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東西ドイツ「再統一」30年後の真実 重要地位を独占する「西」の独善、偏見を暴く

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:
『西ドイツが創った〈東〉像』=関口聡撮影

旧西独による旧東独の「併合」だった

1989年、ベルリンの壁が崩壊し、翌年、東西ドイツは「再統一」された。壁の上で歓喜する民衆の歴史的映像は、多くの人の記憶に刻みこまれた。

熱狂から三十余年の後、理想とはほど遠い現実がある。政治的な意味ではひとつの国になったものの、国内の東西間に走る亀裂は現在にいたるまで広がる一方だ。

本書『西ドイツが創った〈東〉像』は、ドイツの東西問題を東出身者の視点で論じる。著者オシュマンはドイツ語圏文学教授。勤め先のライプチヒ大学は旧東独にあるが、科内に東出身の教授は彼ひとりだという。

本書を書くきっかけは、2021年に友人でもある同僚から「なぜ旧東独市民は社会を分断するのか」という講演を依頼されたことだった。研究内容ではなく、1967年生まれで旧東独育ちという出自が依頼の理由。それにもまして、移民やコロナ政策をめぐって深まる一方だった社会の分断の原因が東のみにあるのだという、全員が西出身である依頼者側の大前提がショックだった。

講演で著者は「東の問題」ではなく、東を問題だとみなす西の高慢と偏見について、また「問題」が生み出される社会の構造的不公正について語った。講演は大反響を博し、本書へとつながった。

「再統一」は、実質的には旧西独による旧東独の「併合」だった。ドイツでは一般的に、東の西への「加盟」という言葉が使われる。「ドイツ連邦共和国」という国名も、国の根幹をなす憲法、法律、健康保険や年金等の諸制度も、国歌も、すべて西のものがそのまま残り、東は文字通りそこに「加盟」したからだ。

「東」出身者の収入は、「西」同職種の8割以下

「統一」されたはずの国で旧東独市民は疎外されてきたと、著者は統計を引き論じる。

「加盟」から30年以上たっても、東出身者の収入は同職種の西出身者より平均22.5%少ない。ゆえに年金も少なく、相続資産の平均も東出身者は西出身者の8分の1ほどだ。

大学や省庁、メディア、企業などの重要ポジションは西出身者がほぼ独占し、東出身者の割合は平均1.7%。つまりドイツ社会は西の論理で動き、構造的に東出身者は不利。東出身者が社会の意思決定に及ぼす影響力はごく限られ、西がすべての基準なのである。

著者が最大の問題ととらえるのは、西の「標準」から外れる東の行為や傾向が一義的に「悪」とみなされ、社会の諸問題の原因が東に押し付けられることだ。

全体主義政治を体験し、自らの力で自由をもぎとった旧東独市民は元来、民主主義の危機に対して西出身者よりも敏感なアンテナを持っていると著者は説く。コロナ政策など全体主義的かつ自由を制約する政治や社会傾向への抵抗も西よりはるかに大きい。

だが、コロナや移民等の政策への批判者は一律に「右翼」とみなされがちで、反対者の多い東には「反民主主義」のレッテルが貼られる。西側の視点によるメディア報道が「反民主主義的で右傾化した愚かな東」像を固定化する。

首相を16年間務めたメルケルは東出身だ、との反論もある。著者はこの点にも触れ、メルケルは出自を決して主張せず、行動原理や価値観を西の標準に合わせてきたと述べる。社会に受け入れられるために東出身者の多くが取る手段だ。

昨年2月の刊行から続くすさまじい反響は、無視され続けてきた東出身者に対する構造的不公正の根深さと、そこに起因する東出身者の社会への不信感の深さを物語る。西が自らを省み、東を対等に扱わないかぎり、ドイツ社会の分断は埋まらない。著者の指摘はドイツの東西問題にとどまらない普遍的示唆を含んでいる。

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