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「愛を読むひと」原作者の新作恋愛小説 激動期のドイツで翻弄される女性

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:

Olga(オルガ)』は、世界的ベストセラー「朗読者」の著者ベルンハルト・シュリンクの新作恋愛小説。主人公オルガは19世紀末、現在はポーランドとなった旧ドイツ領で生まれた。両親に先立たれ、祖母に引き取られて農村で育つが、勉強に励み学校の先生となって自立する。

彼女は、大地主の息子ヘルベルトと恋仲になるが、本人は海外雄飛の夢に取り憑かれ、南西アフリカに出征したかと思うと、今度は南米やアジアに旅立つ。オルガはヘルベルトの子を秘密で産むが、彼は北極探検に出かけ、とうとう音信不通になってしまう。オルガは友人の女性に子供を託して育ててもらい、自らは独身女性教師の体裁を保つ。

やがて第2次世界大戦が始まる。ドイツの敗北直前、オルガはソ連軍に追われて旧ドイツ領から後の西独に逃れ、小説の第1部が終わる。

2部では、戦後、裁縫師となりハイデルベルクに住み着いたオルガと、オルガが出入りしていた家の子供フェルディナントとの交流が描かれる。

3部は、北極探検の出発地であるノルウェーの町の郵便局留めで、オルガがヘルベルトに送った31通の手紙からなる。時期は1913年から71年までの58年間。一人残されたオルガは恋人の死を半ば悟りつつも、彼への愛情や恨みつらみ、そして自らの近況を書き送らずにはいられなかった。

この小説ではオルガの政治観が重要だ。彼女は、ヘルベルトの南西アフリカ従軍中、この植民地戦争に反対したドイツ社会民主党に好感を覚えて、支持者になる。オルガは「ビスマルク首相がドイツ国民を、身の丈に合わない大きな馬に乗せてしまった」と考える。彼女に言わせれば、ヘルベルトの無謀な探検も、ナチズムも、世界大戦も、戦後のベトナム戦争反対の学生デモも、すべてドイツ独特の大国主義的国威発揚が背景にあるのだ。

老いたフェルディナントもこう言う。「彼女が今生きていたら、欧州統合もホロコースト記念碑も『大きいことを望む点ではどれも同じね』と感じるはずだ」

本書は歴史的背景をもつ恋愛小説だが、現在では退潮が著しい社会民主党を、かつて支持した人々の考え方を知る上でも興味深い。

 中年の危機を描く26の物語

マクシム・レオ/ヨッヘン・グッチュの《Es ist nur eine Phase, Hase(ダーリン、しばらくしたら終わるから)》の副題は「中年の危機を迎えた人々を慰めるための本」。著者のレオもグッチュも新聞や雑誌のコラムニストで、本書は「中年の危機」をテーマにする26の軽妙な物語からなる。

中年の危機は最近「第二の思春期」とよばれる。本書によると、中年の思春期は若者の思春期よりも厄介だ。女性は、スピリチュアルなことに関心を向ける人が多い。男性には突然カイトサーフィン(ボードに乗って凧に風を受け、水上を滑走する新スポーツ)の講習会に参加するなど、「老い」に対する最後の抵抗を試みる人もいる。

本書の物語の一つに登場するのは、突然ジャムを作りはじめる女性だ。ママのイチゴジャムはサラサラとして甘くなく、子供たちが食べようとしなかったので、ご主人は自分が食べたように見せて捨てた。しかし、その後も女性のイチゴジャムづくりはエスカレート。原料の供給も通常のルートでは間に合わず、家族は朝早く起こされて郊外の農園でイチゴ狩りを強制される。問題はジャムの処理で、慈善事業団体に持って行っても、競争相手が多いらしく引き取ってもらえない。

次は、娘の学級担任である27歳の女性教諭に「問題があったらいつでも電話してきて欲しい」と言われて、のぼせ上がってしまう父親の物語。彼は、女性教諭に頼まれて、教室のカーテンレールの取り付けを手伝う。一度彼女が手を伸ばすと、ブラウスがズボンから飛び出て、彼女の「新鮮な腰の部分」が露わになる。父親はこの後、頭を冷やすためにしばらく散歩しなければならなかった。

このような他愛のない話を読んでいると中年の危機も「しばらくしたら終わる」のかもしれない。

 犯罪を通じて描く人間模様

フェルディナント・フォン・シーラッハの《Die Strafe(刑罰)》は短編犯罪小説集だ。著者は国際的ベストセラー作家で、作品の多くが邦訳されている。

シーラッハの犯罪小説では誰が犯人かは重要でなく、犯罪の動機や、犯罪者と被害者の人間性、法の在り方などがテーマである。

冒頭の小説は、初めて参審員(ドイツでは、職業裁判官と、一般市民から選任される参審員が刑事訴訟の審理を行う)として「素人裁判官」になった女性の話。彼女は夫に虐待される被害者の証言を聞いているうちに、身につまされて泣き出してしまう。その結果、彼女は裁判官として公正な判断を下せないとする弁護側の主張が通り、裁判は継続されず、加害者の夫も釈放される。その4ヶ月後、被害者は夫から金槌で殴られて死んでしまう。

 次の物語では、前科のある夫をかばうために赤ん坊殺しの罪を引きうけた女性が、釈放されて帰宅する。服役中、一度も面会に訪れず、釈放時にも迎えに来なかった夫は、彼女を見るなり衛星放送受信アンテナの修理を手伝えという。彼は椅子に足を乗せて身体を支え、アンテナに手を届かせようとする。彼女は夫の作業中、椅子が動かないように押さえていたが、突然椅子を蹴とばす。

夫は4階バルコニーから落ちて即死。彼女は結局、証拠不十分で無罪になるが、その後弁護士には、自分が夫に殺意を持っていたことを告白する。

 シーラッハの小説は、市井の人々の倫理感情と、理詰めの法体制との相克がテーマであることが多いが、本書の最後の小説は少し様相が異なる。作中に登場する弁護士が、これまでのキャリアで関わってきた犯罪について、書き記すようになった経緯が記されているからだ。これは、デビュー作「犯罪」、第二作「罪悪」、そして今作と続いてきた犯罪事件簿の、そもそもの始まりを示唆している。いわば、「シリーズ全体の種明かし」をしたわけで、そのことから本書「刑罰」は、三部作の最終巻といわれている。

ドイツのベストセラー(フィクション部門)

 4月21日付Der Spiegelより

 1 Die Strafe

 Ferdinand von Schirach フェルディナント・フォン・シーラッハ

倫理と法律について考えさせられる12の短編犯罪小説。                                

2    Die Schmahamas-Verschwörung

Paluten/ Klaas Kern パルーテン/ クラース・ケルン

オンラインヴィデオのスターが新作を小説化。多数の漫画的挿絵。   

3 Mein Herz in zwei Welten

 Jojo Moyes ジョジョ・モイーズ

 愛する人に先立たれたルーは心に二つの世界が共存するのを学ぶ。

4 Die Geschichte des Wassers

Maja Lunde マヤ・ルンデ

干ばつに苦しむ人々と氷河を救おうとする高齢の女性環境運動家。  

5 Die Geschichte der Bienen                                               

Maja Lunde マヤ・ルンデ                                                                      

おいしいハチミツをくれるだけでないミツバチの歴史。

6 Olga

Bernhard Schlink  ベルンハルト・シュリンク

19世紀末に生まれて長生きした女性の恋愛と過酷な運命。

7 Der Zopf

Laetitia Colombani レティシア・コロンバニ

インドとイタリアとカナダで運命と戦う3人の女性の物語。

8 Es ist nur eine Phase, Hase

Maxim Leo/Jochen Gutsch マクシム・レオ/ヨッヘン・グッチュ

「中年の危機」をテーマにする26の軽妙な物語。

9 Die Geschichte des verlorenen Kindes

Elena Ferrante エレナ・フェッランテ

ナポリの女から見たイタリア社会「ナポリの物語」の第4巻。

10 Tyll

Daniel Kehlmannダニエル・ケールマン                

ドイツで著名な道化師と共に「三十年戦争」を見物・体験する。