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“成長できない・休めない・育てられない” 管理職が抱える“負のスパイラル”の正体

World Now 更新日: 公開日:
illustration: Kanehisa Kazuya

中間管理職の過半数が「業務量が増えた」と感じ、「創造的な仕事ができていない」と不満を募らせる。そんな苦境にあえぐ上司の姿を見て、管理職を避ける若い世代が増えているーー。こうした負のスパイラルが加速していく状況が最近の調査結果から浮かび上がってきました。あなたの職場で何が起きているのか。管理職を救うヒントはないのか。「罰ゲーム化する管理職」(集英社インターナショナル刊)の著者で、パーソル総合研究所主席研究員・執行役員・シンクタンク本部長の小林祐児氏に読み解いてもらいました。(聞き手・玉川透)

ーー中間管理職が最も「負担」に感じている仕事は何でしょうか?

パーソル総研の2019年の調査で、最も強く出たのは「トラブル・障害解決」でした。

でも、その他の上位をつぶさに見ると、「部下のマネジメント管理」に関連する仕事がずらりと並びます。つまり、人間関係に関する問題、評価や育成などが管理職にとって最もストレスになっているということです。

これは部下の多様化にも原因があると思います。昔だったら総合職の多くが男性で、経営層も管理職候補も男性が中心でした。つまり、男性の上司が自分の背中を見せていれば、それで育成はなんとかなっていたわけです。

しかし、女性の社会進出が進んで幹部候補になり、シニアや非正規、外国人の社員が増えている状況で、誰もかつてのようには背中を追いかけてくれなくなってきています。

加えて、大きな要素が「働き方改革」です。皮肉な話ですが、調査では、働き方改革が進んでいると答えた管理職ほど課題が「増えた」と感じています。企業はコンプライアンスを重視しているから、管理職は一般社員を定時に帰すように努力します。

でも彼らの労働時間が削減された代わりに、あふれた業務のしわ寄せが管理職に集中する。管理職も時間管理はされているとはいえ、そもそも残業手当が出ないといった問題があります。

これは、「飛んできたボールは誰かが拾う」という、日本の古き良き企業文化に根ざしている問題かもしれません。午後5時以降にクライアントからシステムトラブルの連絡があったとしたら、誰かがそれを拾って無理しても残業するし、周囲も手伝うのが当たり前です。

そして、そのボールを拾うのは多くの場合、管理職です。海外の企業なら、帰宅時間を過ぎていれば、そのまま翌日まで放っておくことも珍しくないでしょう。管理職の役割を明確化すべきだという意見もありますが、私の考えでは無駄です。そこからはみ出る業務が必ず出てきて、結局、管理職がかぶってしまうからです。

最近、初任給を最大40万円まで引き上げる企業のニュースが話題になりました。管理職と一般社員の給与差が縮小していることも、管理職の意欲をそいでいます。若手の給与が上昇する一方で、管理職の給与上昇は鈍化し、両者の差が縮まっています。

管理職になりたい人の割合のデータ
パーソル総研の国際比較調査

ーーパーソル総研が2022年に18カ国・地域を対象に行った国際調査では、「管理職になりたい」と答えた人は、日本人の20代で33.7%、30代で22.5%にとどまりました。これは国際的にも群を抜いて低い数値です。若者たちが管理職を避ける理由は何でしょうか?

まず、成長と専門性の喪失が挙げられます。課長や部長といったポストに就くと、プレーヤーとしての専門性を伸ばす余地が減少します。

マネジメントスキルは向上するかもしれませんが、若手社員にはその成長が見えにくい。例えばエンジニアでばりばり働いていた人が管理職になると、まったくコードを触らなくなる。

プレイングマネジャーもいますが、会議や評価面談が増えて非常に忙しくなり、専門性を追いかけていくのはきつくなる。そうなると、エンジニアのような専門職志向の強い職種の人は、何か転機があったときに会社を出て新しい職場に行きたいと考えても、現場から置いていかれてしまうという感覚を持つ。

実際、専門スキルから離れた管理職は、転職市場での競争力が低下する傾向があります。転職で面接を受けたときに、何ができますかと問われて、考えた末に「部長ならできます」と答える。笑い話ではなく、実際にそういう事例があるほどです。

小林祐児氏(パーソル総合研究所提供)

もう一つの特徴は、忙しい管理職ほど「付加価値」の創出が難しくなるという現実です。

これには日本独特の組織構造が深く関わっています。日本企業では、現場からのボトムアップ型の改革が重視され、トップダウンで大胆な変革を行う経営者が少ないという特徴があります。かつて発展しきた、生産性や品質の向上を目指す「改善活動」や、品質改善のための「QC活動」といった取り組みは、組織の下位から意見を吸い上げて全体をまとめていくボトムアップ型のプロセス効率化でした。

現代でもDX推進やプロダクトイノベーションなど、上からの現場に対する期待値は非常に高いものがあります。でも、最初の受け皿となる中間管理職は、それ以外のマネジメントの負荷が大きすぎて、新しいことにチャレンジする余裕はありません。

私たちの調査では、時間の不足から「付加価値を生む業務に着手できない」と考える管理職が64%に達しました。結局、前年と同じことを回してぎりぎり結果を出すという状況になるわけです。

ーーなんだか、すごく身につまされます。

国際的な比較でいえば、トップダウン型の経営者がむちゃを言って、下がそれに応じる形で経営変革を進めていくイーロンマスクのようなタイプの経営者は、日本にはいません。

なぜかというと、現場からたたき上げの社長が経営ボードになって、現場に気を遣いながら現場の創発に期待し続けるタイプの経営者が多いからです。日本企業の多くは、「我が社の強みは現場力だ」と言い続けているのですが、その現場は疲れ果ててぼろぼろになっているところがほとんどです。

もう一つ管理職が抱える悩みで多いのが「後任者の不在」です。私たちの調査でも7割近くが、自分たちの下の世代が育っていないことに悩みを抱えていました。

これには少し複雑な背景があります。別の調査でも明らかになっていますが、20、30代前半の非管理職の若手社員は上司や先輩に怒られるのを避けたがる「失敗回避傾向」が非常に強い。

小林祐児氏(パーソル総合研究所提供)

さらにコンプライアンスが強化され、管理職の側からすればハラスメントは絶対回避が大前提です。

この状況を「鳥の親子」に例えるなら、正しいエサを与えて無事にひな鳥が成長しても、ぬくぬくと巣の中にとどまって飛び立つことができない。本来なら親鳥が飛ぶ練習をさせ、ときには修羅場を経験させなくてはいけないのに、ハラスメントのリスクもあるから無理やり連れ出すわけにもいかない。そういった状況が管理職による部下の育成をますます難しくし、後任者の不足を招いているのです。

ここまでお話ししてきたように、「成長できない」「会社の役に立っていない」「育てられない」「休めない」ーー。そんな負のスパイラルが、現代の管理職を苦しめているのです。

そもそもの問題として、管理職ポストが減っているという背景があります。どの役職が管理職に当たるのか判別が難しいのですが、人口に占める割合でいうと、かなり減っていると言えそうです。

ーーえ、そうですか?! 私の周囲を見回すと、「○○補佐」「△△ディレクター」とか、管理職っぽいポストがどんどん増えているように感じるのですが。

1980年代まではそういうやり方で管理職を増やしている会社もありました。高齢化が進んでくると、この社員は頑張っているからどこかのポストに就かせたいと考えて、新たなポストを作って就かせるということは行われました。

朝日新聞のような大企業だったら、まだできるのかもしれませんが、現代ではほとんどの企業は無理です。人件費が増えるので管理職は全体として減らす方向にあります。

ーーでは、部下の数はどうでしょう? 私の働く会社では、多いところでは70人近くの部下を部長1人で面談や評価までこなしています。

それは私がいままで聞いたホワイトカラーの中では新記録ですね。ブルーカラーで20、30年前にライン長でそのぐらいの人数を仕切っている管理職を見たことがありますが、ホワイトカラーでその人数ではほとんど機能しません。早くやめたほうがいいと思います。

学術的にも実務的にも1人の管理職が向き合える部下の適正数は7人が限界と言われています。特に目標設定や評価までするなら7人以上は無理ゲーです。

1人の部長が70、80人を全て見るというのは、日本の典型的なピラミッド構造であるとも言えます。

多くの日本企業では、課長や次長がいて彼らが部下を管理しているのにもかかわらず、部長も重ねてメンバー全員を管理している。こうした入れ子構造は日本企業の特徴です。

海外の企業では、部長がメンバーに口を出す権限は与えられていません。口を出せるのは、あくまで副部長や課長など直下の階層だけです。部長が下にも口を出したら、課長の権限をすっ飛ばしてしまうことになります。それをやると収拾がつかなくなります。最もやってはいけないマイクロマネジメントで、全員が部長の忖度を始める弊害も出ます。

日本のこうした組織構造の歴史は、終戦直後にさかのぼります。日本企業は焼け野原から復興するために、職種や階層の壁を取り払い、全社一丸となって取り組む態勢を構築しました。このとき、米国のようなジョブ型にはなりませんでした。

小林祐児氏(パーソル総合研究所提供)

さらに、昇進のスタイルも欧米とは異なる「オプトアウト」方式を歩んだのも日本の特徴です。これは個人の意思と関わりなく、入社と同時にほぼ全員が「未来の幹部候補」として扱われ、出世レースを競わせるうちに、自分から抜けていくやり方。これに対して、欧米企業の多くは、最初に幹部候補を選出して育てる「オプトイン」方式を採用しています。

ーー結局、管理職は救われるヒントはあるのでしょうか?

管理職の一番の負荷は部下のマネジメントです。つまり対人コミュニケーションが複雑化したことで、強い心理的ストレスがかかっているということです。

こういう話をすると企業側はすぐに管理職研修をしましょうと言うのですが、解決にはなりません。要するに、管理職研修に偏重し、一般社員向けの研修が不足していることにより、管理職と部下のコミュニケーションギャップが生じているのです

この状況を私は、「キャッチボール」に例えます。

もし研修がうまくいって管理職が大谷翔平選手のような豪速球を投げられるようになったとしても、その球を受ける部下が素人だったら捕球できません。フィードバックも、ハラスメントも、目標管理も全て管理職の負荷を高めるだけで、受け手の部下はほったらかしです。リーダーシップは、それに従うフォロワーシップがきちんと機能しているから引き立つのです。

また、管理職同士がつながりをつくり、相談しあえる環境をつくる。孤独に陥らないように、横や縦、社外のつながりを強化することも重要です。

私が管理職研修などでお話しすると、「自分たちのレベルではどうしようもない」「もっと上が決めることだ」という意見を耳にすることがあります。

そんなとき私はあえて、「上は何も決めません、あきらめてください」と伝えています。正直言って、日本企業で上がきっちりとした具体策を決めて下層まで落とし込めた企業を、私は見たことがありません。

管理職の皆さんが、仕事量が多くて余裕がないと言って待っていても、上からは何も出てこないと思った方がいい。それよりも、仲間を見つけて横の連携でどうにか打破していこう、社長にものを言いに行こうぜ、というネットワークを作るべきです。皆さんは幸い、もっと孤独な社長ではないのですから。