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酒飲まない下戸が下克上?「ゲコノミスト」に注目、酒でもうける店の仕組みも変わるか

LifeStyle 更新日: 公開日:
飲まない人の参加も呼び掛けた酒蔵のイベントで、ノンアルを楽しむ女性=2024年5月、奈良県葛城市、藤崎麻里撮影

飲み会で下戸の人が「ウーロン茶」と言っても、そこまで肩身が狭く感じなくてもいい、そんな時代になってきた。ただノンアルというだけでなく、趣向をこらした飲料まで準備されたイベントも登場。「飲まない」「飲めない」人も一緒に場を楽しむ流れがじわり生まれている。(藤崎麻里)

奈良県葛城市の「梅乃宿酒造」で5月末、「飲む人も飲まない人も一緒に乾杯!」と銘打たれたイベントが開かれた。同社130年の歴史で初めて飲まない人の参加も打ち出した。

日本酒とリキュール酒の免許をもつ酒造だけに、会場には日本酒やビールだけでなく、色とりどりのグラスが並んでいた。あらごしの梅や桃のジュースと、アルコールが入ったものを両方そろえ、同じ味わいを楽しめるようにした。

家族でイベントに参加した同県宇陀市の会社員西本るり子さん(62)は日本酒の香りが好きだが、弱くてあまり飲めない。「夫が楽しそうに飲んでいるのがうらやましい。一緒に楽しみたいので、同じ味わいをノンアルで飲めるとうれしい」とほほ笑んだ。葛城市の主婦田中由佳さん(49)も「子どものころからの友人に飲まない人もいるので、誘いやすかった」と話した。

学生時代からの友達同士が中心のグループは「飲まないころからの友達だから酒のあるなしは関係ない」「(飲まないけれど)これなら一緒に楽しめると思ってきた」と話していた=2024年5月、奈良県葛城市、藤崎麻里撮影

同社がイベントを開いた背景には、飲まない人が増えている危機感もある。最新の厚生労働省の国民健康・栄養調査(2019年)では、週に3回以上、1日当たり1合以上を飲む「飲酒習慣あり」と答えた40~60代は25%を超えたが、30代は17.2%、20代は7.8%と低下傾向が目立った。

社員の間では、お酒の席では「先輩後輩」「目上目下」といった上下関係が強調されがちなため若い人にお酒が忌避されるのでは、との意見があった。吉田佳代社長(44)は「誰もがフラットに楽しめる場を提供したい」と話す。

「飲まない人も一緒に」は広がっている。5月中旬、東京都内で開かれたドイツビールのイベントでも、ノンアルコール飲料が増えた。「みんなでワイワイできる場は好きなので一緒に楽しめてうれしい」。会社員太田かれんさん(27)はパイナップルのジュースで乾杯した。

東京都内で開かれたドイツビールの祭典でも今年は、ノンアル飲料のレパートリーが増えているという。パイナップルジュースもその一つで、今年から始まった=2024年5月、東京都港区、藤崎麻里撮影

投資家の藤野英人さん(57)は、お酒を飲まない人たちを「ゲコノミスト」と呼び、2019年にフェイスブックのグループを作った。自ら下戸で、「お酒飲めないの? 人生損だよ」と言われて傷ついた経験があるといい、グループは、気になるニュースや店などの情報交換や交流の場だ。

今では5600人以上が参加するグループは、「平成の時代まではゲコは冷遇されていたが、令和の時代になってついに全国のゲコは立ち上がることになった。わたしたちゲコは、酒飲みの自由を奪うつもりはなく、ただただ共生したいだけである」と打ち出す。体質的に飲めない人、健康上などの理由から飲まなくなった人、酒の味や香りは好きな人、飲めるが酒の味が苦手な人など、さまざまなゲコがいることもわかった。

投資家の藤野英人さんは、ライフスタイルではなく経済の観点から、飲まない人が目立つ現象をとらえ、「ゲコノミスト」と名付けた本を出版した=2024年6月5日、東京都千代田区、藤崎麻里撮影

これまでは「飲む人が主流」だったが、立場は逆転するかもしれない。藤野さんは飲まないことをライフスタイルではなく、投資家としての視点で語る。「いまの飲食業の多くは、酒でもうける仕組みになっている。下戸が『安い客』と軽く見られてきた面がある。これからは飲まない人が増えることで、店側が認識を変えていく必要がある」とみる。