1. HOME
  2. 特集
  3. 火星移住
  4. 「中国人は必ず火星に上陸する」偉大な中国づくりに邁進、宇宙も米中2強の時代が来る

「中国人は必ず火星に上陸する」偉大な中国づくりに邁進、宇宙も米中2強の時代が来る

World Now
無人月探査機「嫦娥5号」が収められた発射台。火星探査機「天問1号」も同じ文昌宇宙発射場から打ち上げられた=2020年11月23日、文昌、奥寺淳撮影

バリバリバリバリ……。花火が張り裂ける音というか、地表が割れる音というか。振動が空気を通して伝わってきた。

2020年11月24日午前4時半。中国のロケットが打ち上げるのを間近で見た。「中国航天」と刻まれた白い機体が、オレンジ色の火を噴きながら、夜明け前の暗闇の中を上昇していった。

中国最南部・海南島の「文昌衛星発射センター」。「中国のハワイ」とも呼ばれる南の島の東海岸に広がる12平方キロの森林地帯を切り開いて作られた。2016年から運用が始まり、中国に四つあるロケット発射場のうち最も新しい。

この日の取材は中国政府から許可を得て、外国メディア数社とともに発射台から2キロ余り離れた発射指揮センターでカメラをかまえた。安全のため、そこが最も近づける場所なのだという。

中国では軍が宇宙開発に関わっており、取材が許されることはめったにない。バスで発射センターの入り口に近づくと、迷彩服姿で直立不動の哨兵が見えた。人民解放軍のマークと「神聖な兵士を侵すべからず」と書かれたバリケードが入り口を遮っている。取材団に緊張が走ったが、敷地内に入ると限られた場所での取材ではあるが、予想以上に自由に撮影できた。

無人月探査機「嫦娥5号」を載せて打ち上げられた長征5号=2020年11月24日、中国・海南島の文昌衛星発射センター、奥寺淳撮影

この日、打ち上げられたのは、無人月探査機「嫦娥5号」を載せた大型ロケット「長征5号」。高さ62メートル、直径5メートル、最大離陸重量は867トンもあるアジア最大級のロケットだ。

中国の宇宙開発ではいま、この「長征5号」と、専用打ち上げ施設がある文昌衛星発射センターが重要な役割を果たしている。長征5号は静止軌道への積載能力が約14トンと従来ロケットの2倍以上あり、高軌道の大型衛星や、月や火星探査機の打ち上げに用いられている。私が現地で取材した4カ月前、中国初の火星探査機「天問1号」もここから長征5号で打ち上げられた。

米国と肩を並べ、世界の一流となる「宇宙強国」の目標を掲げる中国がいま、急ピッチで進めているのが月探査だ。04年に探査プロジェクトを始め、13年12月に「嫦娥3号」が旧ソ連以来、37年ぶりに月面に着陸。19年1月には世界で初めて「4号」が月の裏側に軟着陸した。

そして、私が取材した「5号」はその1カ月後の20年12月、米国、旧ソ連に続いて44年ぶりに月の土など1731グラムを持ち帰ることに成功した。政府は今年1月に宇宙白書を発表し、記者会見で30年までに月面基地の建設を始める計画があることも明らかにし、月探査の先頭集団に躍り出ようとしている。

嫦娥4号の模型
中国最大の航空ショー「中国国際航空宇宙博覧会」で展示された嫦娥4号の模型=2018年11月6日、中国広東省珠海、益満雄一郎撮影

そして火星。昨年、世界を驚かせたのが中国の「天問1号」だった。米国がこれまで、火星への軌道投入、着陸、地上での探査と段階的に進めてきた三つのミッションを、一気に成功させたからだ。習近平・国家主席は「惑星探査の分野で世界の先頭集団に入った」と胸をはった。火星は大気が地球の1%ほどと薄く着陸が難しい。パラシュートでは減速できず、地上近くでロケット噴射する複雑な技術が必要だ。地球との通信には10分以上かかるため、地球からリアルタイムで操作できない。旧ソ連や欧州宇宙機関などが失敗しているミッションを、天問1号は一度でやってのけた。

香港に「天問1号」ミッションに加わったチームがある。香港理工大の容啓亮教授らは、着陸機の監視にも使われる「火星カメラ」を開発し、天問1号に搭載した。約390グラムで着陸機の外側に取り付けられた火星カメラは、着陸の状況や火星の周囲環境、そして地表を走る探査機の運用状況などを監視する役割がある。容教授は「このカメラがなかったら、探査機は安全に火星の地表を移動することができない」という。

中国は2030年前後に火星の試料を持ち帰るサンプルリターンを計画している。「その次に、有人飛行を慎重に進めることになるだろう」と話す。なぜ、世界が火星に注目しているのと問うと、容教授は「それは、地表があまりに熱すぎず、冷たすぎず、人類が足で立てる星だからだ」と目を輝かせた。もっと大きなロケットが必要だが、有人飛行は技術的には可能だと言い切る。

ただ、「最も難しい問題は、人間の精神面だ」という。片道約6カ月かけて窮屈な宇宙船で移動し、地球と火星が接近するタイミングで行き来するので、2年余り宇宙船と火星に滞在しなければならない。機器の故障などで戻るタイミングを逸したら、さらに2年待たなければならない。「そんな宇宙の旅に、人間が耐えられるだろうか」

将来、普通の人が火星の基地を旅行で訪れる時代は「実現できる」という北京大地球・宇宙科学学院の焦維新教授も、「移民は無理だ」と朝日新聞の取材に言い切った。大気圧の薄さや、火星の磁場がとても弱く、大気を増やそうとしても太陽からの風が強いため、それを吹き飛ばしてしまうという。火星の地球化「テラフォーミング」は難しいと話す。

火星移住を目指してロケット開発を進めている、スペースXのイーロン・マスクCEOのいう、火星で1万発の水素爆弾を爆発させて極地の氷を待機に変えるという構想も、「ナンセンス。そんな爆弾を爆発させた場所に、生物が生存できるのか」。移民とは、環境がよくない場所から理想的な土地に行くことを言い、過酷な環境の火星に移民するのは論理的に意味をなさないとし、「マスク氏はビジネスマン。彼が吹聴している火星移民は、宣伝文句に過ぎない」と手厳しい。

焦教授は科学者として、火星に着陸して安全に地球へ戻るためにはまだ技術的に解決しなければならない課題が多いと指摘する。「火星のサンプルリターンが将来の有人探査を実現するための技術的な基礎になる」とし、20年代に火星へ行くとも言ったマスク氏との違いを強調した。

火星への有人飛行について熱っぽく語る、イーロン・マスク氏=2022年2月10日、米テキサス州のブラウンズビル近郊、ランハム裕子撮影
火星への有人飛行について熱っぽく語る、イーロン・マスク氏=2022年2月10日、米テキサス州のブラウンズビル近郊、ランハム裕子撮影

それでも中国人が火星を目指す意思は固い。探査も独自に進めている。「中国人は必ず火星に上陸する」。天問1号ミッションで着陸機の推進システムを担当した国有企業、中国航天科技集団第6研究院の劉志譲院長は朝日新聞の取材に決意を示した。中国は有人飛行のスケジュールを示していないが、50年ごろまでの実現を目指しているとされる。

独自開発にこだわるのにはわけがある。米国やロシア、日本、欧州宇宙機関(ESA)などが協力して11年に完成した「国際宇宙ステーション(ISS)」に、中国は入れてもらえなかった。米国がスパイ活動を警戒し、NASAが中国政府や企業と関係を結ぶことができなかったからとされる。中国は独自の宇宙ステーションの建設に着手。その後、運搬ロケットの打ち上げを続け、いまも女性宇宙飛行士を含む3人が半年間の予定で実験室に滞在している。宇宙ステーション「天宮」は今年にも完成する予定だ。

全国人民代表も務める劉氏は「広大な宇宙を探索し、宇宙強国を建設することは、中国が絶え間なく追い求める『宇宙の夢』だ」とし、国力を高めることに貢献すると強調した。これは、習主席の政治スローガンそのものであり、かつての「偉大な中国」を復興させようとする「中国の夢」でもある。習政権は「宇宙事業は国防のためであり、科学技術は軍を強くする」との理念も掲げており、国のためという意味合いはより強い。

中国はこれまで公式見解の場で、火星や月の探査で得られた成果を共有し合う「国際協力」を呼びかけてきた。しかし、米欧社会には中国への技術流出や宇宙の軍事利用などの警戒は強く、協力を進めようという機運は薄い。そうこうしているうちに、中国は30年ごろを目指す月面基地の建設でロシアと協力する覚書に署名。さらにロシアはISS陣営から抜け、宇宙ステーションでも中国と手を組むとの報道もある。ロシアのウクライナ侵攻で顕著になった欧米と中ロの分断は、宇宙にも広がっている。

資金的な問題から米国がスペースXといった民間企業との共同開発を進めるのに対し、中国はやはり国家主導の政治的な色彩が濃い。「スペースXに対抗できるのは、中国だけ。2強時代になる」。中国の宇宙開発に詳しい宇宙航空研究開発機構(JAXA)の辻野照久元参事は予測する。

潤沢な予算、二つの宇宙関連国有企業だけでも30万を超す人員、ロケットや衛星打ち上げの実績……。辻野氏は、スペースXと同様に、カリスマ的な指導者のもとで何回失敗しても成功するまで挑戦する点も中国の強みだという。「中国はこれまでロシアなどに教わって実力を高めてきたが、すでにロシアや欧州では追いつけないレベルに達している」

かつて後発国だった中国は、ロケット発射の実績を重ね、これまでに600基を超える衛星を打ち上げてきた。いま宇宙ステーションを持つのは、米国を中心としたISS陣営と、中国の2陣営のみだ。火星探査機を着陸させて無人探査に成功したのも米中だけ。

スペースXが先行する再利用型の大型ロケットに、中国は長征8号で実現させようと開発競争を繰り広げている。地球上における米中競合の構図は、宇宙開発でもしばらく続く。