1. HOME
  2. World Now
  3. 動物は想像以上にお互いを名前で呼び合っている 霊長類のマーモセットでも新たに確認

動物は想像以上にお互いを名前で呼び合っている 霊長類のマーモセットでも新たに確認

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
好奇心いっぱいにカメラを見つめるコモンマーモセット
好奇心いっぱいにカメラを見つめるコモンマーモセット。「名前」を呼び合うことが確認された、初めての非ヒト霊長類とされる=2021年7月26日、神戸市中央区

コモンマーモセットは、ものすごくおしゃべりだ。南米に生息するこの小型のサルは、さまざまな鳴き声や口笛、さえずりを駆使する。縄張りを守ったり、食べ物を発見したことを知らせたり、危険が迫っていることを警告したり、密林の葉陰に隠れている家族を見つけたりするためである。

このサルはまた、人が名前を使うのと同じように、それぞれの個体ごとに固有の鳴き声を呼びかけに使うことが新しい研究で示唆された。この発見で、マーモセットが個体に対して名前に似た音声ラベル(訳注=他と区別するための識別子)を使う初めての非ヒト霊長類として知られることになった。

2024年までは、コミュニケーションをとる際に名前を使うことが知られていたのは人間、イルカ、オウムだけだった。ところが、科学者たちは6月、アフリカゾウもまた名前を使うようだと報告した。彼らは、人工知能(AI)を搭載したソフトウェアを使用して、ゾウの低いうめき声の微妙なパターンを検出し、それを突きとめた。

今回の新しい研究は、学術誌「サイエンス」に8月に掲載されたもので、別の研究チームがAIを使ってマーモセットの鳴き声に潜んでいる名前に似た音声ラベルを見つけだした。

この発見は、高度な計算ツールを使って動物のコミュニケーションを解読するという急速に台頭しつつある科学的取り組みの一環で、言語の起源を解明する一助になるだろう。また、動物界の中で、名前を付ける行動はかつて科学者たちが想定していたよりも広範に行われている可能性を示唆している。

「この研究が示しているのは、動物たちは私たちの想像以上に、お互いを名前で呼び合っている可能性が高いということだと思う」とジョージ・ウィッテマイヤーは言っている。米コロラド州立大学の保全生物学者で、最近のゾウ研究を率いているが、今回のマーモセットの研究には関わっていない。「私たちは、これまできちんと調べていなかった」と言うのだ。

マーモセットは非常に社会性が豊かで、つがいと長期的な絆を結び、小さな家族集団で協力し合って子育てをしている。彼らはこずえに隠れているかもしれない他のマーモセットとコミュニケーションをとるために、笛のような甲高い「フィーコール」を発する。

「お互いが見えなくなると、フィーコールをやり取りし始める」とデービッド・オメルは言う。エルサレムのヘブライ大学の神経科学者で、今回の研究を率いた。

福井市山奥町の施設で飼育されているコモンマーモセットのつがい
福井市山奥町の施設で飼育されているコモンマーモセットのつがい。右がメス、左がオス。マーモセットは非常に社会性が豊かで、仲間と長期的な絆を結び、小さな家族集団で協力し合って子育てをする=2020年8月4日

科学者たちは以前、こうしたフィーコールには、その声を発するサル自身を示す情報が含まれていることを明らかにしており、その鳴き声はサルが森林の中でお互いを見いだすのに役立つという説を唱えている。

今回の新しい論文のために、科学者たちは三つの家族集団から、飼育下にある10匹のマーモセットを選び、異なるペアの間のフィーコールを分析した。一度に2匹のマーモセットを研究室に連れてきて、別々の囲いに入れた。2匹の間をカーテンで仕切る前に、会話する相手をチラッと見せてやる。

科学者たちは、カーテンで仕切られた後にマーモセットが発するフィーコールを録音し、最終的に5万4千件近い鳴き声をデータベースに蓄積した。それから、その鳴き声を機械学習システムに入力したところ、相手によって鳴きわける声の違いを検出できた。音響的な特徴だけで、このシステムは特定の鳴き声がどの相手に向けられたのかを予測することができた。

「偶然で済ませるには正確すぎた。つまり、その鳴き声に受け手の身元に関する情報が含まれていたのだ」とオメルは言う。

そして、科学者たちが録音した鳴き声をマーモセットに聞かせると、彼らは自分の「名前」が含まれた鳴き声には、含まれていない鳴き声よりも高い確率で反応することが判明した。「サルたちは実際に自分の名前を認識し、正しく反応することができる」とオメルは言っている。

母親の背中に乗り、小さな顔をのぞかせるコモンマーモセットの赤ちゃん
母親の背中に乗り、小さな顔をのぞかせるコモンマーモセットの赤ちゃん。マーモセットは小さな家族集団で生活し、子育てを助け合う=2011年9月、川崎市幸区の夢見ケ崎動物公園

しかし、この結果から新たな疑問が生じた。個々のマーモセットが仲間にそれぞれ独自の名前を付けているのだろうか? それとも、すべてのマーモセットが何らかの形で、各個体に同じ名前を付けることになったのか、という疑問だ。

その答えは、その中間にあることを研究者らは突きとめた。同一の社会集団や家族集団に属すマーモセットは、どのマーモセットに対しても似たような名前を使う傾向があったが、それぞれのグループで使われる名前には違いがあった。

これは、マーモセットが集団内の他の個体から名前を学んでいることを示唆している(研究対象となった3集団のうち、二つの集団は生物学的に近縁ではない個体で構成されているため、遺伝学ではこの違いを完全には説明できない、と研究者らは指摘する)。

ウィッテマイヤーは、マーモセットは「認知能力という点では、ごくありふれた霊長類」であると指摘したうえで、この発見には驚いたと言っている。しかし、その結果は「実に説得力がある」と付け加えた。

これまでのところ、名前を使うことがわかっている動物たちは、いずれも高度に社会的で、集団生活を営む生き物である。そうした特性が名前を付ける行動を生み出す一因になっているのかもしれない。

マーモセットに関して言えば、「個体間の関係が、彼らの存在の基礎となっている。だから、名前が本当に役立つというのは理にかなっている」と彼は指摘する。(抄訳、敬称略)

(Emily Anthes)©2024 The New York Times

ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから