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水素、ヘリウム、二酸化炭素、酸素…地球の大気は何度も変化 全球凍結の時代も

World Now 更新日: 公開日:
アイスランドのヨークルスアゥルロゥン氷河湖
アイスランドのヨークルスアゥルロゥン氷河湖(写真と本文は直接関係ありません)=gettyimages

ーー今、大気というと、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスによる地球温暖化に注目が集まっていますが、地球史的にみるともっとダイナミックに変わってきたそうですね。

太陽系は、宇宙で最も多い水素とヘリウム主体のガスが集まって太陽ができ、惑星も太陽を囲む円盤状のガスの中で誕生しました。ですから形成途上の地球も一番最初の大気は水素とヘリウムだったはずです。木星や土星の大気は今もそうです。

現在の大気ができるには、この最初の大気、一次大気が地球からなくなる必要がありました。いつ、どうやってなくなったかが大きな謎ですが、地球ができる最後の過程で、火星サイズの原始惑星が衝突し、破片で月ができると同時に大気が吹き飛んだというジャイアントインパクト説が有力です。衝突で地面はどろどろに溶けたマグマの海(マグマオーシャン)に覆われ、そこから抜け出たガスが今に至る大気の始まりになった可能性が高いと考えられています。

ーーどんなガスが出てきたのでしょう?

まず水素と水蒸気、一酸化炭素、それと今は大気中に400ppm(0.04%)しかないCO2だったようです。このうち水素は宇宙空間に散逸し、一酸化炭素はCO2に変化したと考えられます。金星や火星は今もCO2主体です。金星の現在の大気は90気圧のCO2でできていますが、地球上の堆積岩を調べると地球でもほぼ同じぐらいのCO2があったらしい。

金星と同じような90気圧近いCO2の大気を地球も持っていたが、地球では大部分が海に沈殿して今は堆積岩に含まれていると考えられています。

金星のイメージ画像
金星のイメージ画像=gettyimages

誕生間もない太陽は今の7割ぐらいの明るさしかありませんでした。CO2が今の量だったら地球は凍りつくので、その点からもCO2はずっと多かったはずです。

あと、今と同じぐらいの量の窒素も出たけれど、その後、CO2や酸素ほど大きな増減はしてこなかったと考えられています。

ーー重要なのは、かつて非常に多かったCO2が大きく減り、最初は含まれていなかった酸素が今は大気の主成分になっているということなのですね。

そうです。その二つが現在の地球の大気が持っている大きな特徴です。こういう惑星大気はほかに見つかっていません。よく、地球に生物がいる一つの表れとして酸素が取り上げられますが、実はCO2が少ないことも非常に際立った特徴なのです。これは地球の環境が大気成分を長い時間安定に保ち続ける自己調節的な仕組みを持っていることを意味していて、地球の特色だと思います。

ーー地球が金星のようにならなかったのはなぜですか。

金星より太陽から遠いので、一番多かった水蒸気が雨になって海を作り、その海にCO2がかなり溶け込んだり、岩石と反応して炭酸カルシウムなどの炭酸塩になったりしたからです。10気圧ぐらいまで下がったと考えられています。

それに40億年ぐらい前でしょうか、地球に生命が誕生すると大気にも影響を及ぼしたはずです。周囲の環境からものを取り込み、CO2を固定して、何かを環境に吐き出す「代謝」で変化をもたらすからです。

まだ大気中に酸素はなく、死んで分解されると最終的にメタンとCO2が出てくるので、大気中のメタン濃度が上がったはずです。メタンはCO2以上に強力な温室効果ガスですから、生物活動の影響で環境が変わっていくということが起こり始めます。

ーーなるほど。

決定的な変化は、シアノバクテリアという細菌が引き起こしました。それまで酸素を出さない光合成をする微生物はたくさんいたのですが、シアノバクテリアは光合成で酸素を出します。その出現で大気中に酸素がたまり始め、20億年ぐらい前には大気中の酸素濃度が現在の100分の1ほどになりました。微量のようですが、劇的な変化でした。

化石が残っていないので推測になりますが、酸素のない環境で進化してきた生物の中には、酸化を起こす酸素があると死ぬものがたくさん出たはずです。ある意味、生物活動による地球史最大の環境汚染だったと言えます。

ーー酸素の大量発生は、酸素を嫌う生物にとってはたまりませんでしたね。

一方で、酸素濃度の上昇は、酸素を効率的に使う真核生物の登場を促し、有害な紫外線を遮るオゾン層を作って生物の陸上進出の舞台を整えたり、メタンの濃度を下げたりもしました。酸素が豊富にある環境に変わることで、そこへの適応として生物が複雑化してきたのです。

酸素は20億年ぐらい前から4億年ぐらい前の間に増えましたが、増加は同じ調子ではなく、20億年ぐらい前と6億年ぐらい前という二つの時代に階段状に増えています。6億年ぐらい前、酸素濃度が今と似たレベルまで上がった時代には動物が登場しました。酸素を好まない生物を隅に追いやり、より効率的に酸素を使える生物が繁栄するという、時代を画する出来事を起こしたのは、生物自身だったわけです。

ーー酸素はなぜ階段状に増えたのでしょう?

それはまだ謎なのですが、同じ時期に地球が凍りつく「全球凍結」が起きていることと何か関係していたのかもしれません。もし気候の変動と大気の組成変化が結びついていて、さらにそれが生物の進化とも結びついているのだとしたら、この二つの時代は地球の長い歴史のなかでも、特に重要な時期だったということになると思います。

ーー全球凍結はスノーボール(雪玉)仮説とも言われますが、ほぼ定説になりましたか?

当時の赤道域が、今の南極大陸のような氷床に覆われていたことを示唆する証拠が見つかったことが出発点でした。それまでは「全球が凍りついたら太陽の光を反射するので、ずっと凍りついたままになるのではないか」と考えられましたが、この二つの時代に特有ないくつもの地質学的な特徴が全球凍結だとうまく説明できるので、多くの人が信じるようになってきました。

今は24億年ぐらい前、7億年ぐらい前、6億4000万年ぐらい前の少なくとも3回の全球凍結が起きたと考えられています。

地球が丸ごと凍結したイメージ画像
画像はイメージです=gettyimages

ーーずっと凍りっぱなしになるという疑問は解消されたのですか。

全球凍結の提唱者が火山活動によるCO2放出という回答を用意していました。氷に覆われると生物の光合成はできなくなり、液体の水によるCO2の吸収もなくなるので、大気中にCO2がたまります。全球凍結は長いときは数千万年続いたと考えられているのですが、その氷を溶かすにはたくさんのCO2がたまる時間が必要だったということでしょう。地球温暖化関連の研究からCO2による温室効果が十分認知されたこともあり、全球凍結も定説になったというわけです。

酸素濃度はいずれも全球凍結が終わった後に急上昇しています。一方、3億年前には、上陸した植物が大型化した「大森林時代」を迎え、酸素濃度が30~35%にも達しています。昆虫なども大型化して、濃い酸素が大型化に有利に働いたのではないかとも言われます。

ーーそのとき、大気中にたまっていたCO2は、植物の化石である石炭になって地中に固定され、それで濃度が下がったと。

それは正確に言うと、少し違います。大森林を形成した陸上植物はそれまでにない新しい生物であり、高い木の重量を支えるために、リグニンのような新しい有機化合物を作り出しました。これを分解する微生物が当時いませんでした。

すると光合成でCO2を固定して酸素を出すけれど、分解できないので酸素が使われず、大気中に残ってしまった。で、分解されなかった大きな植物が石炭になったというのは事実です。

ただ、CO2の固定については、石炭化よりずっと大きなメカニズムが働いたのです。

これも陸上植物が出現したことと関係しています。植物を伐採すると土壌が流出してしまうと言われるように、植物が根を生やすと地表面の状態が大きく変わるのです。

CO2が水に溶けた炭酸は岩石と反応して岩石を溶かします。細かな粒子になった土壌があると、表面積が非常に大きくなり、この反応には最適な場なんですね。それまでよりもCO2が効率的に消費できるようになった。土壌の粒子から溶け出た元素は海に流され、CO2と結合して堆積岩として固定されていった。実はこちらの効果の方がずっと大きかったのです。

ーーそうなんですね。

一方で、古生代の石炭紀(約3億年前)の終わりごろにはリグニンを分解できる白色腐朽菌が出現します。その分解に酸素が使われて、酸素濃度が下がっていきました。

CO2を使う光合成もそうですが、生成・排出されたものを分解する側の生物がいるかいないかで全然違うということなんですね。

ーー排出物・廃棄物を処分する静脈産業が重要ということですね。

全く同じだと思います。生態系というのは生産者と分解者のバランスがすごく大事で、それが崩れることによって、いろんなことがいろんな時代で起こってきたと言えます。

ーー私たちはふだん空気を意識しないように、環境をあまり変わらないもののように思っているところがありますが、実際には人類を含む生物との相互作用が大きく、環境と生物はお互いに変化し続けてきたわけですね。

「共進化」というのが、まさにそういう概念ですね。地球の環境も生物の影響を受けて進化してきていて、特に酸素が主成分になったのがその顕著な表れです。現在、人間活動が環境を変えてしまうような影響を持っている、あるいはそういう活動をするというのもそうした流れの一つではあるでしょう。

今はCO2やメタンといった温室効果ガスの放出が目の前の環境を変えている時代です。これまではその影響があまり顕著ではありませんでしたが、一般の人から見てもかなり実感できる変化が起こるようになってきました。

最近の研究では、人間活動によるここ150年ほどの急激なCO2排出の影響は今後、10万年スケールで残るというふうに考えられています。これからもっと顕著な影響が出てくるでしょうから、黙って見ているのがいいのか、やっぱり何とか手を講じなければいけないのか。決断する非常に重要なタイミングです。

人間が出しているCO2の量が、自然が出している量に比べて、桁で大きいというのが一番の特色です。目の前で起こっていることだけ見ていても、分からないことはたくさんあります。

しかし過去に地球上で起こった変動について学び、理解することは、これから起こるであろう大きな変化を理解し対応していくヒントにつながると考えています。