人間の安全保障」への影響に注目している。

気候安全保障にはさまざまな定義があり、人によって異なる関心を持っている。気候変動と紛争の間には強い因果関係があるが、最近は気候変動が直接的な紛争の原因という理解ではなく、人間の安全保障上のリスクを増大させる一因と認識されるようになった。

気候変動によって紛争が起きたかどうかにかかわらず、紛争はあり、気候変動もある。それが同じ場所で起こり、国連の平和維持活動など紛争後の平和構築の取り組みも混乱させている。

――気候安全保障が国際的な議題として取り上げられるようになったのはいつごろからでしょうか。

気候安全保障は1990年代に議論が始まり、当初は水や資源不足の問題が中心だった。2000年代初めからは、気候変動が原因とされる紛争に関心が集中していった。英国政府が07年に国連安全保障理事会での議論を提案し、その後はドイツやスウェーデン政府が議論を深めるよう推し進めた。

――気候変動による影響がさまざまな国で安全保障上の問題として認識されるようになっています。

気候変動の影響は、日本とスウェーデンでは異なるが、アフリカの同じ国内でも違った形で表れる。気候変動による同じ現象が違う場所で起きた場合、まったく異なる結果を招くこともある。因果関係については様々なパターンがあるのだ。

たとえば、気候変動によって雨期が変化し、農作物の収穫がうまくいかなくなって生活や雇用が悪化する。洪水で住居が破壊され、移住を余儀なくされる。移住が原因で、食料や資源を奪い合う紛争を引き起こすこともある。生活の悪化が地域社会に不満を募らせ、大規模な組織犯罪につながっているケースもある。

砂漠化が進むアフリカ・チャドで薪を頭に載せて運ぶ子どもたち=2009年、チャド西部・ビルケレラ村、朝日新聞社撮影

――気候変動の影響が安全保障上の問題につながっている具体例を挙げてください。

東南アジアでは海水の温暖化によって魚の生息地が変わり、漁獲量が減ったことで、海賊行為につながるリスクが大きくなっている。ソマリアでは、イスラム武装勢力のアル・シャバブが避難民の中からリクルートをしている。パキスタンでは、タリバーンが被害を受けた人々を政府よりも早く支援することで、人心を勝ち取ることに成功した。気候変動などの影響で枯渇しているアフリカのチャド湖周辺は、イスラム過激派の勢力拡大や紛争など様々な影響の相関が見られる地域だ。

深い井戸から水をくみ上げるため、馬が水袋を引っ張っていた=2009年、チャド西部・トゥルバ、朝日新聞社撮影

――今年、米国でバイデン新政権が発足し、地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」に復帰、4月に気候変動サミットを開く予定です。11月には英国で第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開かれます。

米国の政権交代によって、パリ協定に肯定的な政権が生まれ、気候変動が国際政治の中心的議題となった。米国のような大国が舞台に戻ってくるのは重要だが、それですべてが解決するわけではない。異常気象が増えることで、経済・社会に与えるインパクトとコストは大きくなる。今年、国際交渉がうまく進み、気候変動に対する強い行動に向けて大きな一歩を踏み出せるか、期待したい。