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【解説】金利はいつからある?ハンムラビ法典にも記載 金利差が「円安ドル高」要因に

World Now 更新日: 公開日:
メソポタミア文明・ハンムラビ法典碑(紀元前1750年ごろ)。石碑上部にはシャマシュ神(右)とバビロンのハンムラビ王の姿が彫られている。ルーブル美術館蔵
メソポタミア文明・ハンムラビ法典碑(紀元前1750年ごろ)。石碑上部にはシャマシュ神(右)とバビロンのハンムラビ王の姿が彫られている。ルーブル美術館蔵=ロイター

いま私たちの生活にとけこんでいる金利。お金の貸し借りには必要なものだが、そもそも金利はいつからあるのだろうか。

金利はいつからあるのか、それは「お金がいつからあるのか」という問いと等しいので、なかなか特定は難しい。しかし、メソポタミア文明では、大麦や銀などで取引していて、貸し借りの利子も存在していたとされる。紀元前18世紀のハンムラビ法典には、利子率の決まりがあって、大麦の場合は33%、銀の場合は20%と設定されていたという。

日本でも利子は古くからあり、8世紀以降の律令時代には、種もみを春に貸して秋に利子をつけて返す「出挙(すいこ)」がおこなわれていたといわれている。

将来の予想が利子率に反映する

仮にお金がない、物々交換の世界でも、時間の流れがあれば、利子は存在する。

たとえば、ベテランの農家が、今年のコメを若い農家に渡し、将来に若い農家からコメを受け取るという約束をする場合、いまは大量のコメを生産できているベテラン農家は将来に高齢で働けなくなる不安を抱え、逆にいまは未熟で生産が少ない若い農家は将来は大きな収穫を得られる可能性が高い。

将来の生産量がいまより飛躍的に増えると予想されれば、ベテランは強気で交渉に臨み、将来もらえるコメを多くしようと求めるはずだ。反対に、将来の生産量がさほど増えないか減ると予想されれば、将来もらえるコメも貴重になるので、今年のコメを多く渡さないと若い農家は納得しないだろう。

そうした交換の約束が2人の間だけでなく多くの人の間でおこなわれているのが市場で、現在と将来の交換比率は「自然利子率」と呼ばれる。自然利子率は、将来の豊かさの予想、人口の増減、技術革新がどれぐらい進んでいるか、といった見方から決まる。お金の利子率が文字どおり「金利」だ。

旧約聖書が禁じた利子

金利を禁じていたのはイスラム教だけではない。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、商品を媒介せずに利子をとる貨幣の貸し付けを批判していたという。旧約聖書は、異教徒からは利子をとるのを許す一方で、同胞からは禁じている。これはキリスト教とイスラム教のどちらからも異教徒で少数派だったユダヤ教徒が金融業を担うようになった背景にあるとされる。

世界中からローマ・カトリック教会の信者や観光客たちが訪れるサンピエトロ大聖堂
世界中からローマ・カトリック教会の信者や観光客たちが訪れるサンピエトロ大聖堂=2021年7月、バチカン市国、大室一也撮影

中世ヨーロッパのカトリック教会は、お金を貸して利子をとるのは「神の与えた時間を盗むものだ」として、同じ宗教を信仰する人から利子をとることを禁じていたが、徐々に許されるようになり、中世フィレンツェやジェノバなどで金融業が繁栄していった。17世紀末には英国で現代につながる国債が誕生した。

現代では、貨幣を独占的に発行している中央銀行が金利を上げたり下げたりコントロールすることができる。中銀は目に見えない自然利子率に、インフレ率を加えた「中立金利」を意識しながら政策金利を上下させている。

世界に及ぼす影響が大きいアメリカの金利

米国の影響が及ぶのは、自国通貨をあきらめ米ドルを使うエルサルバドルやパナマのような国だけではない。基軸通貨ドルとの為替レートを大きく左右する米国の金利の動きに世界各国が一喜一憂している。

イラスト・橋本聡
イラスト・橋本聡氏

米連邦準備制度理事会(FRB)が開いた6月の連邦公開市場委員会(FOMC)に、世界の金融市場関係者の視線が注がれた。最近の注目は、欧州やカナダなどで利下げが相次いでいることから、「いつFRBが利下げに転換するか」だが、6月も見送られ、年内の利下げ回数の見通しも前回3月時点の3回から1回に修正された。

米国の金利、特に長期金利(10年物国債の利回り)は、さまざまなことがらで上下する。米国のインフレ率や雇用統計、大統領選はもちろん、原油価格の見通し、ウクライナや中東情勢など地政学リスク……そのできごとが今後の世界経済・米国経済にどういった影響を与えるか、多くの人のそれぞれの見通しが金利という数字に反映される。その米国の金利が、また世界の金融市場に波及し、株価や原油価格などを上下させる。

記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長
記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長=2024年6月、ワシントン、榊原謙撮影

「水は低きに流れる」が、お金は金利が高い方に流れる。たとえばA銀行の定期預金が2%で、B銀行が1%の場合、ふつうはA銀行にお金を預けるだろう。米国の長期金利が4%で、日本が1%だとしたら、さまざまな条件で変わってくるとはいえ、別の国の投資家は米国債を買う可能性が高い。つまり米国債を買うためにドルを用意する。ドルを欲しがる人が増えるので、為替レートはドル高となる。

これがいま起こっている、日米の金利差を理由とした円安ドル高だ。2021年ごろから米国でインフレ率が上がり始め、それを抑えようとFRBが2022年3月から利上げを始めたことで、ドル高となり、日本だけでなく世界各国の通貨も安くなる傾向が続いていた。