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「理由はコロナと予算」と組織委側 開会式の出演消えたアフリカ人演奏家、消えぬ思い

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大田楽と狂言の公演で、歌とパーカッションを披露したラティールさん=2016年、石川県加賀市、本人提供
大田楽と狂言の公演で、歌とパーカッションを披露したラティールさん=2016年、石川県加賀市、本人提供

訴えているのは、西アフリカ・セネガル出身の打楽器奏者ラティール・シーさん(48)。26年前に来日し、東京を拠点に音楽活動をしてきた。

能楽の舞台でもパフォーマンスをしてきたラティールさん=本人提供
能楽の舞台でもパフォーマンスをしてきたラティールさん=本人提供

ラティールさんによると、開会式への出演は昨年12月中旬、広告会社からマネジメント会社経由で打診された。

ところが5月上旬になって、マネジメント会社に電話で問い合わせると「出演がキャンセルになった」と告げられたという。

そこで広告会社に理由を尋ねると、担当者からは「大会組織委側が、『なぜここにアフリカ人が(いるのか)?となる。そしたら他の国籍も入れないといけないという話になる』と指摘した。そして、ラティールさんらセネガル人2人の出演をキャンセルするよう求めてきた」という趣旨の説明があったという。

ラティールさんがこの経緯をFacebookに投稿したところ、ソーシャルメディアで拡散。GLOBE+も含め,国内外の複数のメディアが報じた。

【関連記事】五輪開会式、出演消えたアフリカ人アーティスト 「人種が理由としか…」消えない疑問

ラティールさんの主張について、GLOBE+編集部は大会組織委と広告会社に見解を求めたところ、大会組織委は次のように回答した。

「ミュージシャンの主張は、全く事実と異なる。多数のミュージシャンが参加する音楽パートを企画していたが、感染症対策や予算上の制約から断念し、当該パートの企画自体が変更となったため、このミュージシャンを含むパートに参加予定の方々には出演をお断りすることになったもの」

ラティールさんと主張が食い違っているため、再度説明を求めたが、回答は同じ内容だった。

一方、広告会社の回答も組織委とほぼ同じ内容だった。

「ご質問いただいた件(※)は事実とは全く異なります。当初は、多数のミュージシャンが参加する音楽パートが企画されていましたが、感染症対策や予算上の制約から当該パートの企画変更が決定されました。一時検討の俎上に上ったものの見送られた方々に対しては、経緯および出演の見送りについて、誠意を持ってご説明をさせていただきました」

(※「ご質問いただいた件」がどの点を指すかについて聞いたところ、「ラティールさんの主張」との説明だった)

ラティールさんが出演する予定だった開会式のパート。木製の大きな五輪マークが登場した=2021年7月23日午後8時、国立競技場、内田光撮影
ラティールさんが出演する予定だった開会式のパート。木製の大きな五輪マークが登場した=2021年7月23日午後8時、国立競技場、内田光撮影

組織委と広告会社の回答をラティールさんはどう受け止めたのか。改めて本人に取材した。主なやり取りは次の通り。

――組織委・広告会社側とラティールさんの主張が食い違っています。あなたの主張は「事実ではない」とまで言っています。

なぜ、そこまで断言できるのか理解できません。私たちは、複数人でその発言を確認していますし、その後も度々、広告会社の担当者と発言についてやり取りをしています。「聞き間違い」や「言葉のあや」というレベルではないのです。関係者を攻撃するつもりは全くありませんが、噓をついているかのように言われ残念です。

――キャンセルされた前後に何があったか、改めて教えてください。

リハーサルが延期になったり、正式な契約書が届かなかったりしたため、5月の連休中、広告会社との調整役だったマネジメント会社に問い合わせました。そこで初めて「出演がキャンセルになりました」と告げられました。

契約前とはいえ、突然のキャンセルに納得できず、5月半ばに広告会社の担当者複数人と直接会うことになりました。

担当者は最初、感染症対策を理由に挙げていましたが、「昨年末にオファー頂いた時点で感染拡大はひどかったのに、今更それが理由になるのはおかしくないですか?」と尋ねました。

すると、担当者は感染症対策を否定し、組織委内部で「なぜここにアフリカ人が?となる」という発言があったことを明らかにしたのです。

――その後も、担当者とメールや電話をしていたそうですね。

はい。メールでも、人種差別があったことは残念だとお伝えしました。広告会社の担当者は返信で、人種差別の意図については否定していましたが、組織委の発言があったこと自体は否定していませんでした。

開会式当日も電話で、組織委の発言を巡って話しましたが、この時も発言を否定していませんでした。

組織委と広告会社の回答を見た時、発言の存在自体を否定していることに驚きました。広告会社の担当者が発言を認めていたという認識でしたから。差別の意図を否定するなら、まだ理解できたのですが。

――組織委と広告会社は、キャンセル理由として「感染症対策」を挙げています。

私たちの演奏に合わせ、日本人タップダンサーたちが踊る企画で、本番でも、規模や内容はほぼ変わっていませんでした。出演者が密集していましたし、感染症対策と言えるほど人数を減らしたようには見えません。

ラティールさんが出演する予定だった開会式のタップダンスのパート=2021年7月23日午後8時、国立競技場、池田良撮影
ラティールさんが出演する予定だった開会式のタップダンスのパート=2021年7月23日午後8時、国立競技場、池田良撮影

広告会社に再び聞くと…

ラティールさんの反論を踏まえ、27、28日に広告会社の広報担当者に、電話とメールで再取材した。

――ラティールさんによると、広告会社の担当者はキャンセル理由として「大会組織委側が、『なぜここにアフリカ人が?となる』と指摘した」という事情を挙げています。

当社が把握している限りでは、そのような発言はなく事実ではありません。

――広告会社の担当者は、ラティールさんに対し、どのような説明をしたのでしょうか?

先ほどの回答が全てです。

――感染症対策を出演のキャンセル理由のひとつに挙げていますが、ラティールさんは「出演予定のパートの規模や内容は、当初の計画からほぼ変わっておらず、感染症対策と言えるほど人数を減らしたようには見えない」と話しています。

このミュージシャンの方に限らず、検討の俎上(そじょう)に上がったものの、見送られた方々がたくさんいました。

守秘義務があり、具体的にどのパートで何人減ったかはお話しできませんが、開会式全体として出演人数が減ったのは事実です。

感染症対策については、組織委員会が定める感染防止対策ルールに則り最少人数で実施しました。感染症対策や予算上の制約から企画変更が決定され、経緯および出演の見送りについて誠意を持ってご説明しました。

ラティールさんが出演する予定だった開会式のパート。木製の五輪マークが登場した=2021年7月23日午後8時、国立競技場、林敏行撮影
ラティールさんが出演する予定だった開会式のパート。木製の五輪マークが登場した=2021年7月23日午後8時、国立競技場、林敏行撮影

「一番の願いは差別のない世の中」

ラティールさんに、広告会社側の説明を伝えると、次のように語った。

「広告会社については、非がないと考えていますし、難しい立場にあることも理解していますが、これまで私たちが聞いた事実と異なり、ひどい回答だと感じます。組織委を追及することは体力的にも精神的にも難しく、これ以上続けるつもりはありません。正直に答えていないのは誰なのか、判断は世間の皆さんにお任せしたいと思います。そして、何より、私にとって一番の願いは、差別のない世の中になることです」