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「政治とカネ」の切っても切れない関係 日本と同じ道をたどったイタリアの現在は?

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ローマ市第1区の、ロレンツォ・パルエッロ区議会議員と彼のスタッフ
ローマ市第1区のロレンツォ・パルエッロ区議会議員と彼のスタッフ=2024年2月25日、イタリア・ローマ、秋山訓子撮影

日本と同じように、政界を揺るがす大スキャンダルが起き、それをきっかけに小選挙区制度を導入したイタリア。出発点は似ているが、その後は政権交代が頻繁に起きて、日本と対照的な道をたどった。では政界浄化は進んだのだろうか?

日本で「政治とカネ」が連日国会で取り上げられていた2月下旬、イタリアを訪れた。かつてこの問題への対応で日本と似たような道をたどったからだ。

「政治活動にかかるカネの規制を強化する必要がある。まず透明化を進めること。それから献金の受け皿となる財団を規制し、企業のロビー活動もルールを作るべきです」

食料品店を改装した事務所で会ったローマ市第1区の区議会議員、ロレンツォ・パルエッロさんは、そう熱っぽく語った。

パルエッロさんは2年前、28歳で初当選した。彼が改革したいと思っているテーマの一つが、「政治とカネ」だ。「選挙の立候補者と政党が受け取った資金の報告書を電子データ登録すべきだ」「政治資金の監視機関強化を」。4月半ばにローマ市内で、政治資金をより透明化し規制するためのイベントを開き、こうした提言を盛り込んだ宣言を採択した。

小選挙区制で政権交代はしたけれど……

1990年代初め、イタリアでは「タンジェントポリ」(汚職都市、英語では「キックバック・シティー」とも)という大疑獄事件が起きた。ミラノの公営老人ホームの不正入札で地元の社会党(当時)幹部が逮捕された。政党が国、自治体、国営企業などと構造的な収賄制度を作っていたことが次々に明るみに。事業で賄賂率を事前に決め、それを取り戻すために工期を延ばし工費を落札額よりも大幅に増やした。その分税金が多く投入される。政財官界で逮捕者が4500人を超えた。

第一党のキリスト教民主党が左右の小党と組んだ連立政権が長らく続いていたことが背景にあった。政界の浄化のために政権交代が必須だと、国民投票で小選挙区制度が導入された。リクルート事件などのスキャンダルが続き、政権交代可能な政治が必要だと小選挙区制度を導入した日本と似た構図だ。

日本と逆だったのは、政党への補助金(日本でいう政党交付金)がやはり国民投票により廃止された点だ。日本では小選挙区制の導入と共に政党交付金制度が始まった。

その後、イタリアは日本と対照的に政権交代を繰り返した。政界は浄化したのか。答えは「否」のようだ。国民の怒りで制度は変わり、補助金は廃止された。しかし、選挙資金を選挙後に配分する制度は残った。「しかも、実費精算ではなくて得票率に応じて配分し、その金額も実際の費用よりも多く見積もられていたため、政党にとって膨大な収入になっていたんです」と政治を監視するイタリアのNGO、「オープンポリス」の創設者、ビンチェンツォ・ズマルドーレさんは語る。

「オープンポリス」の創設者、ビンチェンツォ・ズマルドーレさん
「オープンポリス」の創設者、ビンチェンツォ・ズマルドーレさん=2024年2月22日、イタリア・ローマ、秋山訓子撮影

結局その制度にも批判は高まり、2013年に廃止された。だが、「規制には常に抜け道がある」とズマルドーレさん。政治献金の受け皿も、個人の政治家に加え、政党の地方支部や国会、地方議会の会派など数多く、1人の政治家が受け取っている政治献金の全容の把握は非常に難しい。加えて、受け皿として規制のない財団も作ることができる。

なぜ政権交代が政界浄化につながらなかったのか。「全ての政党が与党のうまみを知ったために、逆に自分たちに厳しい規制をしなくなったのです」。政治や選挙にお金をかけまくったベルルスコーニ首相の登場が金権政治に拍車をかけた。

政治とカネをチェックする機関はあるが、かつて党の会計責任者も務めた民主党上院議員のアントニオ・ミジアーニさんは、「機能と権限が弱すぎるのです」という。

アントニオ・ミジアーニ上院議員
アントニオ・ミジアーニ上院議員=2024年2月22日、イタリア・ローマ、秋山訓子撮影

「カネのかからないやり方はある」

国民の政治不信は高まるばかりだ。選挙費用の配分に代わり、導入されたのは所得税の0.2%を、確定申告の際に国民が指定した政党に配分できる制度だ。指定しなければ国庫に入る。利用率は非常に低く、2023年度は4.2%。「有権者は政党にお金を出したくないのです」と、ローマ大のマリア・ロマーナ・アレグリ教授。「でも政党にお金がなくなると、政党が立候補者を支援することができず、お金持ちしか立候補できなくなってきました」

ローマ大教授のマリア・ロマーナ・アレグリ
ローマ大教授のマリア・ロマーナ・アレグリさん=2024年2月21日、イタリア・ローマ、秋山訓子撮影

投票率も年々低下しており1980年代には80%台後半だったのが、2022年の総選挙では64%に低下している。

野党民主党の下院議員、トニ・リチャルディさんは「秘書の人件費が支出の35%。国から月3680ユーロ(約60万円)の補助が出ますが、その額以上は自費で出す。あとは選挙区との往復の交通費や選挙用のSNSの広告費用などですね」

トニ・リチャルディ下院議員
トニ・リチャルディ下院議員=2024年2月20日、イタリア・ローマ、秋山訓子撮影

企業献金はもらわないという。「私はお金持ちのための政治はしないので。資金集めのためのパーティをする議員はいますが、私はしません。政治家になる前に大学教員をしていたので、その時の貯金を使っています」

政治腐敗については「ローマ時代からある人間の性(さが)なので。政治文化を変えるためには、国民が税金がどう使われるのか、もっと注視する必要があると思います」

政治文化─。ある議員は、「法律では買収はもちろん禁止されているが」と前置きのうえで、「南部では、犯罪組織が一票を50ユーロ(約8000円)で買って集票し、政治家を当選させることもあると聞いた」

選挙の費用は「人口が100万を超えるような大きな都市の市長だと20万~30万ユーロ(約3300万~5000万円)、小選挙区の国会議員だと5万~10万ユーロ(約800万~1700万円)」という。ただ、冒頭のパルエッロさんは、区議だからということもあるが、「2000ユーロしかかからなかった。選挙のやり方次第だと思う。カネのかからないやり方が広まるといい」

反汚職を争点の一つに結成され、2018年に上下両院の第一党となった「五つ星運動」は元コメディアンが設立、政治と縁が無かった主婦などが議員に就任。公約通り、議員報酬の一部を返上した。日本維新の会の「身を切る改革」に似ている。しかし、議員報酬が一部で減っても、政界の浄化は進まない。与党「イタリアの同胞」の上院議員、アンドレア・デ・プリアモさんは、「政治と市民の乖離が腐敗を生む。首相公選制が市民と政治を直結させ腐敗防止に効果があるのでは」という。

アンドレア・デ・プリアーモ上院議員
アンドレア・デ・プリアーモ上院議員=2024年2月21日、イタリア・ローマ、秋山訓子撮影

パルエッロさんは、まずは区議から始め、いずれは国政にと思い描く。そのような政界への新規参入を支援する活動も。ローマ大教授でもあるマッティア・ディレッティさんは2019年に「ティ・カンディド」(きみを立候補させる、の意)を設立、クラウドファンディングで資金を集め、政治家になりたい人の立候補費用を支援している。これまでに7万5000ユーロ(約1200万円)を集め、40人以上が立候補したという。ディレッティさんは「大海の一滴のような活動だが、改革するには、新たな人々が政界に参入するしかない」と語る。

マッティア・ディレッティローマ大教授
マッティア・ディレッティローマ大教授=2024年2月26日、イタリア・ローマ、秋山訓子撮影