「平壌のある外貨ショップに20代前半の女性がミニスカートにハイヒールの姿で入ってきた。ハンドバッグと化粧品などを購入し、千ドル(約11万円)を超える金額をためらいなく支払った。財布には千ドル札がいっぱい入っていた」
平壌で生活していたある脱北者が話す、富裕層の消費の様子だ。彼は東亜日報のインタビューに「ファッショントレンドをリードする平壌では、富裕層がブランド品を買って見せびらかすような風景がよく見られる」と話した。北朝鮮専門サイト「NKニュース」が最近公開した平壌の写真には、洗練された服を着て、携帯電話を手にする女性の姿など、「これが平壌?」と目を疑うような場面が少なくない。
北朝鮮専門家たちは、核・ミサイルの開発に対する国連など国際社会の制裁で北朝鮮経済が打撃を受ける中、富裕層と庶民層、平壌と地方など様々な面で両極化現象が起こっていると分析している。
北の一部富裕層の贅沢な暮らし
父親が北朝鮮高官の平壌在住男性Aさんは、週末のたびに友達と高級ホテルで食事をし、一日で500ユーロ(約6万4千円)を使うのに、何のためらいもない。外国人専用など関係ない。周りの客も、Aさんのような北朝鮮の金持ちだ。
Aさんは「平壌でもブランド品はあふれ返っている。統一通りの市場や楽園百貨店に行けば、外国のブランド品が簡単に手に入る」と話したと、別の脱北者が話す。北朝鮮当局が、対北制裁でぜいたくな暮らしができなくなった富裕層の不満を抑制し、民間が持っている外貨を出させるため、ぜいたく品の販売を奨励しているとみられる。
北朝鮮を旅行した海外の旅行家や脱北者の話、AP通信など海外メディアの報道によると、平壌にも新世代が楽しむ「ロデオ通り(注:ソウルのブランドショップが並ぶ通り)」ができた。モランボン区域のアンサンテク通り、チャンジョン通り、未来科学者通り、黎明通りが代表的だ。アンサンテク通りは、在日コリアン出身者たちが多く暮らし、1980、90年代には北朝鮮の流行をリードしていたという。最近も、ブランド店や高級レストランが集まっている。プクセ商店をはじめ、105階建ての柳京ホテル付近の普通江柳京商店、楽園百貨店などには超高級ブランド品がずらりと並ぶ。外国人訪問客にも公開されている場所で、今年7月にオープンした1500席規模の大同江水産物食堂には、チョウザメの刺身など、高級料理と外国産の食材がそろっていて、値段も米ドルで表示されている。
北朝鮮の結婚文化も変化している。1990年代以前の結婚式は、新郎、新婦の家でそれぞれ1回ずつ結婚式を挙げ、飲食する宴会だった。ところが最近の平壌では、家ではなく、式場で豪華な結婚式が挙げられるようになった。高級ホテルで式を挙げ、メイクをし、カメラマンを呼んでウェディング映像を撮り、専門のアーティストの公演まである。結婚式の費用は1万ドル(約110万円)を超えることもある。
平壌に吹く不動産投資の風、500万台の携帯電話
北朝鮮は、個人の土地や建物の所有を認めていない。しかしながら、1994~1999年の「苦難の行軍」の時期を経て、住宅供給システムが崩壊した。国家から分配された家を売らなければ生きられない人たちが出てきたためだ。この頃、一部の富裕層がこのような住宅を二束三文で購入し、多くの住宅を保有するようになった。北朝鮮は、所有権の代わりに居住権を保障する「入居権」を与えているが、その入居権を買ったということだ。
このような初期の「不動産持ち」に続いて現れたのが、企画不動産の開発により金持ちになるケースだ。マンションの団地や住宅団地を開発し、分譲して稼ぐ。不動産開発の企画者は、中国との貿易などを通してドルを稼いだ新興資本家や私金融業者、または私金融業者に借りた金で開発に投資する人など様々だ。誰が不動産を開発しようが、共通点は、開発と分譲の過程で権力層との関係が必須という点だ。
主に平壌など大都市で不動産投資が行われ、アパートの価格も急激に上昇した。2000年代初め、1戸5千ドル(約55万円)程度だったのが、60倍ほど高騰したという。普通江区域の柳京洞の30階建てマンションには、平壌で初めて輸入大理石が使われた。某権力機関が建てたもので、権力とのつながりなしには、建てるのも住むのも難しいという。
外部と自由に通話できるわけではないが、携帯電話も普及し、500万台を超すと言われている。人口が2560万人程度であることを考えると、5人に1人ということだ。平壌では最新のスマートフォンでアプリをダウンロードし、家で冷麺やチキン、ビールなどの出前をとったりもする。オンラインの注文システムを利用する方式だ。
贅沢の陰で、両極化
昨年4月に竣工した平壌の新興開発地、「黎明通り」に北朝鮮は海外メディアの記者たちを招待し、公開した。夜も明かりが消えないこの通りは、平壌の急速な発展の象徴と言われている。しかしながら、制限のある電源が偏って使われている姿を代弁しているという批判も同時に出ている。
金正恩朝鮮労働党委員長の執権のもと、制裁を受けながらも一部で市場化が進み、経済が開かれて新興富裕層が現れた。しかし、同時に両極化の陰もすでに広がっているとみられる。
ソウル大学統一平和研究所が先月30日に開催した「2018北朝鮮社会の変動と住民意識」のセミナーでは、平等をスローガンにした北朝鮮社会の裏側が垣間見えるアンケート調査の結果も公開された。脱北者87人を対象に「家族が望むだけの十分な量の多様な種類の食事ができるか」という質問に、「はい」と答えたのは今年26.4%だった。2015年39.7%、2016年33.3%、2017年31.1%と、毎年減っている。
今回のセミナーで「北朝鮮の衣食住と情報化」を発表した北朝鮮研究機関「SAND(South And North Development、南北発展)研究所」の代表で、2001年に脱北したチェ・ギョンヒ博士(東京大学政治学)は「北朝鮮の食生活について、量的には比較的安定してきたが、肉料理など質的レベルでは前年度よりも落ちたということが分かる」と話した。チェ代表は「北朝鮮の中産層が厳しい状況に陥って貧富の葛藤が深刻化すれば、社会不安も高まる」と、予測する。都市と農村の両極化も進み、平壌の摩天楼が高くなって高級レストランが増える一方、農村地域では食糧供給が足らないという報道もある。
北韓大学院大学のヤン・ムンス教授は「北朝鮮では、権力を利用する者や、外貨を稼いで資本を蓄えた個人が新興富裕層として登場している。しかしながら、北朝鮮では中産層と呼べるような層がまだ形成されておらず、中産層が消えるという意味の『両極化』という言葉は適当でないかもしれない」と話す。
(2018年11月10日付東亜日報 ファン・テフン記者)
(翻訳・成川彩)