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年に2億人がかかる感染症 マラリア対策はいま、大きな転換点に

Global Outlook 世界を読む
アフリカ西部のブルキナファソでマラリアに感染し、病院のベッドに横たわる女児=2020年3月、石原孝撮影

――マラリアに感染したことがあるそうですね。

アフリカではマラリアに縁のない人を探す方が大変です。私は3度感染しました。母が教えてくれましたが、最初にかかったのは1歳1カ月の時です。母はパニックになり、とても怖かったと言っていました。6歳の時、高熱と寒気で震え、両親の寝室で吐いたことを私は今でも覚えています。幸運にも、都市部に住んでいたため医者にかかることができました。マラリアは治療可能な病気です。医療にすぐアクセスできるかどうかがとても重要なのです。(農村部など)医療の手の届かないところにいる患者に対応しなければいけません。

ラージ・パンジャビ氏=米国際開発局提供

――WHOによると、2019年は世界で約41万人がマラリアで死亡しました。アフリカではコロナ危機で対策が滞った場合、死者がさらに10万人増えるという予測もあります。

マラリアの死者は、05年当時は世界で70万人を超えていました。ブッシュ政権が民間企業と協力し、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国でマラリアの死者を減らす対策を始めた効果もあり、その後、死者は劇的に減りました。ですが、それでも多くの人が命を落としています。
コロナが事態を悪化させています。マラリア対策に欠かせない地域の医療従事者や物資・資金がコロナに振り向けられ、いくつかの国からは対策の遅れも報告されています。その中でも私たちは必要とする国々に1億3000万人分の蚊帳を届けました。一つのパンデミックとだけ闘うのでは不十分で、コロナともマラリアとも同時に闘わないといけないのです。

大量の蚊が飛び交う中、雨で水浸しになった集落を歩く女性と子ども=2016年4月、ケニア・キスム郊外、三浦英之撮影

――コロナ危機によって、感染症はどこか遠くの国の問題ではない、ということを思い知らされました。

どこかで起きた脅威が、すべての人にとっての脅威になりうるということを、多くの人が理解したと思います。マラリアに関しても同じです。起源はアフリカとされるこの病気はヨーロッパ、アジア、南北アメリカ大陸まで、人から人へと蚊を媒介して広がりました。米国や日本、欧州では感染はなくなりましたが、今後治療薬が効かなくなったり、蚊に殺虫剤への耐性がついたりするかもしれません。米国や日本も無縁ではありません。闘いは続いています。

――さらに、近年では気候変動が感染症に及ぼす影響も指摘されています。どんなことが考えられますか。

影響は甚大です。気候変動により、栄養失調やマラリア、下痢などで死者が年間25万人以上増えるおそれがあるとWHOは予測しています。対策コストもふくれあがります。

マラリアについて言えば、媒介する蚊の繁殖に適した環境が増え、人に感染するリスクが増してしまうのです。モザンビークやマラウイ、ジンバブエなどを巨大なサイクロンが襲いましたが、地域の診療所や医療物資の倉庫が壊され、交通も寸断されて医療を届けられなくなりました。洪水で蚊が繁殖する水たまりも増えました。つまり、感染リスクが高くなると同時に、医療を受けられる機会が少なくなる状況になってしまったのです。

私が生まれ育ったリベリアでも気候変動の影響が出ています。マラリア対策は季節ごとに進められるのですが、例年4、5月から10月までで予想がしやすかった雨期がずれることが近年あります。6月から11月の年もあれば、早く始まったこともありました。雨期の直前に殺虫剤をまくのが最も効果的ですし、感染が増える時期までに治療薬が切れないよう配布しなければいけません。気候変動によって、こうした時期を逸してしまうことがあるのです。

マラリアを媒介するハマダラカ。尻を高く上げて止まるのが特徴だ=2008年、ケニア・ビタ、飯塚晋一撮影

――トランプ前政権は、感染症対策の最前線に立つWHOからの脱退を宣言しました。バイデン大統領はすぐ撤回しましたが、今後どう関わりますか。

WHOはコロナをはじめとする健康上の脅威と闘う上で非常に重要な組織です。米国がWHOや加盟国とともに行動することはとても大事だと考えています。世界のマラリア対策において、米国は最大の資金拠出国です。19年の世界のマラリア対策費のうち約35%、11億ドルを拠出しました。日本も非常に重要な拠出国です。さらに、ゲイツ財団やグローバルファンドなどの組織も資金を投じており、こうした資金などにより、00年以降、世界で760万人の命が救われ、のべ15億人のマラリア予防に役立てられました。米国が対策に関わる国では、5歳未満の子どもの死亡数が半減しました。

――エルサルバドルが2月、中米で初めてマラリア排除国と認定されたように、少しずつ対策は進んでいます。難題はありますが、マラリアと人類の長い闘いに、終わりは来るのでしょうか。

地球の歴史という長い目で見ると、私たちの世代はいま、マラリアとの闘いの転換点にいます。歴史上、戦争よりも多くの命を奪ってきた感染症の中で、最も致命的なものの一つがマラリアです。最も古くからあるこの病気との闘いに負ければ、他の感染症との闘いでも明るい未来はないかもしれません。しかし、治療薬や検査薬が開発され、優れた医療従事者や地域に根ざした診療所、殺虫剤など、マラリアに対抗するためのものをようやく手にすることができました。私たちの世代でマラリアに打ち勝つことはできます。マラリアを克服することは、多くの命を救うだけでなく、いつか来るかもしれない新たなパンデミックと人類が闘う上での希望を生み出すことにもつながるのです。(聞き手・目黒隆行)

ラージ・パンジャビ Raj Panjabi
米グローバル・マラリア・コーディネーター
リベリア出身の米国人。医師。9歳の時に内戦が激化し難民として米国に渡る。医学生の時にリベリアを訪れ、以来アフリカでの医療体制の拡充を訴えてきた。2007年にNPOラストマイルヘルスを設立、エボラ出血熱やマラリアなど感染症と最前線で闘う地域の医療従事者育成に携わる。米タイム誌が16年、世界で最も影響力がある100人に選出した。

4月25日の世界マラリアデーにあわせ、NPO「マラリア・ノーモア・ジャパン」は16日午後6時から、オンラインイベント(朝日新聞社など後援)を開きます。気候変動で感染地域が拡大する中、封じ込めのための国際協調のあり方について国内外の専門家らが議論します。参加無料。詳しくはこちらのサイトで。