北朝鮮の李容浩(リヨンホ)外相が9月25日から10月1日まで国連総会に出席するため、ニューヨークを訪れた。李外相の国連総会出席は3年連続だが、今年目を引いたのがメディアにかたくなに口を閉ざす北朝鮮と、それを全面的にバックアップした米政府の姿勢だった。
記者は李外相の取材を念頭に、国連本部に近いホテルに宿泊した。このホテルは北朝鮮代表部にも近く、過去に歴代の北朝鮮外相や6者協議の北朝鮮代表らが泊まってきた定宿だ。
李氏のチェックイン直前、記者が泊まっている34階に異変が起きた。エレベーターに最も近い部屋が、米政府関係者とみられる要員の詰め所になった。ドアは常に開けられ、入り口の上には臨時の監視カメラが設置された。記者の客室のすぐそばに演台のようなデスクが置かれ、1人の要員が前方の廊下を監視し始めた。
記者が取材を終え、部屋に戻ろうとすると、耳に通信用の小型レシーバーをつけたこの要員は「どこに行くのか」と尋ねながら、行く手を遮った。「部屋に戻る」と伝えると、国籍や職業を次々に聞いてきた。問題を起こすのが面倒で素直に答えると、そのまま通された。そんなやり取りが、部屋を出入りする度に数回続いた。
その翌日の夕刻、問題が起きた。客室で作業をしていると、ノックの音がした。ドアを開けるとホテルの安全責任者を名乗る白人の中年男性が立っていた。
「すぐに荷物をまとめて、部屋を移って欲しい」。理由を尋ねても、「部屋がない」の一点張りだった。強圧的な態度に不快感を覚えながら荷物を整理していると、再びノックの音がした。空けると、時計をにらみながら、先ほどの男性が本当に荷物をまとめているのか確認するよう、のぞき込んだ。
後ほど、理由が明らかになった。同じ階に李容浩外相ら北朝鮮代表団が宿泊していたからだった。我々が同じ階で取材を仕掛ける事態を懸念したのだろう。
この手厚い米国のバックアップに気をよくしたのか、李外相は記者のぶら下がりには一切口は開かない一方で、堂々と行動した。国連本部と北朝鮮代表部、ホテルなどの移動はすべて徒歩だった。記者団は群がろうとするが、米政府の警護要員に激しく遮られて、李外相に全く近づけなかった。
李外相から半径10メートルは即席の平壌のようだった。これも米朝対話の恩恵と言えるのか。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長もいつかは訪米するとみられるが、どんな状況になるのか、米政府の対応の一端をかいま見た気がした。(ニューヨーク=李聖鎮)