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急拡大するコロナ変異株、対策のカギは「低中所得国に対して何をするか」だ

Global Outlook 世界を読む
Peter Sands, Executive Director, The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria. (Jan 2020)
世界エイズ・結核・マラリア対策基金事務局長のピーター・サンズ氏=同事務局提供

――新型コロナ対策における、グローバルファンドの役割とは何ですか。

国際的な協力の枠組み「ACTアクセラレーター」は、ワクチン、診断・検査、治療薬の3部門と現地展開を支える保健システムなどからなります。グローバルファンドは他の財団とともに、診断・検査部門を担っています。資金提供のほか、マスク、手袋、ガウンといった個人用防護具、医療用酸素などが行き渡るよう手配をしています。

低中所得国では十分な検査ができておらず、検査率は高所得国の平均的な値の10%以下です。新型コロナではまだ効果的な治療薬がなく、抗炎症薬が広く使われています。抗炎症薬は比較的安価で入手も難しくありません。医療用酸素を一緒に使うことで、重症患者の治療には効果が期待できます。しかし、多くの低中所得国では、医療用酸素が十分に行き渡っていません。どうやって行き渡らせるようにするかが私たちの課題です。

――新型コロナ対策ではワクチン接種をどう普及させるかに注目が集まります。

ワクチン接種は感染を防ぐ効果がありますが、接種のペースがとても遅い。ほとんどの低中所得国のいまの接種率では、2021年末から22年初めまでにものすごく感染を減らすのは難しい。ワクチンだけを頼りにしていたら、変異株もあり、ワクチンの効き目を低下させることになります。

今すぐ感染を減らすにはワクチンだけに頼らず、検査やマスクなど個人ができる感染対策、感染者の追跡調査や隔離など、ほかのあらゆる手段を使う必要があります。私たちはそれを支援しています。

――これまでの新型コロナ対策をどう見ていますか。

この数カ月間でデルタ株の感染が急激に拡大し、世界中でパンデミックが再燃、これまでにない死者の増加につながっています。アジアでは、インドとインドネシアが一時新型コロナの感染者が急激に増えて、大きな影響を受けています。両国ともワクチンの供給が少なく、パンデミックと闘うための検査キット、医療用酸素など治療に決定的に重要なツールが不足しています。

インドを支援するため、グローバルファンドはまず、3680万ドル分の支援を承認していました。第一線で働く保健従事者の感染を防ぐために個人用防護具の購入、検査キットの調達に使い、検査態勢能力の向上や地域の保健のネットワークの強化に努めました。インドネシアでは、保健従事者や地域のボランティアのための個人用防護具、検査キット、酸素発生装置などとともに、すでに1530万ドルの緊急資金を供与しました。

変異株の出現で、あらゆる国で新型コロナを封じ込める必要性が強調されています。変異株は世界中で発生し続け、負荷がかかりすぎた保健システムは瀬戸際に追い込まれています。それにより、多くの人が必要な医療を受けられなくなっています。新型コロナの死者に加えて、新型コロナが引き起こした混乱の結果、21年末までに、エイズ、結核、マラリアの3大感染症などによる死者が徐々に増えていくことが想定されます。

――グローバルファンドが取り組んできた、3大感染症対策はコロナ禍でどのような影響が出ていますか。

アフリカとアジアの低中所得国の約500の施設で調査した内容をまとめた報告書を4月に出しました。これらの施設では、新型コロナの感染拡大の影響で検査や診断が十分にできず、影響が出ています。病気自体が減っているわけではないにもかかわらず、新型コロナの流行前よりHIVの検査が41%減り、結核の処置では59%、マラリアの診断が31%下がりました。

新型コロナがもたらした本当の被害とは、新型コロナで死亡した人たちの数だけではなく、ほかの病気で亡くなる人が連鎖して増えることなのです。それは最貧国を中心に起こります。その影響は新型コロナが与える直接のインパクトを超えます。グローバルファンドの重要な役割の一つは、3大感染症への連鎖的な影響を各国が軽減するのを助けることです。

――10月末にローマでG20首脳会合があります。参加国・地域のリーダーには何を期待しますか。

新型コロナの前の世界的なパンデミックはHIVでした。命を救う抗レトロウイルス療法が開発され、世界の最も豊かな国々で利用されて以降、抗レトロウイルス療法が世界の最貧国に届くまでには7年間かかりました。その間に何百万人の人がHIVに感染し、エイズで死亡しました。いまだに多くの人がエイズの治療を必要としており、HIVに感染しています。私たちはコロナでそのような間違いを繰り返すことはできません。

あらゆる場所で新型コロナを撃退しなければ、より多くの人が死に、世界的な保健上の危機がより長く続くことを許してしまいます。新型コロナは「依然残るパンデミック」となり、今後何年も最貧国で闘うことを強いられることになるでしょう。感染拡大を食い止めるには不平等に対処する揺るぎない取り組みが必要です。新型コロナ対策は、将来の脅威に対してよりうまく備えるきっかけとすべきです。G20の首脳に対し、私たちは新型コロナ撃退の世界的な取り組みを拡大し、この世界を誰にとっても安全な場所にするため、これまでにない大胆なやり方で保健システムを強化することを求めます。(聞き手・大室一也)

Peter Sands 1962年英国生まれ。オックスフォード大卒、ハーバード大大学院修了。英外務省、マッキンゼー・アンド・カンパニー、英スタンダード・チャータード銀行などを経て、グローバルヘルスの分野へ。世界銀行の「パンデミックに備えるファイナンスに関する国際ワーキング・グループ」の議長などとして活躍後、2018年3月からグローバルファンド事務局長。