1. HOME
  2. People
  3. 真鍋淑郎氏、日本の研究弱体化を指摘「好奇心に駆られたもの少なく…」【会見全文】

真鍋淑郎氏、日本の研究弱体化を指摘「好奇心に駆られたもの少なく…」【会見全文】

People
ノーベル物理学賞の受賞が決まり、会見する真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州、藤原学思撮影
ノーベル物理学賞の受賞が決まり、会見する真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州、藤原学思撮影

司会 3年前、ワシントンD.C.(アメリカ海洋大気庁)からプリンストン大に移籍しましたね。ワシントンでの経験を踏まえて、政治と気候変動や気候変動否定論との接点からお話しいただけませんか。

真鍋 非常にいい質問です。気候変動を理解することは簡単ではないですが、今の政治の世界で起きていること(を理解すること)に比べればはるかに簡単です(会場から笑い)。

私にとってはとても不思議な世界ですね。気候変動を予測することはとても難しいことですが、私に言わせれば、政治の世界や社会で起きていることを理解すること以上に難しいことは何もありません。

気候変動は今や環境だけでなく、エネルギー、農業、水など想像しうるありとあらゆるものと関係しています。このように社会の大きな問題が絡み合っていると、その解決がいかに難しいかが分かります。

気候変動をどのようにしたら和らげることができるかを考えなければなりませんが、それは一つの問題であり、干ばつや洪水など、今起きている気候変動にどうやって対応するのかを考えなければなりません。私たちはとても難しい問題に直面しています。

気候変動の予測が正しければ問題は解決するという人もいますが、決してそんなことはありません。私たちはとても困難な問題に直面していて、率直に言えば、私たちが取るべき最善の行動は何か、ということです。

プリンストン大で会見する真鍋淑郎さん=10月5日午後、アメリカ・ニュージャージー州、合田禄撮影
プリンストン大で会見する真鍋淑郎さん=10月5日午後、アメリカ・ニュージャージー州、合田禄撮影

司会 (気候変動と政治の)接点についてずっと会話を続けられそうな気がします(笑)。さて、会場からの質問をお願いします。

記者 おめでとうございます。共同受賞したクラウス・ハッセルマン氏は「ノーベル物理学賞を受けるのは名誉なことだが、地球温暖化が起きず、それによるノーベル賞受賞もむしろない方がいい。それほど気候変動は危険だからだ」とおっしゃっていましたが、あなたも同じ考えですか。また気候変動を否定し科学者を「人騒がせ」と批判する人がいますが、地球のために、(気候変動を予測する)自分のモデルが誤りであったらいいのに、と思ったことはありますか?

真鍋 最後の質問が聞こえなかったのですが、もう一度言ってもらえますか。

司会 私が要約します。最初の質問は2007年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がノーベル平和賞を受賞しましたが、これと今回の受賞と比べてどちらがより重要ですか。個人的に。

真鍋 アル・ゴア氏とIPCCが受賞したノーベル平和賞のことですね。私もIPCCのたくさんいるメンバーの一人でした。

IPCCが気候変動問題が平和と何の関係があるのか、不思議に思われるかもしれません。しかし、今から振り返ってみれば。気候変動、そして(アフリカ・サハラ砂漠の)サヘルの干ばつは農業に大きな問題を生み、そこに人が住めなくなり、アフリカからヨーロッパにやってくる大量移民を引き起こしました。そのため、私はノーベル賞委員会が平和賞を授与したのはすばらしいことだと思います。そしてその一人として私もいたわけです。

司会 委員会に対する深くエレガントな答えですね。次の質問どうぞ。

記者 あなたは授賞に対して「サプライズだ」とおっしゃいましたが、この研究を数十年にわたって続けてこられました。なぜ授賞が今だったのかと思いますか。

真鍋 最近、ノーベル賞の過去の受賞者リストを見ましたが、彼らはみな本当に際だった貢献をしています。その選考はとても厳密だと思いました。

一方、自分の研究を振り返って、彼らの研究を比較するとですね…、(会場から笑い)まあ、これは何というか、ビッグサプライズなわけです。この受賞はそう受け止めています。

ノーベル物理学賞が決まったアメリカ・プリンストン大学の真鍋淑郎さんら=同大提供
ノーベル物理学賞が決まったアメリカ・プリンストン大学の真鍋淑郎さんら=同大提供

ただ一方で、気候変動や、新型コロナウイルスのワクチンといった世界的な危機を考えたとき、それらはどれも人類にとって主たる危機であります。そんなわけで、私の貢献は、少なくとも何が問題なのかをよりよく理解するのに役立つと言うことですね。でも、それでいいと思います。

司会 聴衆もいいと言うと思います。

記者 研究を始めた1960年代、気候変動が世界でこのような深刻な問題になると思っていましたか?

真鍋 それは答えるのはとても簡単です。研究当初、こんなに重大なものになるとはまったく想像していませんでした。私は単に自分の好奇心から研究を始めただけなのですが、私の考えるところでは、科学において、時間がかなりたってから社会に大きなインパクトを与える大発見の多くは、研究当初、研究者たちはのちにどんなに大きな貢献になるかは想像してなかったと思います。

最も興味深い研究とは、社会にとって重要だからといって行う研究ではなく、好奇心に突き動かされて行う研究だと思います私は本当に気候変動の研究を楽しみましたし、すべての研究活動を後押ししたのは好奇心でした。

私は気候モデルを気候変動のバーチャル実験室として活用することが本当に楽しくて仕方がありませんでした。気候についてまずシミュレートしたら、気候変動のバーチャル実験室で研究するわけです。「バーチャルな気候」とは、海、大気、地表を組み合わせた仮想の地球です。条件を一つずつ変えて、どんな変化が起きるかを見る。恐竜が歩き回っていた時代から氷河期を経て今、私たちは『地球温暖化』という名の巨大な危機に直面しています。このモデルを使って、過去4億年の間に気候がどう変化してきたかを研究するのはとても楽しいことです。若い人たちにも、シンプルな変数を使うこうしたモデルを使うことを進めます。ぜひ楽しんでやってください。

ノーベル物理学賞受賞決定後の会見で、質問に耳を傾ける真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州のプリンストン大、藤原学思撮影
ノーベル物理学賞受賞決定後の会見で、質問に耳を傾ける真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州のプリンストン大、藤原学思撮影

記者 妻の信子さんについてうかがいます。献身的に支えてくれたと聞いています。料理も上手で、研究中、彼女がどう支えてくれたのか教えてくれますか。

真鍋 私は毎日、彼女の料理を楽しんでいます。中華料理や和食、イタリアンなど、素晴らしい料理を食べるという点で、私は最も恵まれていると思います。

また、彼女は私の子供たちをとてもよく育ててくれました。子供たちは自分のしたいことを決めて、それを実行しています。

子供たちをうまく育てることができたので、私は研究に集中することができました。

私は運転がとても下手で、突然何かを考え始めると、信号に全く注意を払わないのですが、彼女は運転が上手なので、私は研究に100%集中することができます(会場から笑い)。

記者 日本では「頭脳」流出問題が大きな問題になっています。アメリカ政府から大きな支援があったとおっしゃっていましたが、日本の大学や研究機関の研究環境の改善策についてご意見をお聞かせ下さい。

真鍋 それは深い質問ですね。私は教育には詳しくありませんが、最近の日本における研究は、以前にくらべて好奇心に駆られた研究が少なくなってきているように思いました。

そして、日本の教育をどのように改善するかを考えてほしいと思います。日本では、科学者が意思決定者に助言する方法、科学者と政策決定者の間のチャンネルというものについては、双方がコミュニケーションを取っていないと思います。

アメリカでは、国立科学アカデミーが政府に非常に効果的な形でアドバイスをしており、はるかにうまくいっていると思います。

政策決定者と研究者がどのようにコミュニケーションをとるのか、もっと考えるべきではないかと思います。

ノーベル物理学賞受賞決定後の会見で、耳に手を当てて質問を聞く真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州のプリンストン大、藤原学思撮影
ノーベル物理学賞受賞決定後の会見で、耳に手を当てて質問を聞く真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州のプリンストン大、藤原学思撮影

記者 あなたが最もワクワクする科学的な疑問で、すぐに思い浮かぶものはなんですか。

真鍋 私が最も興味を持っているのは、古代の気候がどう変化してきたかです。研究の一線から退いた後、気候の変化にともなって生物がどう進化したのかそしてその生物が気候にどのように作用するのか調べ始めたところです。

この相互作用はとても魅力的です。これが私の答えです。

私は4億年以上の歴史について勉強し始めています。10億年、20億年前のことについて、本を読み始めました。

プランクトンをコントロールする分子生物学から始めていますが、理解するのが容易ではないことに気づきました。特にDNAと進化がどのように作用してきたかなど。しかし初期のプランクトンに関する分子生物学を知らずに理解することはできません。RNAとDNAがどのように相互作用してきたかを理解するのは容易ではないと思うのですが、なにせ理解するのは非常に困難です。

記者 ノーベル賞受賞おめでとうございます。あなたの長いキャリアと気象科学の到達点を振りかえってみて、気候変動懐疑論について、あなたはどんな考えを持っていますか。また地球の将来については楽観的ですか、それとも悲観的でしょうか。

真鍋 気候の未来は、とても興味深い質問です。太陽の放射照度が軌道要素によってどのように変化するのか、軌道要素の変化に伴う一時的な照度の変化で将来を推測します。

まずやることは、人類によって二酸化炭素がすでに45%も増加している地球温暖化を招かなかったらどうだったか、ということを考えることです。

つまり、私が最も興味がある問いというのは、軌道の数値を変化させ続けるけども、二酸化炭素の数値を変えずに将来を迎え、追加的に二酸化炭素が増えた場合、大陸の氷床はどうなるかといことです。

これは私たちが現在考えている重要な問いです。なぜなら、人々は今から100年後、200年後の未来について語っていますが、数百年後にはグリーンランドの氷床は重大な危機に直面しているからです。

私が思うに、この実験は二酸化炭素量が変化する、しないの両面ですることができますが、二酸化炭素それ自体も気候変動の影響を受けています。なぜなら、気候は大気から海洋に動く二酸化炭素の量を決定するからです。

そして、海洋は非常に長い期間、気候の状態を維持できる魅力的なものです。

これは今後1千万年の間に私たちの気候がどのように変化していくのかという、もう一つの魅力的な問題だと思いました。

1千万年である必要はありません。しかし、氷床の力学については理解しなければなりません。現在の氷床のモデルは非常に粗雑です ですから、これはおそらく過去400年の気候変動については当てはまりますが、これからの百万年の間に何が起こるのかを知りたいと思うでしょう。人類がどうなっているのかを予測するのは非常に難しいですが、魅力的な問いです。

ノーベル物理学賞受賞決定後の会見で、スピーチの前に外したマスクをたたむ真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州のプリンストン大、藤原学思撮影
ノーベル物理学賞受賞決定後の会見で、スピーチの前に外したマスクをたたむ真鍋淑郎さん=10月5日、アメリカ・ニュージャージー州のプリンストン大、藤原学思撮影

記者 日本からアメリカに国籍を変えた主な理由は?

真鍋 面白い質問です。日本では人々はいつも他人を邪魔しないようお互いに気遣っています。

彼らはとても調和的な関係を作っています。日本人が仲がいいのはそれが主な理由です。ほかの人のことを考え、邪魔になることをしないようにします。日本で「はい」「いいえ」と答える形の質問があるとき、「はい」は必ずしも「はい」を意味しません。「いいえ」の可能性もあります。(会場から笑い)

なぜそう言うかというと、彼らは他人の気持ちを傷つけたくないからです。だから他人を邪魔するようなことをしたくないのです。

アメリカでは自分のしたいようにできます。他人がどう感じるかも気にする必要がありません。実を言うと、他人を傷つけたくありませんが、同時に他人を観察したくもありません。何を考えているか解明したいとも思いません。私のような研究者にとっては、アメリカでの生活は素晴らしいです。

アメリカでは自分の研究のために好きなことをすることができます。私の上司は、私がやりたいことを何でもさせてくれる大らかな人で、実際のところ、彼はすべてのコンピュータの予算を確保してくれました。

私は人生で一度も研究計画書を書いたことがありませんでした。自分の使いたいコンピュータをすべて手に入れ、やりたいことを何でもできました。それが日本に帰りたくない一つの理由です。なぜなら、私は他の人と調和的に生活することができないからです。(会場から笑い)

国籍を変えた理由について語る真鍋淑郎さん=プリンストン大のYouTube公式チャンネル

大学院生 私は大学院1年目です。私たちの世代に対して、気候変動に関してアドバイスをお願いします。

真鍋 大学院において最も重要なことは、自分の得意、不得意なものを見つけることです。最近、私は別の専門分野について取り組んでいますが、そこでわかったのは、もし私が複数の分野で研究していたら、十分に功績を上げられなかったということです。

自分はとても少ない得意分野で研究を進めてきました。私はとてもラッキーだったと思います。

私は改めて大学院生に勧めるのは、好奇心から始まる研究です。それがあなたたちにとって最も重要なアドバイスだと思います。

他の人がうらやむような魅力的なプロジェクトではなく、あなたが得意なプロジェクトを選ぶのです。私は、自分が何に向いているかを見つけるのに苦労しました。

大学院生 GFDL(地球物理学的流体力学研究所)や気象科学者の活動は、多様で国際的な研究者のチームの恩恵を受けていると思いますか。

真鍋 GFDLとプリンストン大の協力はとても重要だと思います。協力はとても大事ですが、時として協力は簡単ではありません。自分に問うて欲しいのが、どのように実りある協力をするかということです。そしてそれを見つけることは容易ではありません。