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経済立て直しの期待を一身に 重荷背負わされた中央銀行

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米ブルッキングス研究所での金融政策のイベント=ワシントン、五十嵐大介撮影

1月8日、ワシントンのブルッキングス研究所で、元FRB議長のバーナンキらFRB関係者が参加したイベントが開かれた。テーマはFRBの「年2%」の物価目標の見直し策。中央銀行が、次の危機にどう対処できるかだった。

「次の不況での金融政策の余地が限られている。あまりにも頼りない」。元財務長官のサマーズがそう口火を切った。

会合では、物価目標の4%への引き上げなど、今より強力に景気をてこ入れするための手法を議論。「今の目標も達成できないのに、さらに目標を上げると言っても人々は信じない」(ハーバード大のフランケル教授)などと賛否が飛び交った。

2015年に利上げに転じ、金融緩和からの「出口」の先頭を走るFRBだが、悩みはつきない。日本と同様、2%の物価目標を下回っている。従来は失業率が下がって雇用環境が改善すると、賃金にも上昇圧力がかかって物価が上がるとされてきたが、そのパターンが崩れている。先進国の高齢化や企業のグローバル化によるコストダウンなど様々な要因が指摘されるが、前FRB議長のイエレンは「謎」と言う。

FRB関係者が気をもむのはなぜか。次の経済危機が起きた際、中央銀行が立ち向かうための「武器」が限られるからだ。従来、不況の際には金利を引き下げて、景気の下支えをしてきた。過去3回の景気後退局面では、FRBは政策金利を5%幅前後引き下げてきた。

だが、利上げ局面にある米国でも、政策金利は「年1.251.50%」しかなく、「のりしろ」がない。金利は原則ゼロ以下には下げられず、「量的緩和」などの非伝統的な政策に頼らざるを得ない。人々の「期待」に働きかける政策をどう強化できるかを議論し始めている。

主要国の金融緩和頼みは、ここ何年も指摘されてきた。主要20カ国・地域(G20)の会合では、構造改革の重要性が何度も叫ばれた。だが結局は、困難な議会プロセスや政治家の痛みを伴わない金融政策だけが重荷を背負わされ続けた。

08年の金融危機後、日米欧の中央銀行は、史上例にない規模の量的緩和をおこなった。だがそれは、副作用を伴う。

「中央銀行は『非伝統的政策』への依存の長期化と引き換えに、金融資産の価格を人為的に上昇させ、所得や富の配分も左右するようになった」

トランプ政権下のFRB副議長候補に名前が挙がる、米著名エコノミストのモハメド・エラリアンは著書「世界経済 危険な明日(The Only Game In Town)」でそう指摘する。

低金利、低成長が続くなか、世界の債務は増え、株価は高騰を続ける。国際通貨基金(IMF)によると、2016年のG20の政府、家計、企業の債務の合計は、世界のGDP2倍近い135兆ドルに達する。

エラリアンは、中央銀行が問題を解決する立場から、「厄介な問題の一部になる危険」を指摘している。