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不動産を購入する未婚の中国人女性が増加中 背景にある根深いジェンダー問題とは

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
クオがマンションを購入した広州市内の住宅団地=2023年8月、Qilai Shen/©The New York Times

32歳のクオ・ミアオミアオは中国南部で新しいマンションの購入契約書にサインしてから、住宅のオーナーとして何を享受できるのか、頭の中でリストアップしてみた。居間に置く革張りのソファや、ネットで見つけたパンプキン・ペンダントランプ(訳注=天井からつり下げるカボチャ形の照明器具)……。

そして、一番重要なことは、中国において結婚生活で女性が果たすことを期待されている役割に逆らう方法である。

「私は、親戚や友人なども含めて、夫が家を購入し、夫婦げんかになるや否や夫が妻に出て行けと告げるケースをあまりにも多くみてきた」。広州市内のハイテク企業で働いているクオは言い、こう続けた。「新しいマンションの購入契約は、もし結婚しても何も恐れることはないのだという自信になっている。たとえ夫と別れても、私は自立して生きていける」

A photo provided by Guo Miaomiao of her apartment in the southern Chinese city of Guangzhou, into which she will move this month. Guo is one of a growing number of unmarried Chinese women buying property — a trend that strikes at one of Chinese society's most deeply rooted gender norms.( Guo Miaomiao via The New York Times)  — NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY SLUGGED CHINA FEMALE HOMEBUYERS BY JOY DONG FOR AUG. 18, 2023. ALL OTHER USE PROHIBITED. —
クオ・ミアオミアオが購入した住居。近く入居する予定だ=Guo Miaomiao via The New York Times/©The New York Times

不動産を購入する未婚の中国人女性が増えており、クオはその一人だ。この潮流は、中国社会の最も根深いジェンダー規範の一つに打撃を与えている。

過去何世紀にもわたって、男性は収入レベルに関係なく、結婚するには住宅を持つことが当然のこととして期待されてきた。一方、既婚女性は生家の家族の一員とはみなされず、中国の諺(ことわざ)に、「結婚した娘は飛び散った水のごとし」とあるように、事実上、夫の家だけが自分の家になるのだ。

それが今日、中国の女性たちは自分自身の家を求めるようになっている。

共産党系新聞「中国青年報」の最新調査によると、回答者のざっと94%は独身女性が不動産を購入することを支持しており、3分の2はそれを男女平等への願望の表れだと答えた。

実際の住宅所有率に関する公式統計は限定的だが、2020年のある政府調査だと、不動産を所有する未婚女性の割合は10年前の6.9%から10.3%に増えている。この期間に25歳以上の独身女性は1千万人近く増加しており、実数はさらに大きくなる。

女性の不動産購入者の増加は、中国の住宅部門における著しい混乱と同時に起きている。規模を問わず、多くの不動産開発業者が資金切れになり、マンション建設は未完成のまま放置され、潜在的な顧客を遠ざけている。クオのような買い手は、それを好機と受けとめた。彼女は、住宅価格と住宅ローン金利の下落にうまく乗じて2ベッドルームで一部家具付きの完成済み住居を購入したのだ。

不動産業者は独身女性をターゲットにし始め、「独身のレディーに適した小さな家」のようなハッシュタグを付けた販売促進ビデオを中国のSNSに投稿している。

「それは女性の権利への覚醒だ」とワン・メンチーは指摘する。江蘇省の蘇州にある崑山杜克大学(DKU)の人類学の助教で、中国人の若者たちの不動産購入パターンを研究している。この変化は、より一般的に女性の権利に対する関心が高まっていることの一環である。

中国政府は、市民社会に対する広範な取り締まりの一環としてフェミニストの活動家や諸団体を弾圧しようとしてきたが、「#MeToo」運動や家庭内暴力(DV)に対する保護の欠如といった問題が近年、SNS上の議論の上位を占めている。景気の減速への懸念や自立したライフスタイル志向の台頭で、多くの若い中国人たちは結婚をきっぱり拒否するようになっている。2022年の婚姻件数は過去最低の680万件にまで落ち込んだ。

広州で住宅を購入したクオは、幼少のころから住まいについて不安を感じていた。広東省の保守的な地域で8人きょうだいの大家族で育った彼女は、親戚や友人たちの話から、ひとたび結婚したら実家にはもう住めないことをはっきり悟った。

生来反抗的な性格だというクオは、自分の家を買うと早くから決めていた。大学を卒業してから、中国各地の大都市数カ所で働き、キャリアアップを目指してきた。この5年間で、7万ドル相当をためた。そして3月、彼女は夢をかなえたのだった。

Guo Miaomiao, who took advantage of the drop in housing prices and mortgage rates to buy an apartment, in Guangzhou, China on Aug. 7, 2023. Guo is one of a growing number of unmarried Chinese women buying property — a trend that strikes at one of Chinese society's most deeply rooted gender norms. (Qilai Shen/The New York Times)
中国南部の広州市内で、住宅価格と住宅ローン金利の下落を機にマンションを購入したクオ・ミアオミアオ=2023年8月、Qilai Shen/©The New York Times

「私は、女性の選択肢は結婚だけではないことをみんなに証明してみせたいと思った。他にもっとたくさんの選択肢があるはずだ」とクオは言う。

意識の変化とともに、収入増といった現実的な変化も独身女性の住宅所有率の増加を後押ししている。公式統計によると、大学教育を受けた中国人女性の数は2021年に男性を上回った。また、都市部における女性労働者の数は10年前と比べて40%近く増えている。

法律の整備により、妻は夫に所有権がある住宅で暮らすことの経済的なリスクをより一層認識するようにもなった。離婚裁判所は2011年時点まで、家族の家を共有財産とみなしていた。しかし、不動産価格と離婚率の双方が上昇すると、中国の最高裁判所は結婚前に取得した不動産は頭金を支払ったか、不動産を即金で購入した人にのみ所有権があるとの裁定を下した。この裁定で、離婚した多くの女性は、たとえ住宅ローンの支払いに貢献したとしても、実質的にホームレスになった。

この変化は、中国の西安市西部で会計士をしている27歳のチャン・イエがマンションを購入するのを助けるよう、親を説得する後押しになった。彼女は、どうせ将来の夫が住宅ローンを支払うのを助けなければならないのなら、自分の不動産を持つことのほうがより賢明で安全な財政投資になると主張したのだ。

「そうしなければ、結婚後、夫とともに住宅ローンを支払っても、自分の家にはならないからだ」と彼女は言った。

チャンの親は彼女の主張に同意し、川沿いにある中古のマンションを購入する頭金の大半を支払った。

チャンの5年来のボーイフレンドは、チャンが不動産を買うことにしたと告げると、反対した。ボーイフレンドは、結婚後、彼の住宅ローンの返済を助けるチャンの財力がそがれることを心配したのだ、とチャンは言う。だが、チャンはボーイフレンドの反対を無視した。

「彼を説得する気はなかった」とチャンは言う。「私は子どものころから、決めたことは何であれ貫き通すのだ」(抄訳)

(Joy Dong)©2023 The New York Times

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