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世界の高級ニット工場で活躍する日本発の島精機 「まるでF1カー」高い評価の理由は? 

World Now 更新日: 公開日:
島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」で作ったニットの衣料品
島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」で作ったニットの衣料品=2024年6月、イタリア・モモ、後藤洋平撮影

世界の一流ブランドで日本産のニーズが高まっている。求めているのは、素材だけではない。衣料品を作る機械でも、圧倒的な評価を集める製品があり、世界各地の工場で活躍している。そんな現場のひとつをイタリアで訪ねた。(後藤洋平)

イタリア北部ミラノから西へ、車で約1時間。庭付きの広い戸建て住宅が並ぶのどかな小さな町モモの中心部に、マリフィーチョ・ディ・モモはある。「マリフィーチョ」とはイタリア語で「ニットメーカー」の意味だ。ゆったりとした敷地には大きな芝生のエリアがあり、自動芝刈りロボットが動いている。

近代的なグレーの建物の中に入ると、ニットマシン16台が整然と並んでいて、まるで日本の工場のようだ。実際、使われているのは、和歌山に本社を置く島精機製作所の横編(よこあみ)機。完成した製品が置かれた棚に目をやると、ファッションに興味がある人なら誰もがうなるブランドのタグが付いた、一目で複雑な構造とわかるニットスカートがあった。

島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」
島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」=2024年6月、イタリア・モモ、後藤洋平撮影

「このスカートは3ゲージの太い糸で編んだ生地が、14ゲージの糸で編んだ細い膜で覆われて透けて見えるんだ」。ニットマシンの管理をしているアレッサンドロさんは得意げに話し、「でも、これは撮影禁止。ここで作っていることも明かせない」と釘を刺した。

「どこでも、シマを使ってる」

なぜ、島精機なのか。その問いにアレッサンドロさんはおどけた顔で「それを説明する必要ある?高級ニットの製造会社は、みなシマを使ってる。当然のことだ」と答えた。

そして、続けた。「何よりもでき上がった製品の品質が高い。そして、驚くほど機械にトラブルがない」。それだけ使いやすい機械なのかと思ったが、「それは違う」と言う。「システムのプログラミング習得は大変だ」

確かに、ニットマシンが置かれた棟の入り口付近にはコンピューターが置かれ、IT企業か、証券トレーダーのデスクのように複数のモニターが並んでいる。

島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」。複雑な編みを実現するため、プログラミングは必須だ
島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」。複雑な編みを実現するため、プログラミングは必須だ=2024年6月、イタリア・モモ、後藤洋平撮影

アレッサンドロさんは「このプログラミングで指示を出すことで、美しく難しい編みが出来る。さっきのスカートのような物は、時間もかかるしコンピューターへの指示も複雑だ」。取材の翌日にも、島精機イタリア支店から現地スタッフが来て、プログラミングの研修を受けると明かした。

モモの近くの街には、大手ファッショングループ、ケリングの事務所がある。他にも数々のビッグブランドのデザイナーたちが訪れて生産体制を確認し、依頼していくという。

2020年に創業したイタリアのニットブランド、マガジーノ・リカンビも、この工場にニットの製造を依頼している。ロベルト・ポッギオ社長は「肌触りの良い高級ニットができるが、最初に依頼した時には『製造ラインがいっぱいだから』と断られた。工賃も高いが、その価値はある」と話した。

島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」ではニット衣料品を作っている
島精機の機械を使う工場「マリフィーチョ・ディ・モモ」ではニット衣料品を作っている=2024年6月、イタリア・モモ、後藤洋平撮影

島精機は、全自動の手袋編み機を開発した先代が1962年に創業した。1969年には横編機メーカーとして本格的にスタートし、1971年の国際繊維機械見本市で高評価を得るなど、徐々に存在感を高めた。

現在では、生地のパーツを縫い合わせることなく、ニット服を編み上げる同社が開発したニットマシン「ホールガーメント横編機」が世界的に広まり、その地位を確固たるものにしている。

島三博社長は「ものすごく細かい柄や特殊な形状のものでも正確に編める。それが売りですが、それゆえのデメリットもある」と話した。

「操縦者」を養う 世界中から研修に

デメリットとは何か。それは、イタリアでアレッサンドロさんが口にした、「プログラミング」だ。複雑な編みを実現する島精機のニットマシンは〝操縦者〟を極めて限定する。

「車にたとえると、普通免許では運転できないシロモノで、まるでF1カー。だから、機械を開発して売るだけではなく、取引先の技術者さんの育成が欠かせない」(島社長)。世界各国に拠点があり、取引先に赴くほか、和歌山市の本社にも各国から日々続々と研修を受ける人たちが訪れている。

そんなに複雑なニットが製造できる機械に、どれほどの需要があるのか。島社長は「大量生産の服を製造するブランドは『1着30分以内で作れるような機械を』と言う。でも、ハイブランドの要望は全く違う。むしろ逆で『操作を簡単にできるようにはしないでくれ』と。言うことが違いますよね(笑)」。

島精機の機械で作ったニットの衣料品
島精機の機械で作ったニットの衣料品=同社提供

現代のファッション業界で必須となりつつある環境への配慮も、追い風だ。「糸から服を作るニットは、どうしたって端切れが出てしまう反物と比べてサステイナブル。環境の負荷を低減できるということは胸を張れるし、これからの時代に合っている」