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【解説】金利とは?物価との関係は?欧州や日本がマイナス金利を導入した背景と限界

World Now 更新日: 公開日:
金融政策決定会合で政策転換を決めた後、会見する日本銀行の植田和男総裁
金融政策決定会合で政策転換を決めた後、会見する日本銀行の植田和男総裁=2024年3月19日、東京都中央区、朝日新聞社

金利は、お金を貸し借りするときの手数料のようなものだ。借りた人は返すまでの間、そのお金を自由に使うことができるので、時間を買う値段ともいえる。

モノの値段(物価)が1年後に10%上がるとしたら、100円のものが1年後には110円でないと買えなくなるわけだから、お金の価値が下がっていることになる。この場合、金利がゼロなら100円を貸しても1年後に100円が返ってくるだけなので、貸した方が損をする。1年間の金利が10%で110円返ってくれば損はないが、得もしない。そのため、ふつうは実質金利がプラスになるように金利を10%以上に設定するだろうが、金利が高すぎれば借りようとする人が減る。

将来の物価見通しと比べて金利を低くすれば、お金を借りてモノをつくる工場を建てたりして金利以上の利益を稼ごうとする人が増え、お金が回るようになるだろう。そんな考え方から、中央銀行は景気を刺激したいときに金利を引き下げ、景気過熱によるインフレを抑えたいときには金利を引き上げる。

欧州と日本で金利はマイナスの領域に

2008年の世界金融危機の後、世界中の中央銀行が政策金利を大きく引き下げ、低成長・低インフレ・低金利の「日本化」が進んだ。低金利はコロナ禍まで続いたが、2021年から2022年にかけてインフレが急加速したため、米国や欧州の中銀はそれを抑えるために政策金利を引き上げていった。インフレが落ち着きつつある欧州では、景気の雲行きがあやしくなっていることもあり今春から徐々に利下げに転じている。

欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策の導入を決めた理事会の後、記者会見するドラギ総裁(右)
欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策の導入を決めた理事会の後、記者会見するドラギ総裁(右)=2014年6月、ドイツ・フランクフルト、星野眞三雄撮影

中銀がコントロールしているのは、短期金利。貸し借りする期間が1年以上のものは長期金利と呼ばれ、代表例は10年物国債の利回りだ。長期金利は「経済の体温計」といわれ、景気や物価の見通し、短期金利の推移、海外情勢などさまざまな要素で変動する。

金利は、短期から長期に延びるにしたがって基本的に高くなる傾向にあり(利上げを続けた米国は逆になっている)、期間が横軸、金利が縦軸のグラフにすると右肩上がりのカーブを描く。この金利のカーブを「イールドカーブ」という。

日銀の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決めた後、記者会見で説明する黒田東彦総裁
日銀の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決めた後、記者会見で説明する黒田東彦総裁=2016年1月、東京都中央区、杉本康弘撮影

中銀がマイナス金利を導入したのは、イールドカーブの起点となるグラフ左端の金利をマイナスに下げることで、全体のカーブを下に押し下げる効果があるからだ。日本銀行が今年3月まで導入していた「イールドカーブ・コントロール」は、マイナス金利があることで長期金利(10年物国債の利回り)を0%程度に誘導することができていたといえる。

金利を下げることで通貨高を防ぐ

マイナス金利が欧州で相次いで導入されたのは、ギリシャの財政破綻から始まったユーロ危機のさなかだった。景気が悪化するとともに、共通通貨ユーロを使う国の信用が落ちてユーロ安となっていた。景気を良くしようと、欧州中央銀行(ECB)は政策金利を引き下げたため、さらにユーロ安が進み、隣国のデンマークやスイス、スウェーデンの通貨が高くなった。

金利を低くすれば通貨は安くなりやすいので、デンマークの中銀は2012年7月にマイナス金利政策を導入した。ECBも2014年6月にマイナス金利政策に踏み切ると、スイスは2014年12月に、スウェーデンも2015年2月にマイナス金利政策をとった。

デンマーク国立銀行(中央銀行)
デンマーク国立銀行(中央銀行)=2012年10月、コペンハーゲン、星野眞三雄撮影

デンマークやスイスなどの中銀がマイナス金利政策を導入したのは、通貨高対策だった。2012年10月に私のインタビューに応じたデンマーク国立銀行(中央銀行)のニルス・バーンスタイン総裁は、マイナス金利導入の理由について「自国通貨クローネの為替レートをユーロと固定し、クローネを守るためだ」と明言した。

デンマーク国立銀行(中央銀行)のニルス・バーンスタイン総裁(当時)
デンマーク国立銀行(中央銀行)のニルス・バーンスタイン総裁(当時)=2012年10月、コペンハーゲン、星野眞三雄撮影

ECBには、民間銀行がお金を中銀に預けるときの金利をマイナスにして、余分なお金を置いておくと逆に金利を支払わなければならなくすることで、企業融資に回すよう促し、景気を良くしようというねらいがあった。日銀も2016年1月にマイナス金利政策を導入し、今年3月まで続けた。

しかし、日銀の理事を務めた「みずほリサーチ&テクノロジーズ」エグゼクティブエコノミストの門間一夫さん(66)は、「現金の金利がゼロのため、金利のマイナス幅の深掘りには限界がある」と説明する。

日銀の理事を務めた「みずほリサーチ&テクノロジーズ」エグゼクティブエコノミストの門間一夫さん
日銀の理事を務めた「みずほリサーチ&テクノロジーズ」エグゼクティブエコノミストの門間一夫さん=2024年5月、東京都千代田区、星野眞三雄撮影

現金にも保管するコストや盗まれるリスクがあるので、それに見合う手数料分として預金金利をマイナスにできる。だが、大幅なマイナスに設定すれば、現金として持っている方が得になるため、預金を引き出し現金に換えるだろう。つまり、金利は「ゼロより大きく下げられない」という制約があるわけだ。

1万円札は10年たっても1万円として使える。ずっと額面が変わらない金利ゼロの現金という「価値尺度」の存在があればこそ、インフレなのかデフレなのか物価の上昇率がわかり、中銀の金利調節も有効になるという。