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米大統領選、ハリス氏が集める民主党の期待 争点や勝敗予想、日本への影響はどうなる?

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
2020年、民主党から大統領選に立候補したジョー・バイデン氏が、カマラ・ハリス氏を自らの副大統領候補に指名後に初めて見せたツーショット
2020年、民主党から大統領選に立候補したジョー・バイデン氏が、カマラ・ハリス氏を自らの副大統領候補に指名後に初めて見せたツーショット=2020年8月12日、デラウェア州、ロイター

11月に行われる米大統領選で、バイデン大統領から後継指名を受けたハリス副大統領が今月、民主党の候補者指名を獲得する見通しになりました。米世論調査では、ハリス氏とトランプ前大統領が僅差で競り合っているようです。米州住友商事ワシントン事務所の渡辺亮司調査部長に、ハリス氏に候補が交代する見通しになったことを受けての、現在の米国内の雰囲気について聞きました。(牧野愛博)

――バイデン大統領の大統領選撤退は、米国内でどのように受け止められているのですか。

バイデン氏が撤退を表明した7月21日、民主党支持者の間で当初、悲しみと感謝の声が飛び交いましたが、すぐに新候補による選挙戦挽回への期待感であふれかえりました。

撤退は、バイデン氏自身の判断によるものでしたが、実際はペロシ元下院議長やオバマ元大統領ら民主党重鎮からの圧力に屈した側面もあったようです。バイデン氏が撤退しない場合、民主党が敗北するとの悲観的観測が広がっていましたが、一夜にして息を吹き返した格好です。リベラル系メディアの報道や新たに政治献金をした支持者数の多さからも、民主党支持者を中心に投票意欲が高まっている印象を持ちました。

一方、共和党は、バイデン対策を念頭に準備してきたため、大統領選の行方に不安感が広がっているように見受けられます。バイデン氏の高齢不安について批判していましたが、今度は民主党がトランプ氏の高齢不安を指摘し始めました。選挙戦略も大幅に軌道修正を強いられています。

――ハリス副大統領が民主党候補になる見通しですが、勝算はあるでしょうか。

民主党内だけでなく、SNS上でもハリス支持が広がっています。一気に約20歳も若返った大統領候補に若年層を中心に、ハリス氏を象徴するココナツとヤシの木の「ネットミーム」(ネット上で人々が模倣・改変・拡散する画像を指す)が拡散しました。

ただ、ハリス氏は長年、組織をマネージする能力に欠けていることが最大の懸念だと指摘されてきました。「カマラメンタム(カマラ・ハリス氏と、勢いを意味する「モメンタム」を合わせた造語)」とも呼ばれている現在のハリス氏人気がどこまで続くかは不透明です。

特に共和党・トランプ陣営は大金をかけ、ネガティブキャンペーンの矛先を早急にハリス氏に向けており、今後、影響が及ぶかもしれません。

トランプ陣営は、リベラルなカリフォルニア州選出の上院議員を務め、州司法長官も歴任したハリス氏に「危険なリベラル派」といったレッテルを貼ろうとしています。バイデン政権で問題視されている移民対策やインフレ対策の責任がハリス氏にあると主張することも想定されます。

一方、ハリス氏にとっては、政権内で自らが中心的役割を担ってきた人工妊娠中絶問題が強みになると思います。ハリス氏は「トランプ氏が指名した保守派の最高裁判事による判決結果で女性の権利が奪われた」と主張するでしょう。

人工妊娠中絶を行うクリニックを視察し、中絶の権利擁護を訴えたカマラ・ハリス米副大統領
人工妊娠中絶を行うクリニックを視察し、中絶の権利擁護を訴えたカマラ・ハリス米副大統領=2024年3月14日、アメリカ中西部ミネソタ州、ロイター

若年層や女性の投票を促し、民主党に追い風となるかもしれません。長年、ハリス氏とともに仕事をしてきた私の友人も「サンフランシスコで女性が多く活躍しているのはハリス氏のおかげだ」と語り、ハリス氏の人を育てる能力を評価しています。

また、バイデン氏の撤退により、国民の関心は、民主党候補の高齢不安から、共和党候補のトランプ氏を巡る各種の問題にシフトするでしょう。

現在、大統領選で大接戦が予想されるラストベルト地域で、ハリス氏の知名度は低い状況です。共和党側は、ハリス氏が正式に民主党指名候補になるまでの間、同氏に批判的なイメージを固めようと動いています。ハリス陣営もSNSやメディア、遊説などを通じ、イメージ固めを急いでいます。どちらが先にハリス氏のイメージを固めることができるかが選挙戦に大きく影響するでしょう。

――2016年、民主党はヒラリー・クリントン氏を候補に指名しましたが、トランプ氏に敗れました。民主党は再び女性候補を立ててトランプ氏と対決することになります。

2016年大統領選は選挙当日までクリントン候補の勝利が確実視されていましたが、民主党は「ガラスの天井」を打ち破れませんでした。当時、トランプ氏の勝利を予想していなかった若年層をはじめとする民主党支持者が、投票所に足を運ばなかったという反省が、民主党にはあります。今回、民主党は同じ失敗を繰り返さないよう期日前投票も含め、投票を促す活動に力を入れるでしょう。

8年前と異なるのは、トランプ氏は4件の刑事裁判を抱え、「不倫口止め料不正会計処理事件」で有罪評決が下されている点です。2021年には、トランプ氏が大統領選の結果を覆そうと画策したことに端を発し、議会乱入事件も起きました。「米国初の女性大統領に心構えができているか」との問いに対し、民主党は「米国初の犯罪者の大統領に心構えができているか」と反論すべきだとの声もあります。

民主党はハリス氏の魅力をアピールする以上に、反トランプ感情を高めることでハリス氏への投票を促すと思います。ハリス氏が元検察官としての経験を生かし、トランプ氏を効果的に追及することも可能です。

――トランプ氏銃撃事件の影響はあるでしょうか。

トランプ氏が銃撃直後にガッツポーズする姿は、高齢不安が消えないバイデン氏と対照的に、強さをアピールする機会になりました。共和党はさらに、ロシアのウクライナ侵攻や中東問題など混迷を極める世界情勢、南部国境から流入する不法移民の拡大、高物価問題にも結び付け、トランプ氏であれば強いリーダーシップを発揮して対処する考えを示してきました。

こうした戦略は、ハリス氏には限定的な効果しかもたらさないと見られています。共和党は急きょ、異なる角度から「口撃」する必要に迫られています。

選挙演説中に銃撃を受けて負傷し、シークレット・サービスの人員に支えられるドナルド・トランプ前大統領
選挙演説中に銃撃を受けて負傷し、シークレット・サービスの人員に支えられるドナルド・トランプ前大統領=2024年7月13日、アメリカ・ペンシルベニア州バトラー、ロイター

――日本では、「トランプ氏が大統領に就任しても影響は限定的だ」と語る人もいます。 

第1次トランプ政権時代、安倍晋三首相とトランプ大統領の個人的な関係もあり、日米関係は良好でした。トランプ氏は対外政策で、各国の指導者との個人的な関係も重視します。もし、トランプ氏が大統領になった場合、日米で再び良好な関係を構築できるかはわかりません。すでに大統領としての経験を持つトランプ氏が他国の協力をそれほど必要としない可能性もあります。

トランプ米大統領(左)との首脳会談の冒頭、握手を交わす安倍晋三首相(肩書は当時)
トランプ米大統領(左)との首脳会談の冒頭、握手を交わす安倍晋三首相(肩書は当時)=2019年6月28日、大阪市住之江区のインテックス大阪、朝日新聞社

対中国政策の面から、日米関係は重要になり、「第2次トランプ政権」もある程度、日本に配慮する状況は予想されます。とはいえ、経済政策面では、米国は対中強硬策をさらに講じ、日本もそれに追随するよう圧力を強める可能性が高いと思います。

なお、トランプ氏は(駆け引きを駆使する)トランザクショナルな対応が予想されます。対日政策は不確実性が高まり、予測不能です。日本は、前駐日大使のハガティ上院議員をはじめ共和党内の親日派のチャネルを維持するなど備えが重要になると思います。