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労働組合の成果をすべての労働者に 賃金や条件公開、労働協約の拡大広がるEU

World Now 更新日: 公開日:
労働条件の改善を訴え、メーデーのデモに加わった労働者たち=2018年、パリ、疋田多揚

労働組合の活動を社会で受け止め、広げることが、所得の格差を生まないようにする一歩になる。そんな考え方に基づいて、欧州の政策の現場では、労組が団体交渉で勝ち取った成果を、労組がない会社の働き手にも生かす仕組みづくりを目指そうとしている。

自分の仕事の給与や条件知り雇用主と交渉

こうした取り組みを古くから実践してきたのがフランスだ。団体交渉の結果が公にされ、自分の仕事の賃金や労働条件の水準を知ることができる。さらに、非正規を含めた組合員以外でも、同じ労働条件で働けるようにする仕組みがある。

「あなたの労働協約を探してみて」

フランス労働省のホームページ

仏労働省のホームページをクリックすると、労働協約や、労組と雇用する会社などが団交の結果、取り決める労働条件などがひと目でわかる。自分の仕事の労働条件の水準がわかり、労組に入っていない働き手が雇用主と給与の交渉をするときに使える。労組がない企業でも、労働条件が水準を下回らないよう抑止力になっている。

国際労働機関(ILO)によると、実はフランスの労組の組織率は、日本の半分ほどの8.8%にすぎない。だが労働協約を組合員以外にも広げることが1936年に法制化され、労働協約がカバーする働き手の割合は98%に上る。

当事者の申請か労働相の職権によって、同じ地域の同一産業のすべての労働者に労働協約が適用される。

労使交渉の主体となるのは代表的な組合と認められた産業別組合で、個別の企業の事情に左右されない。フランスの労組は組合員以外も含めた労働者の代表になるということで、結社としての活動が認められた経緯がある。

経済協力開発機構(OECD)によると昨年末時点で、所得格差の大きさを示すジニ係数はフランスで0.292だが、労働協約が適用される働き手の割合が16.3%の日本は0.334だ。

国際労働機関(ILO)本部=ILO提供

国際労働機関(ILO)によると、一般的に、労組の組織率の高さと団体交渉適用率の高さに相関関係はあるが、フランスの場合は、公共政策として団体交渉を企業に適用し、企業という枠を超えて産業単位で交渉し共通の条件を定めていることも、団体交渉の適用率を高めている。

団体交渉が経済成長と格差解消の両方を支える

賃金の一定の水準が幅広く適用されれば、社会格差は小さくなる。

ILOがまとめた「社会対話レポート2022」によると、労働協約は主に賃金水準の最下層にいる人を引き上げ、企業や産業にかかわらず、賃金の不平等を削減するという。団体交渉の適用率が高ければ、労働分配率があがり、国民所得の割合が高い傾向もみられた。

ILO統計局のドーラ・カタリン・サリ専門官は「団体交渉が、経済成長と所得の公正な分配の両方を支えられる」という。こうした考えは、欧州の政策の現場でも、広がりを見せている。

日本と同じように製造業での派遣社員を認めた結果、格差の問題が顕在化したドイツでは、2014年に労働協約が組合員以外に広く適用されるよう条件を緩和した。

欧州連合(EU)の欧州議会・理事会は2022年10月、最低賃金に関する指令を公布した。最低賃金の保護には、包括的な団体交渉が重要な役割を示すとし、団体交渉の実施率が80%を下回る加盟国は、団体交渉を強化するための措置を採用し、団体交渉をできるようにする条件を定めて行動計画を策定するよう求めた。

現時点で80%を満たしている国は6カ国で、それ以外の国は2024年秋までに国内法に移管することが求められている。

EUの欧州委員会本部=2021年、ブリュッセル、和気真也

労働協約の適用割合が低い日本

日本は労働協約が適用される働き手の割合が16.3%にとどまる。ILO統計局のサリ専門官は「日本は、労働組合の加入率の低さが団体交渉適用率の低さと密接に関係している。労使ともに協調して、組合員を増やす努力をすることが重要だ」と指摘する。

日本の労働組合法にも、労組のほか会社からも地域的拡張適用を申請できるという規定がある。2021年には32年ぶりに、産別組合のUAゼンセン傘下の組合が申し立て、茨城県の家電量販店3社の休日数などの協約が同業他社の従業員にも適用された。

2023年には同じ内容を青森、岩手、秋田県内にも広げた。今月も、地方公務員の産別組合・自治労の傘下にある労働組合「福岡市水道サービス従業員ユニオン」が申し立て、福岡市が民間委託する水道検針業務で、すべての委託先企業で、パート検針員の最低時給を同じ水準にすることが公表された。

労働協約の適用をさらに広げるにはどうしたらよいのか。青山学院大の細川良教授は「日本の労組は、組合費で活動している。公的な支援の枠組みが必要になるのではないか」と指摘する。

労組がなくても、組合員と同じ水準の待遇が受けられるとなれば、労組の組織率がさらに低くなるおそれがあるからだ。フランスでは組織率が低くても、有給で組合活動をすることが法的に認められ、労組には組合費以外に会社側からもお金が入る仕組みがある。

一方で、誰でも労働協約にアクセスできるフランスの仕組みは、日本でも参考にしてすぐに採り入れることができそうだ。

細川教授は「雇用の流動化を進める流れがあるが、労働者が安心して仕事を選べるよう(就業規則や労働協約で定められているものも含め)基本的な労働条件の公開を進める必要がある」と話す。