新型コロナが影響 削減目標に届かない現状
19世紀末に感染経路がわかったマラリアは、2000年までには撲滅できるだろうと言われていましたが、残念なことにまだそこに至っていません。
WHOなどは、2015年の感染者数2億3100万人と死者数58万6000人をベースに、2020年までに40%、2025年までに75%、2030年までに90%減らす目標を立てました。しかし、2020年段階では、感染者数は5.6%、死者数も7.7%増えてしまいました。WHOは新型コロナウイルスの影響が強かったという見方をしています。
マラリアの死者の8割が5歳未満です。毎年何十万人という子どもたちが、「蚊に刺される」というだけの理由で亡くなっているのです。マラリアにかかっても、薬を一生のむ必要はありません。数日でよいのです。だけど、貧しさがあり、世界的な関心が低く、支援が届いていません。
ワクチン開発はこれからも進んでいくでしょうが、問題はどこから資金を得るかです。裕福な国も必要とした新型コロナのワクチンと違い、最も社会的に脆弱(ぜいじゃく)な地域の最も貧しい患者に届ける必要があるのです。国際機関はもちろん、市民社会を巻き込んだ、全く新しいワクチン調達のモデルが必要になると考えています。
難しい状況ですが、日本や日本の技術が貢献できる分野はかなりあります。
日本企業の防虫蚊帳や診断法、優れた効果を発揮
まず、予防です。蚊は夜間に家の中で刺す傾向があることが分かっているので、蚊帳に入って寝れば安全です。殺虫剤に抵抗性を持つハマダラカの出現が問題になっていますが、住友化学はこれらにも効果を発揮する防虫蚊帳や屋内散布用殺虫スプレーを開発しています。
次に早期診断です。シスメックス(本社・神戸市)は、マラリア原虫に感染した赤血球の数を1分で数えられる診断装置を作りました。比較的高価ですが、アフリカでもすでに100台以上が売れています。栄研化学も鋭敏度が非常に高いDNA診断法を開発しました。これらの技術が、WHOの事前認証や推奨を得て世界で使われるようになれば、大きな前進になります。
さらに、日本にはマラリアゼロを達成したノウハウがあります。最後の感染例は、本土で1959年、沖縄でも1961年でした。これには、学校保健をベースとして、地域住民参加型のマラリア対策を進め、感染症に対する正しい知識を広げていったことが大きかったのです。
地域に密着した対策、日本の得意分野
マラリア対策においても、「誰ひとり取り残さない」ことが重要です。犠牲になりやすい子どもや妊婦、さらには辺境に住む人、留置場にいる人まで目を配りつつ、医療を届ける。地域に密着したきめ細かな対策が評価されてきた日本が、役割を果たせるのではないでしょうか。
あまり知られていませんが、日本は「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」の創設を主導し、累積拠出額は約42億ドル(2022年9月現在)にのぼる主要ドナー国です。この基金は、コロナ対策としてのヘルスシステム強化支援でも世界的な貢献をしました。そうした重要な活動に対する認知度を高め、拠出額を増やすことができれば、マラリア対策への日本の貢献がより目に見えるようになります。