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女性を悩ませた「29歳までに結婚」も「今は昔」 よりシビアになった令和の意識

LifeStyle 更新日: 公開日:
男性に対し、女性がノーを突きつけるイラスト
イラスト=gettyimages

結婚相談所「マリーミー」代表の植草美幸さんは2020年7月、朝日新聞のウェブメディア「telling,」で、「結婚相談所においては、(29歳と30歳は)天と地ほど違います。30〜35歳の男性にお見合いを申し込むと、お見合いが成立する数は倍以上違うはずです」と話した。

この状況に同メディアで異を唱えた一人がライターの田中春香さんで、「人間がつくった年齢という概念に、自分たちでとらわれ悩むなんて本末転倒!」と書いた。

こうしたやりとりをふまえ、改めて2人に今の状況を取材した。コロナ禍を経て婚活事情はどう変わったのか。

華やかなブランド店が立ち並ぶ東京・青山。週末にはデートで訪れるカップルらでにぎわう。そんな街の一角に結婚相談所「マリーミー」はある。

代表の植草美幸さんに改めて29歳と30歳の違いについて聞くと、「初婚同士に限ると、結婚する相手の女性は20代だろうみたいな雰囲気は、社会にはあります」と答えた。

マリーミーには親と暮らす男性会員も多く、植草さんは親世代の価値観が影響していると分析。「社会に出て数年でお見合い結婚した母親も多く、母親が『お母さんは23歳でお父さんと結婚した。女性は20代のほうがいい』と。『母がそう言うので』という男性会員が多い」と話す。

そんな傾向は、統計からもみてとれる。聖路加国際大学客員准教授の坂元晴香さんらが東大大学院に在学時、国立社会保障・人口問題研究所による2015年の「出生動向基本調査」を用いて分析したところ、男性は26歳以降は年下の女性を好む傾向があり、好みの年齢差は年齢とともに大きくなった。48歳では理想の相手の平均年齢は36歳だった。

だが、植草さんは「要望と現実は違う」と強調する。例えば33歳の男性会員が23〜28歳の女性とのお見合いを希望しても、なかなか成立しないという。成立しても、「(若い自分のためなら)年上の男性が何でもやってくれて当然」という態度をとる女性もいる。

そんなとき、植草さんが30代の女性を紹介すると、「大人でいい」「稼いでいて頼れる」などと「居心地の良さ」を感じ、年齢にこだわらなくなる人もいるという。

一方、植草さんは「女性側も何となく29歳と30歳の違いを重く受け止め、この何となくがどんどん育っていく」と話す。「平均初婚年齢」は男女ともに上がり、厚労省の2022年の統計では夫が31.1歳、妻が29.7歳。

だが、初めて結婚する人が最も多いことを示す最頻値は、内閣府の2020年のデータで男性が27歳、女性が26歳だった。年齢が24、25と上がるにつれ、周囲は結婚していく。

植草さんは「30歳手前ごろには周囲の結婚が一段落して、結婚式にも呼ばれなくなる。取り残されたと感じるのかもしれません」。

悩みに変化「最低限生きていけるよう…」

「今思えば、私も何かしらにとらわれていたのではと思います。『もう29じゃん、30代になっちゃうじゃん』と言われる機会も多かった。その反動として抵抗する原稿を書いたのだと思います」。ライターの田中春香さん(36)は自身が29歳だったころを振り返る。

ただ、田中さん自身が「30歳までに結婚」という意識がより強かったのは、24、25歳のころだったという。「友人らとの会話を通してすり込まれていたと思うし、まだ仕事の面白さや責任を結婚とてんびんにかけることが想像できなかった。当時は周りに妊娠・出産する人が少なく情報が限られていた」

女性が頭を抱えているイメージのイラスト
イラスト=gettyimages

実際に29歳になった田中さんは、結婚よりも仕事に悩んでいた。いつかは子どもを育てながら管理職を目指したいと考えていたが、そのときの職場にロールモデルとなる女性はほとんど見当たらなかった。「どこに目標を置けばいいんだろう。自分らしく働ける場所はないかな」

田中さんは新卒で入った会社を退社。同じころ、2年ほど付き合った男性とも別れたという。

その後、コロナ禍を経て経済状況は悪化し、婚活どころではなくなってきている。田中さんは予想外の影響で仕事で苦労した。より下の世代の女性たちの意識にも変化が生じていると感じる。

「今の29歳の女性はもっとシビア。30歳までに最低限、生きていけるよう仕事などを確立しなければという焦りになっている。かつての『29歳問題』とは質が変わっている」

田中さんは最近、29歳の女性の知人からこんなことを言われた。「こんな経済状況で結婚できるのはすごいこと。経済力がそこそこあって、自分の仕事にもある程度自信や安定があり、精神的に大人だということだから。私らしさを考えられるのはぜいたくなことだ」