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HIV啓発するはずの自分が感染 ゲイの男性が感じた負い目と教訓「自分も人間」

国境なき感染症 私たちの物語
国連合同エイズ計画の会合に出席するジェフェリー・アカバさん(右から2人目)=2017年、本人提供
国連合同エイズ計画の会合に出席するジェフェリー・アカバさん(右から2人目)=2017年、本人提供

結核に関する国際会合に出席するジェフェリー・アカバさん=2018年、本人提供
結核に関する国際会合に出席するジェフェリー・アカバさん=2018年、本人提供

――大学生の頃からエイズに関心を持って勉強していたそうですね。

大学で人類学を専攻し、HIV感染やエイズ、さらに健康に関連する人々のリスク行動へと研究を拡大していきました。学生だった2006年からは(フィリピンの)ケソン市で、セックスワーカーのためのHIV予防や啓発活動に関わってきました。

にもかかわらず、2011年に自分もHIV陽性と診断されました。当時、パートナーの男性からうつった性感染症があり、HIVに感染するリスクがあることもわかっていながら、彼のことが好きだったので、予防法などを放り出してしまっていたんです。

どんなにHIVとセックスに関して自分を守るための注意事項や方法を知っていても、強くひかれる相手と出会うと、学んだことをすべて投げ出してしまうということです。

HIV陽性と判明した時、すぐには治療を始めませんでした。というのも、HIVに関する啓発活動を行ってきたのにHIV陽性になったということは、他人に注意していることを自分自身が守っていないという負い目があったからです。

3年かかってようやく、結局は自分も人間であって、判断を鈍らせるいろいろな要因があったんだ、と思えるようになりました。2014年に一刻も早く治療を始めることを決意しました。

――HIVに関する予防や啓発活動をしていながら自身もHIV陽性となってしまったとのことですが、やっと治療開始に踏み切ったときに結核にもかかっていたそうですね。

2014年にHIV治療を開始するために検査を受けたときに結核と診断されました。朝起きるとひどく汗をかいていて、ベッドがまるでバケツの水をひっくり返したかのように濡れている状態や、周りも気づくほどに痩せていっていたのです。

残念ながら、どこで結核になったのかはわかりません。ただ、2006年に祖母がひどい咳と痰で亡くなり、医師の診断のひとつに結核があったのですが、検査はされませんでした。その時から潜在性結核感染症だったのかもしれませんが、発症したのは2014年でした。

――結核とHIVの治療を同時進行で受けられたということですか。

まず2014年4月に6か月間の結核治療を開始しました。HIVクリニックの医師からは、最初の2か月の治療を終えれば、すぐにHIVのための抗レトロウイルス(ARV)治療を開始できると言われました。

半年間の結核治療のうち、はじめの2か月は副作用がとてもひどくて最悪でした。朝食前に服用しなければならない一つの薬は、飲むと激しい頭痛に襲われましたし、尿がオレンジ色になる薬もありました。そして、下痢や腹痛に悩まされました。それでも仕事には行かなくちゃいけない。本当に大変でした。

2か月後に開始したARV治療に関しては、これまで自分がHIVに関わって、めまいや頭痛などの副作用への対処法を学んでいたことが、本当に役に立ちました。

――結核を克服し、HIV陽性の当事者となって、ご自身の活動内容に変化がありましたか。

フィリピンでは当初、同じ立場の人への啓発を行うピア・エデュケーターとしてボランティア活動をしていた関係で、2008年から2009年にかけて、エイズ・結核・マラリア対策に取り組む国際機関・グローバルファンドから支援を受けたエイズ支援プログラムで働くようになりました。

そのまま2009年から2011年には同じグローバルファンドの資金のモニタリングと評価を担当するコーディネーターになり、フィリピンの各州に出向いて疫学調査をしたりしていたのです。

午前中は警察にセックスワーカーの人権について掛け合い、他国の政策から得られる教訓を通してフィリピン国内のセックスワーカーを虐待や暴力から守ることができるかを考えていました。

夕方になると、別のチームと一緒にセックスワーカーや男性同性愛者が集うさまざまなホットスポットや地域を回って、インタビューをし、疫学調査に関わりました。

こうした経験を買われ、HIV治療を始めてすぐにフィリピンを出て、タイでアジア・太平洋地域の人々の健康や人権を守るための市民社会組織のネットワークであるAPCASO(アプカソ)という非営利組織で働くようになりました。

政策提言、声明や政策文書の作成などを任されています。当事者である私が関わることで、エイズと結核の相互関係について理解を深めてもらいやすくなりますし、政策文書やさまざまな資料を作成するときは、発表前に必ず仲間や当事者のグループの意見をもらうようにしています。

アジア太平洋地域のHIVと結核に関する会合で議論するジェフェリー・アカバさん(左から3人目)=2018年、本人提供
アジア太平洋地域のHIVと結核に関する会合で議論するジェフェリー・アカバさん(左から3人目)=2018年、本人提供

――新型コロナウイルスに直面して、HIVや結核対策で得てきた経験は役立てていますか?

HIVや結核対策の中で始めた人権活動を継続していくことの重要性を強く感じています。誰も取り残さず、誰も犯罪者にしない。公衆衛生の名の下に、一部の人々を追放することを正当化したり、特定の人々を犯罪者扱いしたりするケースを目の当たりにしてきましたから。

ワクチンの話でも同様に、誰が先に接種できるのか、どの国が最初にワクチンを入手できるのか、優先順位が決められています。

誰も取り残されないように、また一部の人々を犯罪者扱いにしないように、人権に関する原則を尊び、推進する活動は継続しなければいけないと思います。

またコロナウイルスに感染して回復した当事者が、その経験をコロナ対策に活かせるようにすることも重要です。

多くの国、特に私の周りのアジア諸国では、コロナへの対応の多くが、ロックダウンや外出禁止令、マスクをしていないと罰せられるなど、軍隊的な規制になっています。でも、感染の予防方法や、家族がコロナに感染したときの対処法など、人々がお互いに学び合うようなリスクコミュニケーションや保健教育というのは、ほとんどなされていません。

これまでのHIVや結核対策の経験から、当事者の関わりの重要性が明確になっているので、コロナ対策にも、こうした経験は生かさなければなりません。

HIV、結核、コロナウイルスなど、どのような感染症であっても、収束させるためには、一つの方法がすべてに通用するわけではありません。

行動制限がすべてを解決するかのような、大規模で包括的なアプローチばかりが行われてきましたが、対策の対象者に合わせた、個々のアプローチが必要です。でも、コロナ対策では、まだそれができていないと思います。

コロナの影響は、雇用や経済、健康、ジェンダーに基づく暴力や家庭内暴力、さらには精神衛生など、生活のさまざまな部分に及んでいます。こうした中で、置き去りにされがちな人たちの声に耳を傾け、対策に参加できるようにすることこそが、市民社会団体としての第一の役割です。

また、今年発生した第2、第3波では、これまでの反省点を拾い出し、明確にしなければならないと思います。昨年の対策の中で、成功も失敗も、多くの学びがあったはずですが、今年も渡航制限やワクチンの優先順位付けなど、同じことの繰り返しばかりです。

アメリカや欧州諸国ではすでに15歳と16歳にワクチンを接種していますが、ここアジアでは、昨年成功例と呼ばれた台湾でさえ、ワクチン不足のために接種できた人は人口の1%ほどにすぎません。

コロナのパンデミックで、今何が起こっているのか。私たちは何かを見逃していないのか?このようなパンデミックにどのように対処するかについては、HIVや結核、マラリアなどの経験を振り返る必要があるでしょう。

健康と経済のどちらを優先させるかという議論も、個人的にはとても不条理です。私たちはSDGsの時代に生きているのですから、すべてを相互につながるものとして考えるべきです。

働けなければ家族のために食料を買うこともできないし、食事が準備できない。そうすれば健康状態が悪化してしまう、ということは誰でもわかることです。どちらか一方の選択を強制するのではなく、もっと賢明な方法があるはずです。

グローバルファンドとの連携を図る会合で語るジェフェリー・アカバさん=2019年、本人提供
グローバルファンドとの連携を図る会合で語るジェフェリー・アカバさん=2019年、本人提供

――日本の読者にメッセージがありますか。

東京2020オリンピックの大会モットー "United by Emotion"にあるように、「人は決して一人ではない」のです。私たちは皆、人として同じように気持ちや感情を持っています。寂しく感じたら誰かと話してみてください。そしてまた自分からも誰かに手を差し伸べて、元気にしているか、困っていないか聞いてあげてください。それは私たちの責任でもあるのです。

どんな状況下で開催されようと、世界的な協調と連携を掲げるオリンピックの精神は変わらず存在すると思います。今直面しているコロナのパンデミックが早期に終息することを願い続けなければなりませんが、それは皆が協力して初めて実現できるのです。