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HIV感染からAIDS(エイズ)発症までのメカニズムと治療法が確立するまでの歴史

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キース・ヘリングの作品「Stop AIDS」(1989年)を使ったポスター
キース・ヘリングの作品「Stop AIDS」(1989年)を使ったポスター。ヘリングはエイズで翌90年に亡くなった=Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection.

感染から発症までの潜伏期間が長いことに加え、ウイルスの変異スピードが速く、薬剤耐性が起きやすいことが、エイズの治療や予防を困難にしてきた。今では薬も進化し、適切な治療を受ければ発症は抑えられるようになった。それでも「流行終結」に届かないのは、必要な人に支援が行き渡らないことに加え、この病気独特のメカニズムゆえだろう。

HIVに感染すると、免疫の調整を担うリンパ球が攻撃される。発熱や頭痛など風邪に似た症状を訴える人もいるが、無症状の人も多い。

その後の潜伏期間は、数年から10年以上に及ぶ。体内でウイルスが増殖を続ける一方でリンパ球は減っていくので、免疫力は徐々に低下する。自覚症状はないため検査を受けない限り気づかず、ほかの人にうつして感染を広げてしまう。

治療を受けないままだと、健康な人なら自身の免疫で抑えられるはずの「日和見感染症」にかかるようになる。活動性結核など23の指標疾患のどれかを発症すると、エイズと診断される。発症まで気づかなかったケースも多く、日本では新規HIV感染者の約3割を占める。症状が出る部位は脳、肺、腸、眼など様々だ。

医療面での光明は、1996年の国際エイズ会議で発表された「抗レトロウイルス治療」の確立だ。複数の抗HIV薬を欠かさず服用することで、耐性獲得を防ぎつつHIV増殖を抑え、エイズ発症を防ぐ。1日に計20錠以上も服薬する必要があるなど患者の負担も大きかったが、2000年代に入ると服薬は1日1錠ほどでよくなり、近年では2カ月ごとの注射で済む治療法も開発された。

抗HIV薬を感染予防のために使う「PrEP」も、10年ほど前から世界中で導入が進んでいる。周回遅れだった日本では、「ツルバダ」が8月末に予防目的でも承認された。

資金面で重要な役割を果たしてきたのは、2002年にスイスに設立された「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称:グローバルファンド)」だ。日本が議長国を務めた2000年のG8九州・沖縄サミットで、感染症対策が主要議題になったことが、設立のきっかけになった。

国連は2021年、エイズに関する国連ハイレベル会合で、2030年までの流行終結を目指す宣言を採択。2025年までの数値目標として、HIV感染者の95%が感染を自覚し、その95%が治療を受け、さらに、その95%がウイルス量を抑制できるようにすることも掲げた。

一方、HIV、エイズの問題に取り組む国連機関、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2023年も130万人が新たにHIVに感染したと推計している。

国際医療福祉大の田沼順子教授(感染症学)
国際医療福祉大の田沼順子教授(感染症学)=2024年7月12日、千葉県成田市、中崎太郎撮影

長くエイズ患者の治療や患者参加型医療の実現に取り組んできた、国際医療福祉大の田沼順子教授(感染症学)は言う。「エイズを終わらせるための一つひとつの道具はそろっている。あとは、社会にどう実装していくか。人類が試されている」