※末尾に組織委側のコメントの追記あり
Facebookに投稿したのは、西アフリカ・セネガル出身の打楽器奏者ラティール・シーさん(48)。首都ダカール沖にあるゴレ島で生まれた。奴隷貿易の拠点だった「奴隷の島」として知られる。
1995年に来日し、東京を拠点に世界各地でライブを開いたり、テレビCMの音楽制作をしたりしてきた。
ラティールさん側によると、開会式出演のオファーがあったのは昨年12月中旬。広告会社が、マネジメント会社を通じて打診してきた。
広告会社からは、ラティールさんのほか、セネガル人の弦楽器奏者と日本人のタップダンサーがメインで出演すると説明があり、引き受けることにした。
ラティールさんは歌唱と打楽器を担当。オンラインで打ち合わせを重ね、4月22日には開会式出演の取り決めなどに同意する書類にもサインした。
4月末に始まるリハーサルの日程も説明されていたという。だが、リハーサルは予定通り始まらず、延期になった。
当初は、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の影響だと伝えられたが、5月上旬になってマネジメント会社に問い合わせたところ、「出演がキャンセルになった」と電話で告げられた。
突然のキャンセルに納得できず、広告会社の担当者に理由を尋ねると、次のような趣旨の説明があったという。
「開会式の内容を確認した大会組織委側が、『なぜここにアフリカ人が?となる。そしたら他の国籍も入れないといけないという話になる』と指摘した。そしてラティールさんらセネガル人2人の出演をキャンセルするよう求めてきた」
ラティールさんは「世界中の人が注目する舞台で表現できる機会を頂き、本当にうれしかった。開会式までのスケジュールをおさえ、入念に準備をしていた」と振り返る。
ラティールさんは音楽家の家系ではなかったが、12歳のころ、「ジェンベ」というアフリカの打楽器に出会った。奴隷貿易の負の歴史を抱える島に響く、明るい音に胸を打たれた。
アフリカ各地やヨーロッパで才能が認められ、打楽器奏者として人気を集めた。活動の幅を広げようと、26年前に東京を拠点に活動を始めた。
「世界各地でパフォーマンスをしたが、音楽には、人種や国籍、性別、年齢は関係なく、みんなをつなげるパワーがあると信じてやってきた。ライブ会場で一緒になったら、みんな同じなんです」とラティールさん。
そんな活動の先に、今回の東京五輪開会式でのパフォーマンスがあった。ラティールさんは次のように嘆く。
「大会組織委が、20年以上にわたる私の音楽家としての活動実績ではなく、人種で出演の可否を判断したとすれば、非常に残念です。私は『アフリカ』という洋服だけを着てやってきたわけじゃない。1人のプロの音楽家として、プライドを持ってやってきました。開会式のオファーをもらった時はとてもうれしかったが、今となっては出演キャンセルになって良かったとさえ感じます。今回の東京五輪が、人種差別と決別する大会となることを祈っています」
ラティールさんは今回の経緯を明らかにすることを決断。23日、Facebookに公開した。開閉式をめぐって作曲担当やディレクターの辞任・退任が相次いでいることを受け、「せめて自分の残念な思いを知ってもらえれば」と考えたからだ。
ラティールさんの訴えについて、大会組織委に取材を申し込んだが、23日午後6時時点で返事はない。あり次第、追記する。
【update】7月24日午後8時50分
大会組織委戦略広報課から24日午後、回答があった。以下に追記する。
ミュージシャンの主張は、全く事実と異なる。多数のミュージシャンが参加する音楽パートを企画していたが、感染症対策や予算上の制約から断念し、当該パートの企画自体が変更となったため、このミュージシャンを含むパートに参加予定の方々には出演をお断りすることになったもの。