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宇宙時代の学びとキャリア論。JAXA × 立命館大学「フロンティアを切り拓く人材の条件」

Sponsored by 立命館大学 公開日:
左から佐伯和人氏、須藤勝也氏、湊宣明氏

人類が再び月をめざす「アルテミス計画」や、世界最小誤差で月面着陸を果たした日本の小型月着陸実証機「SLIM」の成功。宇宙開発は今あらためて、大航海時代のような熱を帯びている。月面居住はもはや絵空事ではなくなり、火星探査も現実味を帯びつつある。私たちのくらしや社会が宇宙と接続し、一人ひとりの学びとキャリアにも新たな可能性が開けつつある。

立命館大学は2023年に研究組織「立命館大学宇宙地球探査研究センター(ESEC)」を設立し、宇宙飛行士の野口聡一氏が学長特別補佐・ESEC研究顧問に就任。2025年2月には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が公募する宇宙戦略基金事業SX研究開発拠点に採択され、2025年3月にはJAXAの有人宇宙技術部門と、有人与圧ローバーの研究開発及び月面探査の検討・普及に関する連携協定を締結した。さらに今年、宇宙ビジネス人材を育成する「立命館宇宙マネジメントプログラム(RSMP)」を創設し、将来の宇宙ビジネスを支える人材育成を目指す。

このたび立命館大学では「フロンティアに挑む人材の育成とは何か」をテーマに特別鼎談(ていだん)を企画した。JAXA人事部長の須藤勝也氏を迎え、月探査や南極観測などの現場で活動する佐伯和人教授・ESECセンター長を交えて議論を交わした。モデレーターはRSMP代表でESEC副センター長の湊宣明教授が務めた。(以下敬称略)

フロンティアに挑む人材戦略が、あなたの学びとキャリアの地平を切り拓く──。

湊:宇宙とはもはや一部の理工系専門家だけの領域ではなく、あらゆる産業や人々の生活空間にまで、その影響力を急速に拡大しています。月や火星探査、宇宙ビジネス、地球環境の観測など、分野横断的な課題に取り組むためには、「越境的に学び、動ける」人材が必要だと考えています。

本日は、JAXAで人材育成と国際連携の最前線を担ってこられた須藤さん、南極観測や月探査機の開発を通じて現場を知る佐伯先生にお越しいただき、フロンティア人材の育成について議論します。まずは自己紹介からお願いします。

須藤:宇宙航空研究開発機構で人事部長を務めている須藤勝也です。1995年にNASDA(宇宙開発事業団、現JAXA)へ入り、総務・人事・国際・契約など幅広い部門を経験してきました。パリ駐在員時には所長として欧州宇宙機関(ESA)、その他各国宇宙機関や民間企業との連携を推進し、交渉・調整業務の最前線に立ってきました。専門は法律ですが、航空部門も含め多様な現場を渡り歩いてきたことが強みです。

須藤勝也氏

佐伯:立命館大学ESECセンター長の佐伯和人です。学生時代は隕石(いんせき)の研究に夢中になり、大学院では探査機「はやぶさ」に関わる研究を経て、月周回衛星「かぐや」に携わりました。小型月着陸実証機「SLIM」の分光カメラ開発、現在は月極域で氷を探す月極域探査機「LUPEX」ミッションに参画しています。

第66次南極地域観測隊員(夏隊)に選抜され、2024年12月から2025年2月にかけて現地で観測システムの実証試験を行いました。

佐伯和人氏

湊:私は2000年にNASDAに入り、NASDAとJAXAで約10年間、技術とマネジメントの融合、イノベーション創出を模索しました。2009年に大学へ移り、現在は立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科教授・研究科長とESEC副センター長を務めています。

今年、「立命館宇宙マネジメントプログラム(RSMP)」※を立ち上げました。プログラムは①宇宙マネジメント基礎講座 ②国際プロジェクト管理講座 ③宇宙システム運用講座の3つで構成しており、立命館大学・立命館アジア太平洋大学(APU)の学生に加え、①の宇宙マネジメント基礎講座については、社会人や他大学生、高校生などどなたでもオンデマンドで受講可能です。フロンティアである宇宙への挑戦をテーマとして、宇宙ビジネス人材の裾野拡大と、宇宙領域から新規事業を生み出す“イノベーション創出”を目指しています。 

※文部科学省令和7年度宇宙航空科学技術推進委託費『「宇宙×人文社会」分野越境人材創造プログラム』により実施

湊宣明氏

未到の環境を切り拓く──JAXAが求める人材像

湊:早速ですが、お二人にとって「フロンティア」とは何でしょうか?

須藤:フロンティアという言葉には、人類の好奇心を一気にかき立てる力があります。未知へ踏み出すワクワク感を日々の仕事で味わえるのは、本当に幸せなことだと感じています。未知の領域を切り開き、その高揚感を次の世代へつないでいくことが、私の役割だと思っています。

佐伯:私は「未踏の環境を切り拓く場」と捉えています。南極や月面のような極限環境では、想定外の事態に即応しながらチームで課題を乗り越えなければなりません。その一連のプロセス自体がフロンティアだと感じます。

「SLIM」に搭載したマルチバンド分光カメラ(MBC)が撮影した岩石。MBCは佐伯センター長が開発リーダーを務めた©︎JAXA/立命館大学/会津大学

湊:須藤さん、フロンティアに挑むための組織としてJAXAが求めている人材像を教えてください。

須藤:もちろん宇宙や航空に強い関心があるに越したことはありませんが、100%のめり込んでいる必要はありません。まずは自分の専門をしっかり深めてもらう、その上で、全体を見渡し、ほかの分野とつなげる視点を持ってほしいと考えています。

技術系の人ならマネジメントや法律やビジネスにも触れてみる、文系の人なら技術者と同じテーブルで議論できる基礎を身につけるなど。そのようなかたちで多角的に視野を広げられる人材を歓迎します。

一方で、各自の得意と不得意を組み合わせながら適材適所で力を発揮できるチームづくりは、私たち人事の役割だと思っています。

湊:宇宙開発は究極のチームワークです。チームの一員としての役割を果たしつつ、想定外の事態に対応することが求められますね。国際交渉のご経験から見えてきた「国際的に通用する人材」の条件とは何でしょう?

須藤:まずは、自分の専門などを踏まえた「個」の力が必要です。そうした専門的なバックグラウンドと同時に、相手国の文化・制度を尊重し信頼を築く力です。長期的な関係構築が最終的にプロジェクト成功を左右すると考えます。

左から須藤勝也氏、佐伯和人氏、湊宣明氏

南極で感じた、フロンティア人材の「2つの素質」

湊:佐伯先生は第66次南極地域観測隊の一員として南極で活動されておられましたが、極限環境でのチーム運営について教えてください。

佐伯:南極で驚いたのは、観測を支える人たちの存在の大きさです。資材を運び込み、インフラを維持するためには、想像以上のエネルギーが必要だということがわかりました。

湊:極限環境でインフラを整え、連携することの大切さがよく分かります。そうした現場で「これだけは持っていてほしい」と思う素養は何でしょうか。南極観測の経験から考えるフロンティア人材の素質とは?

佐伯:現場で感じた素質は大きく2つあります。第一に、想定外の出来事にも柔軟に対応できること。綿密に計画を立てたうえで、いざとなれば思い切って動く“大胆さ”が求められます。

第二に、チームプレーです。自分一人の力では限界があるので、仲間の能力を認め合い、役割を分担して成果を出す姿勢が不可欠です。頼るべき時には頼り、手伝える時には手伝う。その根底には、自然そのものへの強い好奇心と、人と協働することへの好奇心があると考えています。

南極観測船しらせと昭和基地周辺の海氷上で実験中の佐伯教授
南極大陸の白瀬氷河上空400mのヘリコプターから貫入型観測装置ペネトレータを投下する佐伯教授

湊:全体を見渡し臨機応変に動けることは重要です。プロジェクトでは自分の専門に閉じこもらず、システム全体を見る必要がありますね。

佐伯:ええ、私自身も完璧ではありませんが、その意識を常に持つようにしています。

湊:須藤さんは国際的な仕事で通用する人材についてどうお考えですか。

須藤:これまで2回にわたり、計8年間、パリに駐在しました。そこで感じたのは、日本への期待と信頼の大きさです。海外では専門能力や知識、経験に裏打ちされた発言が求められます。日本人は遠慮がちな面がありますが、“専門や経験等に基づく発信力”を発揮すれば国際的に十分に評価されます。とても大事な力だと実感しました。

湊:その力は、SLIMのように科学と工学が融合した国際プロジェクトでも求められますね。佐伯先生、現場経験を教育に取り入れる際、どのような工夫をしていますか?

佐伯:学生にはフィールド実習を課しています。観測計画の策定から装置の設置、データ取得、解析、成果発表までを一貫して体験させます。チームに課題を与え、協働して成果をまとめるプロセスで“実践力”と“対話力”を育んでいます。

右から湊宣明氏、佐伯和人氏、須藤勝也氏

世界で広がる宇宙ビジネス、分散する「宇宙人材」

湊:須藤さん、JAXAとして大学教育に望むことは何でしょう。

須藤:教育においても実践的な機会を増やし、プロジェクト型の学習を通じて失敗から学ぶ環境を用意していただけると、現場でも役立ちます。加えて、学生自身が“自分の専門を超えて挑戦する”経験を積めるような仕組みも有効だと考えます。

須藤勝也氏

今、JAXAでは採用に力を入れています。私が学生の頃は、国内で宇宙に関わるならほぼNASDAしか選択肢はありませんでした。今は民間企業でも大企業からベンチャーまで、続々と宇宙ビジネスが立ち上がってきています。欧州においては1週間に1社、宇宙ベンチャーが立ち上がっている状況です。志望者の母数が増えない中、各所に宇宙人材が分散し、大幅に不足しているのが現状です。

JAXAで一定年度ご活躍いただいた後に別のフィールドに移られたり、他の分野で活躍されたご経験を生かしてJAXAに入ってこられる方もいます。JAXAでは実践的な経験や成長機会を重視し、職員には自身の業務時間の5~10%の範囲で自己成長の経験を積むことができる制度を設けました。

湊:米Googleが採り入れてきた、従業員が自身の業務外のプロジェクトに20%を費やすことができる「20%ルール」に近い形ですね。新しいイノベーションを生み出す人材を求めておられることがよくわかります。

極限環境で求められる「自ら手足を動かし、課題を解決する力」

湊:フロンティアへの挑戦においてはエンジニアリングだけでなく、さまざまな専門性をもった人が手を動かして、ものを生み出す経験が必要だと感じます。求められる人材の質も変わってきていますね。

佐伯:宇宙だけでなく、火山など地球上でも極限の状況での探査においては、実験室で使うような装置ではなく、極限の状況に合わせた装置が必要になってきます。宇宙探査における人材育成でも、宇宙の極限環境での活動を見据えて、地球という環境においてもどれだけ自ら手足を動かすことができるかが大事です。

須藤:かつては宇宙開発というと、大型の人工衛星やロケット開発で欧米に追いつけ追い越せと国単位で競い合っていましたが、今はどちらかというと小型のもので繰り返し試行錯誤をしながら、どれだけ高頻度で宇宙にアクセスできるかが問われています。佐伯先生のおっしゃる通り、それぞれが「自分の手で課題を解決する」ことが大事な時代になっているのではないかと思います。 

佐伯:20年前の学生は、月や火星に行く未来は想像していなかったと思いますが、最近は火星に行くことがそんなに不思議な話ではなくなってきています。私たちが学生たちに未来を見せ続けないといけないし、そんな未来への期待に学生たちも応えてくれるようになってきているとも感じます。

佐伯和人氏

学生も社会人も、横断的・実践的に「本物」を学べるプログラム

湊:ここ数年でリスクマネーを調達して宇宙に挑むベンチャーが増えてきて、プロジェクトを“ビジネス”として設計する視点が欠かせなくなっています。「立命館宇宙マネジメントプログラム(RSMP)」では理学・工学にとどまらず、法律・経営など社会科学もカリキュラムに組み込み、宇宙をビジネスとして捉える力も養っていきます。

須藤:宇宙や航空の技術を軸としつつ、法律や経営も含めた横断的な教育を行う取り組みは国内ではまだ希少ですね。海外では例えば国際的に宇宙関連分野の人材を育成する国際宇宙大学があり、まさに技術的な専門性に加え、法律や経営などの課程を設けて実績を上げています。

湊:RSMPは私や佐伯先生をはじめ、宇宙業務に携わり、南極観測や月探査などを指揮した教員が設計したカリキュラムで、対面講座では立命館大学の3キャンパスと立命館アジア太平洋大学(APU)(大分県別府市)、つくばを巡りながら講義や実習を通じて実践的に学びます。国際大学であるAPUでは、国際プロジェクトマネジメントを実践的に習得します。

佐伯:私が関わるびわこ・くさつキャンパス(BKC)での講座では、チームを組んで、探査ミッションを設計から運用まで体験してもらいます。各フェーズでリーダーを交代しながら機能を維持する仕組みで、“失敗も含めた実践”で総合力を養います。

火砕流ハザードマップを例に、地球の地質解析を火星探査に応用する演習も計画中です。理学と工学の学生が融合し、実機材を扱いながら本物を体験できます。

湊:RSMPは教育だけでなく、理学・工学・ビジネス・政策のプレーヤーを結ぶ“結節点”として機能させたいと考えています。自治体とも協力し、政策面と結びつけたプログラムも構想しています。

湊宣明氏

佐伯:月面活動には多様な職種が関わります。我々研究者も気づいていないニーズを拾うには、幅広いネットワークが不可欠です。RSMPがそのハブになっていきたいですね。

湊:JAXAは民間との人材交流を進め、技術だけでなく法規制やビジネスモデルづくりでも知恵を束ねようとしていますよね。民間・行政・学術が混ざり合うチームで挑むことこそ、フロンティアを切り拓く鍵だと思います。

須藤:RSMPのような場でネットワークをつくり、異分野の知と情報を行き来させることが、イノベーションの土壌をつくると期待します。JAXAは活動の中で、月・火星探査等に加えて地球における社会への還元も重視しています。RSMPの学際教育によって、探査などの成果を社会価値へ結び付けられるような人材が育つことも期待します。

湊:RSMPではオンデマンドでの公開講義を用意し、年齢やバックグラウンドを問わず参加できる仕組みも整えました。現職の経験を宇宙領域へ転用する視点を養い、キャリアを再構築できます。

須藤:宇宙産業の裾野拡大には多様な業界との接点が不可欠ですから、社会人受講生が持つ専門知とネットワークは、我々宇宙航空機関にも大きな刺激になってくると思います。

カリキュラムは理学・工学・法律・経営を横断する(一般向けに公開するオンデマンド講義一覧)

専門に閉じこもらず、未知に踏み出そう

湊:これから宇宙やフロンティアに挑もうとする人へ、メッセージをお願いします。

須藤:自分の興味を追究しつつ、勇気をもって飛び込んでください。宇宙はあらゆる分野と接点があります。専門を磨きつつ枠を超え、未知に踏み出してほしいです。

佐伯:自分の技術や知識が宇宙でどう生きるかを想像してください。小さな接点からでも構いません。興味を行動に移し、仲間とともに挑戦してください。

湊:対談を通じ、“フロンティアに挑む”とは未知の領域へ自らの足で向かい、多様な他者と協働しながら答えを模索する営みだと再確認しました。専門に閉じこもらず、学際的かつ実践的な教育と現場経験が人を育てていきます。

RSMPでは文理を越えた学生が大学と社会を行き来しながら実践知を深める場を提供しています。宇宙に関心を持つ方々、教育関係者、そしてフロンティアに挑むすべての方々への新たな導きとなれば幸いです。

右から湊宣明氏、佐伯和人氏、須藤勝也氏

「立命館宇宙マネジメントプログラム(RSMP)」について

将来の宇宙市場拡大と国際化を見据えて、宇宙分野でのビジネス展開に不可欠なマネジメント知識と技能を習得するプログラムです。「宇宙マネジメント基礎講座」、「国際プロジェクト管理講座」、「宇宙システム運用講座」の3つの講座で構成され、宇宙に関する理工学の基礎知識、宇宙法、宇宙ビジネス、プロジェクト管理などから実践的な運用シミュレーションまで、幅広くカバーします。「宇宙マネジメント基礎講座」においては、オンデマンド講座の開講も行います。宇宙に関心のある方であれば、所属や属性を問わず、どなたでも受講可能です。

費用:無料

申込受付期間:2025年11月30日まで

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