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3度の宇宙飛行から見えた真実。野口聡一氏が説く「激変の時代を生き抜く力」と「宇宙×キャリア」の可能性

Sponsored by 立命館大学 公開日:

宇宙開発は国家主導の重厚長大なプロジェクトから産学官連携、そして多国籍の企業・個人による協働へ。宇宙ビジネスの市場規模は2035年に280兆円に達すると予測され、その勢いは加速の一途をたどる。

宇宙と地上の境界は曖昧(あいまい)になり、あらゆる分野の知見が宇宙開発につながる時代が到来している。不確実な時代だからこそ、宇宙を学ぶことは自身の将来やキャリアに悩む人へのブレイクスルーになるのではないか──。そう語るのは、宇宙飛行士として3度の宇宙飛行を成功させた野口聡一氏。JAXAを退職後は立命館大学の学長特別補佐に就任し、精力的に研究活動や講演活動を行っている。

宇宙という極限環境でのミッションや、宇宙飛行士からのキャリアチェンジに踏み切った経験から、これからの時代に活躍する人材像や、新たな領域に挑戦する意義について話を聞いた。(2025年5月にインタビューを実施)

2035年、280兆円へ。急拡大する宇宙市場と広がる宇宙の可能性

私は宇宙飛行士として25年間にわたり活動し、2022年にJAXAを退職しました。2023年から立命館大学学長特別補佐と立命館大学宇宙地球探査研究センター(ESEC)の研究顧問に就任、世界経済フォーラムの主任フェローを務めるなど、さまざまな活動をしている中で、宇宙にまつわる急速な変化を肌で感じています。

宇宙ビジネスの動きが非常に速くなってきているのをご存じですか?

2017年当時は「2040年に140兆円市場」と言われていましたが、世界経済フォーラムが昨年出した最新レポートでは「2035年に280兆円」と予測されています。実はこの予測以上に急速に伸びていくのではないかとも言われています。劇的な成長が見込まれているのです。

市場拡大の背景には二つの大きな変化があります。一つは宇宙分野とは無縁だった業種への広がり、もう一つは中東やインドなど、これまで宇宙開発に積極的でなかった国々の参入です。

地政学的な緊張が高まる中で、宇宙は科学のフィールドというだけではなく、経済安全保障の観点からも重要性が増しています。「地球上における我々の命を守るための宇宙開発」「地上での問題解決のための宇宙開発」に、目的自体も変化しているのです。

地球環境を大事にしたい、異常気象からふるさとを守りたい、新たなテクノロジーを開発・活用したいといったさまざまな領域に対し、「宇宙」が関わってくる時代になってきています。頻発する異常気象に対応するため、局所的な降雨量を正確に予測したり、海水温の急上昇を検知したりする技術や、自動車のスマート化が進む中、コネクティッドカーのための通信技術など、知らず知らずのうちに宇宙に関わる技術が私たちの日常に入ってきています。

こうした変化は、宇宙への敷居を下げることにもつながっています。今や宇宙を学ぶことは天文少年・少女だけの世界ではなく、学生・社会人問わず、あらゆる可能性を広げてくれる学問なのです。

2024年5月、ESEC設立記念シンポジウムで講演した野口聡一学長特別補佐

文理融合で広がる宇宙教育「立命館宇宙マネジメントプログラム」

そう遠くない未来、人が当たり前のように宇宙に行けるようになる時代が訪れます。宇宙に社会ができるわけですから、技術だけでなく社会科学的な視点も重要になります。心理学も大事ですし、ルール作りという意味では法学の知見も必要です。国際協調の観点から、国際関係の理解も欠かせません。

宇宙はフィールドであり、ケーススタディの場でもあります。宇宙に興味があれば、自然とさまざまな学問分野との接点が広がっていきます。

立命館大学が今年創設した「立命館宇宙マネジメントプログラム(RSMP)」 は、こうした時代の変化を捉えた画期的な学びのプログラムです。

私自身、立命館大学の宇宙教育に大きな期待を寄せていますし、学長特別補佐として、立命館大学に期待していただきたいと思っています。伝統的に文系が強い立命館大学ですが、同時に理工系教育もしっかり進化してきています。文系・理系の力をうまく融合させ、学びやキャリアの新しい可能性を探る「文理融合」にこそ立命館大学の強みがあります。

「立命館宇宙マネジメントプログラム」

国際協力と多様性への対応が求められた「宇宙ミッション」

私は宇宙飛行士として3回のミッションを経験しました。私は工学部出身ですが、宇宙ステーションでの経験を通じて、心理学や社会科学の重要性を実感しました。

宇宙開発の現場は国際協力が不可欠であり、必然的に多様性の問題に行き当たります。かつてのアポロ計画時代は全員が白人男性で、同質的なチーム編成でした。しかし、変化が激しく、不確実な今のような時代においては、昨日と同じことをしていては成功しません。時代とともにミッションの内容も変化し、多様なバックグラウンドを持つメンバーが必要になりました。

私が2005年から2021年までの3回のミッションで経験したメンバー構成が、その変化を如実に示しています。1回目は7人中6人がアメリカ人で、私は唯一の日本人でした。2回目はアメリカ、日本、ロシアの国際チーム。3回目は人種やジェンダーもさらに多様なメンバー構成で挑みました。

様々な人種、国籍が集う国際宇宙ステーション(野口聡一氏提供)

多様性のあるチームは、新しい要求に対応できる幅が広いという強みがあります。一方で、異なるバックグラウンドを持つ人々が集まることの難しさもあります。同質性の高い集団であれば「1を聞いて10を知る」といったハイコンテクストの理解が可能ですが、多様性のある環境ではそれは期待できません。

多様性のあるチームで成功するには、コミュニケーションとチームビルディング、マネジメントへの真摯(しんし)な姿勢が必要です。表面的な会話ではなく、それぞれが考えていることを具体的に突き詰めていく。違和感を覚えたら遠慮なく口に出せるような「心理的安全性」を守ることも重要です。

シビアな極限環境が育てる「真のチームワーク」

宇宙や南極といった極限環境では、生き延びるために自然にチームワークの考え方が変わります。それはどういうことでしょうか。

例えば会社で何かを失敗したとき、良くない上司は「誰がやったんだ」と失敗を属人化し、チェックの増加やルールの厳格化で対応しようとします。しかし、これは実は「環境が甘い」からこそできる対応なのです。会社での失敗は、生死に直結していないからです。

本当の極限環境では、誰かのミスで全員が死んでしまう可能性があります。そこでは失敗を属人化したり、書類を積み重ねてルールを見直したりしている余裕はありません。極限環境では、全員が生き延びるために自然と互いをカバーし合い、リーダーシップとフォロワーシップを発揮せざるを得ないのです。

極限環境での作業中に部品が壊れたとき、「これを報告すると上司が怒るかもしれない」と忖度(そんたく)する余裕はありません。そのせいで全員が危険にさらされるからです。忖度も躊躇(ちゅうちょ)もなく、すぐに状況をチームメンバーで共有し、全員で解決策を考える。これが生き延びるための本当のチームワークです。

こうした極限環境での経験は、地上での組織運営にも重要な示唆を与えてくれました。組織が何か不適切案件を起こして、その再発防止策でよく見るのは「二度と起こさないことを徹底していく」というフレーズで始まるルールの厳格化や点検事項の増加ですが、これらは現場の根性と頑張りに丸投げしているだけなんです。

そうした対策は一時的にはうまくいきますが、現場の根性と頑張りが限界に達した時、今度はその対策自体が新たな不適切案件の温床になりかねない。本質的な課題に向き合い、無駄なく効率的・合理的に必要なコミュニケーションを取ることの大切さを教えてくれたのです。

個人の幸福と組織の成長、「両輪」を大切にできているか?

私が人材育成において大切にしているのは、個人の幸福と組織の成長のバランスです。これまでの日本社会では比較的「組織の論理」が優先され、個人の成長や目標達成とのハーモニーが軽視されてきたように思います。これからの時代は、個人としての幸福感と組織としての成長をどう組み合わせていくかが大事になります。

そのためには、組織カルチャーや組織風土も重要な要素です。人材育成というと人のスキルや能力の話になりがちですが、自分自身が成長して幸せを感じられることと、組織に必要な貢献をし、集団として目標を達成することの双方、つまり個人と組織の「両輪」で成長できる社会が大事なのです。

もし目標が低すぎると、たとえ心理的安全性が確保されてもそれは単なる「ぬるま湯集団」になってしまう。チャレンジに値する目標を掲げ、高い心理的安全性を確保してチームとしてそれを達成することで、初めて個人の成長を実感できるといえるでしょう。

また私自身、子どもの頃から志した宇宙飛行士の夢を叶(かな)えた経験から、「夢を諦めない」ことの重要性も強調したいと思います。人気バスケ漫画『スラムダンク』の安西監督の名言の通り、夢を諦めたら、そこで試合終了です。

一方で、夢を持ち続けることのコストは極めて低いと思いませんか? 宇宙飛行士という夢を持つからといって、月会費を払う必要はないわけです。夢を持っているだけでワクワクするし、自分のモチベーションにもなります。

夢に対するポジティブな感情は持ち続けながら、細かい失敗や挫折はさっさと忘れることも大切です。負の感情は人を蝕んでいくので、潔く捨てていく。この「選択と集中」が大事なのです。

「燃え尽き」に苦しむ現代のビジネスパーソン

この記事を読んでいる人の中には、学生のみなさんだけでなく社会人の方も多いと思います。今、40代、50代の人たちを中心に、多くの人が「燃え尽き」に苦しんでいます。私自身も宇宙でのミッションを終えて、燃え尽きのような感覚に苛まれた経験があります。

知らないうちに収入も、モチベーションも、アイデンティティも失ってきている──。これが多くのビジネスパーソンの現実であり、燃え尽きに繋がっている現代社会の大きな課題です。給料はなかなか上がらず、係長から課長、部長とポストも上がっていかない。会社内での居場所の問題も深刻で、会社が決めた勤務地や業務内容に従わなければならない。そういう環境でアイデンティティの喪失やモチベーションの低下を感じる人が増えているのです。

昭和の頃は、運命共同体として会社全員で成長していくとか、経済成長や企業の成長の中で自然に給料や階級が上がっていくことで、個人のモチベーションもカバーされていました。自分を抑えて毎日出社し続けることに人生を賭けたとしても、それに報いられる社会だったのです。

しかし、今はそうではありません。日本企業の競争力は低下し、低成長の中、会社は社員を定年まで守ることはなかなかできないし、給料を上げる余裕もない。自分で奮起して立ち直っていかなければならないのです。

自分の価値基準を自分に取り戻せ──「燃え尽き」への処方箋(しょほうせん)

私は56歳で宇宙飛行士を退職し、新たな挑戦を始めました。宇宙飛行士としてのキャリアには満足していましたが、56歳の時点で、この先10年、新しいことをすべきだと考えました。人生100年時代と言われますが、まだ余力があるうちにセカンドキャリアに向かって走りたいと思ったのです。

世界経済フォーラムで有識者として発言する野口聡一氏(野口氏提供)

日本の会社や組織では機械的なローテーションや年功序列が重視され、社員一人ひとりが自分自身のスキルアップをあまり感じることができず、自信が持てないような仕組みが続いてきました。

セカンドキャリアへの挑戦で重要なのは、自分のスキルの棚卸しと評価軸の再設定です。キャリアチェンジを考える上では、評価軸を自分の中にしっかり取り戻すことが大切です。自分のスキルや能力をしっかり棚卸しし、客観的に評価し直し、会社にとってではなく、自分にとって何が大事なのかを考える──。

会社に居続けること以上に自分に大事なことは何か。会社が設定した評価軸ではなく、自分が大事だと思うことをこれからの人生の基準にする。環境保護が大事なら、それを評価軸にすればいいのです。会社から求められるスキルではなく、確かに社会に通用すると思えるスキルとは何か。一人ひとりがそれを意識して磨いていくことで、キャリアの転機を乗り越えられると私は考えています。

「ファーストペンギン」が道を切り拓く。変革人材のススメ

宇宙という極限環境を舞台に活躍できる人材は、地上でも時代の変化の先頭に立ち、引っ張っていける人材だと私は思います。

どこの会社も組織も時代に合わせて変革していく必要がありますが、過去の成功事例に引っ張られて、なかなか変革が進んでいないのが現状です。成功してきた組織ほど、過去の成功の呪縛から逃れられないものです。

一方、宇宙という環境では、地上と大きく条件が変わるため、過去と同じやり方では通用しません。環境そのものが常に大きく変わるので、変革への挑戦をあまり躊躇しない。変革の荒波に最初に飛び込む「ファーストペンギン」になれる人材が、宇宙で活躍できるのです。

変革のプロセスにおいては、ファーストペンギンのような挑戦者が道を切り拓き、その後に「秀才型」が続くという流れが生まれます。宇宙的な視野を持ち、多様性のもとグローバルで活躍できる変革人材、それこそが今の日本経済を立て直す上でも極めて重要な人材の要であり、来たる宇宙時代をリードできる存在だと考えています。

宇宙への扉は誰にでも開かれている

宇宙という無限の可能性を秘めたフロンティアは、今や特別な人だけのものではなく、誰にでも開かれています。自分の専門が宇宙とどう関わるかを悩むよりも、宇宙の方から自然とあなたへの接点が生まれてくると考えてください。宇宙はフィールドであり、そこに興味があれば、自然と新たな切り口や未来の可能性が広がっていくものです。

世界規模で急速に伸びている宇宙産業において、従来の「宇宙のための宇宙」ではなく、社会課題を解決する手段として「宇宙を活用する」視点が重要です。いろんな専門性を持った人が宇宙という切り口で力を結集し、社会に良い変化を与えていく。

文理融合の強みを活かした「立命館宇宙マネジメントプログラム」のような取り組みを通じて、多くの人が宇宙への扉を開けて、新たな可能性に挑戦できる時代です。変化が激しい時代を乗り越える、変革のファーストペンギンのような人材を育成していくことに貢献できれば素晴らしいと思います。

野口聡一氏

立命館宇宙マネジメントプログラム(RSMP)」について
将来の宇宙市場拡大と国際化を見据えて、宇宙分野でのビジネス展開に不可欠なマネジメント知識と技能を習得するプログラムです。「宇宙マネジメント基礎講座」、「国際プロジェクト管理講座」、「宇宙システム運用講座」の3つの講座で構成され、宇宙に関する理工学の基礎知識、宇宙法、宇宙ビジネス、プロジェクト管理などから実践的な運用シミュレーションまで、幅広くカバーします。「宇宙マネジメント基礎講座」においては、オンデマンド講座の開講も行います。宇宙に関心のある方であれば、所属や属性を問わず、どなたでも受講可能です。

費用:無料

申込受付期間:2025年11月30日まで

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