日本政府の当初の判断の背景には、衛星は軌道投入に必要な速度や高度に達していないという分析があったとされる。
匿名を条件に取材に応じた元幹部は「自衛隊の今の監視体制で、衛星の軌道投入をリアルタイムで分析するには無理があるのではないか」と語る。
衛星を積んだ北朝鮮のロケットは11月21日夜、沖縄県付近の上空を通過した。
元幹部によれば、北朝鮮が飛翔体を南方に向けて発射した場合、航空自衛隊の下甑島分屯基地(鹿児島県薩摩川内市)や与座岳分屯基地(沖縄県糸満市)の固定式警戒管制レーダー(ガメラレーダー)や、付近の海域に展開したイージス艦がロケットを追跡。コンピューターのプログラムが弾道を予測し、ビームを照射して計測する。
元幹部は「今回、北朝鮮が切り離したロケットの胴体を自爆させたという報道がある。デブリ(ゴミ)が大量に発生して、レーダーによる追跡が難しかったかもしれない」と語る。衛星が、大気圏内に再突入するミサイルの弾頭と異なる軌道を描いたことも影響した可能性があるという。
元幹部は「レーダーが目標を消失した時点で算出したデータで判断したため、軌道投入が実現したかどうか確信を持てなかったのだろう」と語る。
木原稔防衛相は11月24日の閣議後会見で「米国および韓国とも連携しながら分析を進めた結果、北朝鮮が発射した何らかの物体が地球を周回していることを確認した」と述べた。日本政府関係者は「米韓と情報交換した後にコメントを出した方が良かった」と語る。
別の元自衛隊幹部は「電波の反射で追跡するレーダーだけでは衛星をすべて識別できない。光学望遠鏡のような他のセンサーを組み合わせる必要がある」と語る。「地球を回る衛星の識別には全地球をカバーする体制が必要だ。米韓のほか、民間との協力も重要になる」という。
北朝鮮は打ち上げ後、米ワシントンのホワイトハウスや沖縄県の米軍嘉手納基地などの衛星写真を入手したと主張する一方、写真自体は公開していない。衛星による画像撮影や送受信に問題が生じているか、カメラの分解能が低くて公開に値しないなどの状況が考えられる。
防衛省航空幕僚長を務めた片岡晴彦・日本宇宙安全保障研究所副理事長は、衛星の軌道投入に成功したため、ASAT(衛星攻撃兵器)の保有に向けて前進したと評価する。
防衛省は今年度から宇宙状況監視(SSA)システムの運用を始める。今回、北朝鮮が衛星を打ち上げた低軌道では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のレーダーや光学望遠鏡も利用するが、米国に比べて装備の質や数で大きく水をあけられている。元幹部の一人は「今回を教訓に日米協力の強化はもちろん、米国任せにしない発想も重要だ」と語った。
米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天体物理学者、ジョナサン・マクダウェル博士の談話
北朝鮮の衛星は現在、高度502kmの軌道にあり、1日に15回地球を周回している。「衛星が画像を撮影した」という北朝鮮の主張を疑う理由はない。北朝鮮は確かに画像を公開していないが、日本が偵察衛星で撮影した画像を公開していないことと同じだろう。
北朝鮮は昨年、運用可能な偵察衛星システムの完成を目指す宇宙計画に対する投資を増やした。半年間で3回の打ち上げは、偵察衛星システムの完成を目指す北朝鮮の強い意志を示している。
北朝鮮の衛星の軌道投入を巡る日本政府の見解の修正は、「間違い」とは言えないと思う。日本は衛星の軌道進入を確認しなかったが、「進入しなかった」と確認したわけではない。日本の場合、
米国のような多数のセンサーを保有していないため、進入の事実がわからなかっただけだ。
ロシアとの技術協力は、北朝鮮の(宇宙開発)プログラムを少し加速させるだろうが、大きな変化はないだろう。
一般的に、偵察衛星によって(敵対国間の)誤解が減るため、安定に役立つと考えられている。世界の安全保障への影響がどうなるかは、北朝鮮が何に取り組むかにかかっている。偵察衛星だけの開発にとどまるなら、(世界の安保への)悪影響はないと思う。