地球から400キロ離れた国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士には、地球から宇宙食などを定期的に届けることができるが、いったん火星に向けて飛び立つと、補給することが極めて難しくなる。
前もって無人機で火星の地表に食料を届けておく方法も考えられるが、限られた物資をフル活用し、エネルギー消費を抑え、持続可能性を実現する新たな方法が求められている。
そこで、NASAとカナダ宇宙庁(CSA)は昨年、「Deep Space Food Challenge(ディープ・スペース・フード・チャレンジ)」という研究開発コンペを実施した。
宇宙飛行士4人の3年間分の食料を確保するため、その一部を担うアイデアを募集。物資を補給せず、廃棄物も極力出さないようにすることが求められている。さらに水の利用も制限される。
「フェーズ1」を勝ち抜いたのは米国の18チームがそれぞれ2万5000ドル(約300万円)の賞金を獲得し、ドイツやインドなどの10チームも表彰され、今年からの「フェーズ2」への挑戦に招待された。「フェーズ2」の勝者チームは最大15万ドル(約1800万円)の賞金を獲得でき、最終選考に残ったチームは、アイデアを実践する機会が与えられる。
微生物の研究をする南イリノイ大のラヒル・ジャヤコディ准教授(39)らのチームは、プラスチックや食品廃棄物を再利用して、食材に変えるシステムを提案し、フェーズ1を突破した。「μBites(マイクロバイツ)」と名付けたシステムは、廃棄物を粉砕して特殊な装置で溶かす。炭素を含むその液体を、遺伝子組み換え技術でつくった人工微生物に処理させることで、人間が食べられる物質へと変える計画だ。
すでにそれぞれの工程を実験室レベルで実現することはすでに出来ているという。ジャヤコディさんは「スケールアップがいまの課題だ。いま必要なのは資金なんです」と話し、フェーズ2を勝ち抜いてプロトタイプの完成を目指す。
そのほかにもフェーズ1の勝者たちからは、ユニークなアイデアが出た。多能性幹細胞から培養肉をつくったり、培養した果物の細胞で味や色、香りが豊かな「ベリー」を製造したりする。プラスチックの袋の中でパンを作るというアイデアもあった。
米コーネル大の大学院生らのチーム「BigRedBites(ビッグ・レッド・バイツ)」は、宇宙で植物やキノコ、シアノバクテリア、酵母などを別々のチャンバー(箱状の空間)で育てるシステムを提案する。それぞれの生育環境から出る二酸化炭素や酸素、水などを、他の生育環境でリサイクルすることで、必要な土壌や水、栄養素の量を最小限に抑えられる。これらの食材を3Dプリンターで加工することで、本物の肉は含まれないが「ミートボール」や「パテ」などをつくり、宇宙飛行士に必要なカロリーの15%をまかなうという計画だ。
リーダーで、大学では食品科学を専攻するビビアナ・リベラ・フローレスさん(31)は「指数関数的に増殖する菌や酵母の能力を利用する。この挑戦はより持続可能な他のフードシステムを考える機会でもあるのです」と語る。