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妊娠4カ月でHIV感染が発覚 余命2年の宣告から聖火ランナーになるまで

国境なき感染症 私たちの物語
モーリーン・ムレンガさん=本人提供
モーリーン・ムレンガさん=本人提供

――ご自分のHIV感染を知ったのはいつですか。

22歳のころで、妊娠して4カ月でした。医師からは「余命は2年。妊娠しているのでもっと短いだろう」と言われました。

診断後、子どもの父親は家を出て行きました。彼は自分がHIV陽性だと疑われることを恐れ、周りから後ろ指を指されるのに耐えられなかったのだと思います。

私は当時、ナイロビの私立学校に勤めていましたが、校長に陽性であることを知られ保護者からの抵抗を恐れた学校側の判断で仕事も失いました。

お給料のよい仕事はすべてHIVの検査が必要だったので、生計を立てるためには工場での肉体労働しかありませんでした。

――治療手段がない中、HIV感染の事実をどう受け入れたのですか。

深く落ち込み、孤独感にさいなまれました。唯一の支えは、自分の中に宿っている「命」に生きるチャンスを与えたいという気持ちでした。

息子が私より先に死んだら耐えられない、でも私が先に死んで息子がエイズ遺児になってしまうのも絶対に避けたいと思っていました。

そんな中、HIVの陽性となった女性をサポートするグループに出会いました。

他の女性たちの話を聞き、元気に生きる彼女たちを見ると、私もしばらく元気に生きられるのかもしれないという希望がわいてきました。

一方で、死を迎える仲間に寄り添うこともありました。彼らが亡くなる直前には、みんなで入浴や身の回りの世話をしました。

――命を救われたグローバルファンドはどのようにして知りましたか。

HIVを持って生まれた息子と暮らすうち、抗レトロウイルス薬(ARV)がHIV陽性者を延命できるという話を聞きました。2002年、私が25歳の頃です。同時に薬を買えない人のためにグローバルファンドが薬を調達しているということも知りました。

最初はグローバルファンドに直接手紙を書こうとしたのですが、グローバルファンドは各国政府を通じてのみ支援することを知りました。そこで、まずは政府に対し、グローバルファンドから治療薬を調達して欲しいと訴えました。

政府は当初、「ケニアにエイズ患者がいると知られたら観光に悪影響を及ぼす」として、私たちの申し出になかなか応じてくれませんでした。それでもあきらめずに働きかけ続け、最終的にはグローバルファンドからの支援が実現しました。

ケニアにARVが届けられるようになり、私と息子も2004年にはなんとか試験的な治療に参加することができました。

セネガルで開催されたグローバルファンドの会合で副議長を務めるモーリーン・ムレンガさん=2019年、本人提供
セネガルで開催されたグローバルファンドの会合で副議長を務めるモーリーン・ムレンガさん=2019年、本人提供

――グローバルファンドの支援はケニアにどんな変化をもたらしたのですか。

HIV陽性者の健康はもちろんですが、社会にも大きな変化がありました。それまで彼らは就職ができず、家族に依存する存在でした。

しかし、治療が受けられるようになったことで仕事に就けるようになり、家庭を持ち、家族を養い、健康的な生活を送れるようになったのです。

見た目も病人ではなくなり、治療でウイルス量を抑えられることが知られるようになりました。人びとの見方がどんどん変わっていきました。

グローバルファンドは世界から集めた資金で、治療薬や診断キット、予防のためのコンドームなどを調達して各国に提供しています。

単に調達や供給をするだけではありません。支援する対象である「人」に焦点を当て、保健医療が公平に全ての人に行き渡るように資金を使っています。

HIV治療薬も当初は富裕層のみが手に入れられる高価な薬でしたが、グローバルファンドによって誰もが手に入れられる薬になりました。

次男もグローバルファンドが支援するクリニックで出産し、HIVに感染せずに生まれています。

――HIV感染者や若い女性、少女の支援に積極的に取り組まれていますね。

若い女性や思春期の少女がHIVに感染すると、差別や偏見、不平等に直面することを、私は身をもって経験してきました。

そんな弱い立場の彼女たちを支援するため、2008年に財団を設立しました。私の自宅に若い女性が何人か集まるようになったのをきっかけに、今では教育をはじめ、HIV陽性の女性が直面するさまざまな障壁に対処する大きな団体になっています。

命を救ってくれたグローバルファンドに理事会の当事者代表として参画しました。ケニアからの支援要請などを調整するメンバーとして活動しています。

グローバルファンドの会合で登壇するモーリーン・ムレンガさん(左)とピーター・サンズ事務局長=撮影・David O Dwyer/©The Global Fund
グローバルファンドの会合で登壇するモーリーン・ムレンガさん(左)とピーター・サンズ事務局長=撮影・David O Dwyer/©The Global Fund

――新型コロナウイルスの感染拡大はご自身の生活にどんな影響を与えましたか。

皆さんと同じく、今はとてもつらい毎日です。特に、HIVと共に生きる人々のネットワークのリーダーとして日々支援を求める電話を受けていますが、薬をもらいに行くためのバス代がない、仕事を失った、食べる物がない、空腹で薬を飲むこともできないなどの訴えがあります。

彼女らのことが頭から離れず、でも自分にできることは限られている。苦しいです。

――新型コロナウイルスの感染拡大から得られた教訓は何ですか。

新型コロナウイルスそのものはよくありませんが、前向きな変化ももたらしていると思います。

新型コロナウイルスは全世界に影響を与えているので、世界中がその学びを共有できるからです。

エボラ出血熱の場合、その地域では互いに支え合う大切さを学びましたが、ほかの地域にもその教訓が知られることはありませんでした。

二つ目に、新型コロナウイルスは毎日、最新のデータが更新されます。これは世界的な対策を考える上でとても重要な判断材料があるということです。ほかの感染症対策を考える上でも大変参考になります。

これに対し、マラリアの場合は2019年にケニアで入手できる最新の統計データが数年前のものでした。

三つ目は、HIVや結核、マラリアなど、感染症ごとに別々の対策を講じていたのが、統合できる部分があると分かった点です。

例えば、結核を診断する際に使用していたGeneXpertが、カートリッジを変えればコロナ診断に使えます。複数の感染症や公衆衛生上の課題に対しても同じ資源・検査施設を利用でき、効率性を高めることができるということです。

ただ、残念な点は、世界がコロナに対して十分な準備ができていなかったということ。コロナばかりに注目が集まるようになってしまいましたが、他の感染症も対策を止めるわけにはいきません。

今後、新たな感染症に対応するときは、同時に既存の感染症への対応も忘れないようにしなければならないということも学んだと思います。

――最後に日本の読者に伝えたいメッセージはありますか。

グローバルファンドに投資してくださった日本の皆様と日本政府に感謝の気持ちを表したいと思います。

おかげで、私たちは生き延びることができました。ご支援は決して無駄ではありません。私たちや私たちの家族、友人、隣人の命を救い、私たちが仕事に就いて家族を養い、普通の生活を送ることを叶えてくれています。

HIV、結核、マラリアの3つの感染症に加え、コロナという新たな感染症と闘うためには世界的な連帯が必要です。

グローバルファンド第6次増資会合に出席するモーリーン・ムレンガさん(左)。出席者の中には、ピーター・サンズ事務局長のほか、フランスのマクロン大統領やビル・ゲイツ氏、U2のボノ氏もいた=撮影・David O Dwyer/©The Global Fund
グローバルファンド第6次増資会合に出席するモーリーン・ムレンガさん(左)。出席者の中には、ピーター・サンズ事務局長のほか、フランスのマクロン大統領やビル・ゲイツ氏、U2のボノ氏もいた=撮影・David O Dwyer/©The Global Fund