金利の「ふしぎな世界」に、私が足を踏みいれたきっかけは、2008年のリーマン・ショックと、その後に続くユーロ危機の現地取材だった。金利は、森羅万象さまざまなものごとが反映される鏡であるとともに、「信用」をはかる尺度という面もある。
リーマン・ショックをひきおこしたのは、低所得者向けのサブプライムローンだった。返済できなくなるリスクがあるので金利は高くなるはずだが、他のローンとごちゃまぜにして証券化することで格付け会社からお墨付きをえて信用が増し、世界中で買われた。しかし、もとは信用の低い住宅ローンだけに、その金利が上がれば返済が滞る。いろいろな金融商品にくみこまれたサブプライムローンの破綻(はたん)は、世界の金融機関の信用問題へと、一気に発展した。
2009年のギリシャの財政赤字隠し発覚から始まったユーロ危機では、ギリシャやスペインなどの国債金利が急騰した。政府は緊縮財政にとりくみ、失業率がはね上がるなど国民生活は疲弊した。10年物国債の利回りは「危険水域」とよばれる7%を超え、借りられる水準ではない。
どう支援するか。同じ通貨ユーロを使う国々が、ドイツなど信用の高い国が入る債券を低い金利で発行し、ギリシャなどに貸したのだ。同じ借金だが、金利の高低をわけたのは、まさに国の信用だった。
この25年以上、日本の長期金利は地をはうような低空飛行が続いた。とくにアベノミクス後は0%前後におさえこまれた。だが、グローバル化が進んだ世界で、お金は国境を越えて飛び回る。低金利のゆがみはいま、約38年ぶりの円安という形ではねかえる。
「インフレ税」を課せられる庶民
最近、私の周りには、海外株式市場への投資を増やしている人が多い。これまでも利回りが高い海外投資だったが、ドル建ての資産がいくら増えても円高になれば目減りする。1万ドルが160万円か100万円かではえらい違いだ。「それが怖くて突っ込めなかったが、最近は円安傾向が定着しているから安心だ」という。
そうした人たちは、円建ての資産が増える円安を望むようになる。金利が低く成長が見こめない日本の円を売って海外に投資する人が増える→円安となり輸入品のインフレが進む→より高い金利を求めて海外投資、という円安とインフレのスパイラルがおこりかねない。
インフレなのに金利が低くおさえられているいまの日本では、金利がほぼゼロの預貯金は時間がたつごとに価値が減る。政府の税収は増えるので、「インフレ税」を課せられているのと同じだ。投資ができる人たちとの格差はさらに広がる。
日本は長い間、低金利というぬるま湯につかっていた。久しぶりに金利の先高感がある時代を迎え、財政も金融政策もふかし続けた過去の無理が、人口減の社会に影を落とす。過去の政策の結果に対応するのもまた政策だ。
私たちの生活を大きく左右する金利の動きと国の政策に、よく目を凝らさなければならない。私たちのお金を守るため、そして私たちの政府なのだから。