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ジャパンモビリティショーが映し出す自動車業界の大革命 無人運転、EV、空飛ぶクルマ

クルマの未来 更新日: 公開日:
スバルのエアモビリティ「SUBARU AIR MOBILITY CONCEPT」
スバルのエアモビリティ「SUBARU AIR MOBILITY CONCEPT」(右上)と従来型の乗用車

クルマ以外の「モビリティ」も

「モーター」から「モビリティ」へ――。

もはやクルマだけにはこだわらず、様々な移動手段を提案する「モビリティ産業」へと生まれ変わろうとしている自動車産業は、ソニーをはじめとする異業種やベンチャー企業の参入をプラスに捉え、業界全体を盛り上げたい。今回の名称変更には、そんな思いが込められている。

その思いがもっともよく表れていたのが、各自動車メーカーによるクルマ以外の様々な「移動手段」の展示だ。ライバルが増えて厳しさを増すビジネス環境のなかでの生き残りをかけて、新しい領域へ踏み出そうとしている姿勢がうかがえる。

スバルのブースでは、コンセプトカーの上空に同社が開発を進めているエアモビリティ「SUBARU AIR MOBILITY CONCEPT」を世界で初めて展示。「より自由な移動」が実現する未来の可能性をアピールした。

クルマよりも目立っていたのがホンダの小型ビジネスジェット機「HondaJet」。展示されているのは、エンジンなど一部を省略した以外は、実機と同等のカーボンファイバー製の機体だという。

ホンダの小型ビジネスジェット機「HondaJet Elite II」の機体
ホンダの小型ビジネスジェット機「HondaJet Elite II」の機体

12.99mの全長を持つ「Elite II」は内部の取材も可能で、実機と同様の操縦席に座ることもできた。

担当者は「クルマ以外の様々なモビリティの開発を進めてきたホンダの強みをいかした展示ができた」と胸を張った。

「モーター」から「モビリティ」にリニューアル

「ジャパンモビリティショー」という新たな名称が明らかになったのは、2022年11月17日。日本自動車工業会(自工会)の会長で、現トヨタ会長の豊田章男氏が記者会見で発表した。

記者会見する豊田章男・自工会会長=2022年11月17日、自工会公式YouTubeより
記者会見する豊田章男・自工会会長=2022年11月17日、自工会公式YouTubeより

1954年に第1回が開かれ、以来46回の歴史を刻んできた東京モーターショー。近年は入場者数が減り続けていたが、前回の2019年には、未来志向のイベントや子ども向けのイベントを企画するなどして、若者やファミリー層の取り込みに成功。100万人の目標を大きく上回る約130万人が来場した。

東京モーターショー時代の来場者の推移=自工会公式YouTubeより
東京モーターショー時代の来場者の推移=自工会公式YouTubeより

その後、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開催を見送っていたが今年、4年ぶりに開催される予定だった。

歴史と伝統のある名前を変更した理由について、質疑応答で問われた豊田会長は明言を避けたものの、次のようにコメントした。

「ほかのインダストリー(業界)も『モビリティ』という枠組みで入れる器にしている。自動車産業が中心となって、日本を元気にできるショーにしたい」

この会見の翌日、あらためて記者会見を開いた自工会は、モーターショー委員会の長田准・委員長が「今は100年に一度の変革期で、自動車産業は新しくモビリティ産業へと生まれ変わる過程にある」と言及。

経団連に「モビリティ委員会」が発足したことなども受けて「他産業やスタートアップ企業も仲間に呼び込み、オールジャパンで作るショーを目指す」ための名称変更だと説明した。

「あえて変わらない」BEV

それから約1年。自動車業界の期待を背負って開幕した「ジャパンモビリティショー2023」の会場で主役を占めたのはやはり、エンジンを持たずバッテリーから供給される電気で走るBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー式電気自動車)だった。

凹凸が少ないシンプルでスタイリッシュな外観に、大型で視認性も高いディスプレーが運転席・助手席の周辺に効率的に配置された車内。「電気自動車」という言葉から連想されるイメージどおりの近未来を予感させるクルマが、各社のブースを飾る。

そんななかで、異彩を放っていたのがスズキの商用車として知られる「エブリイ」のコンセプトカー「e エブリイ」。

スズキのコンセプトカー「e エブリイ」
スズキのコンセプトカー「e エブリイ」

市販されているガソリン車のBEVバージョンだが、外見は現行車とほぼ同じ。内装も、シフトレバーなどがBEV仕様に変わっているものの、一見しただけでは電気自動車とは思えない「ふつうの」見た目に仕上がっている。

エブリイのBEV化について、スズキEV商品企画部の植松千賀さんは「様々な業界で地球環境への配慮が叫ばれるなか、商用車にもその役割が求められるようになってきた」と話す。

一方で、「商用車としての役割は、毎日継続して使っていただくこと。BEVになっても、あえてできるだけ変化は付けないようにした」という。

サステナビリティの実現、各社が追求

生まれ変わったモビリティショーでは、これまで以上に地球環境への配慮やサステナビリティをテーマに掲げた展示も目立った。

レクサスとヤマハは、排ガスや二酸化炭素の排出がほぼゼロとされる水素エンジンを共同で開発。ヤマハが米国で市販しているオフロードバギー「YXZ1000R」に搭載した。

自然環境により近いオフロードを走るバギーには「環境への負荷がより低いものが求められるようになってきた」とヤマハ技術・研究本部主査の原貴比古さん。まだコンセプト段階だが、「様々なシーンで実際に使ってみることで今後、特長や課題を明確にしていきたい」という。

水素エンジンを搭載したヤマハのオフロードバギー「YXZ1000R」
水素エンジンを搭載したヤマハのオフロードバギー「YXZ1000R」

一方のレクサスは、エンジン以外の部分でも様々な企業と共同開発を進め、ヤマハの車体をベースに独自の開発を進めている。

テーマの一つとして掲げているのが、二酸化炭素排出量の削減だ。クルマの製造過程で二酸化炭素の排出が最も多いとされるのが車体の塗装。そこでこのコンセプトカーでは塗装をやめて、ラッピングを採用した。

フロントガラスも、生物由来のカーボンニュートラルなポリカーボネート製のものを採用。通常3回行うコーティングも1回にして、二酸化炭素の排出量削減を実現したという。

水素エンジンを搭載したレクサスのオフロードバギー

ほかにも、車輪からの振動を吸収するショックアブソーバーで使われるオイルを、自然に戻りやすい生分解性のオイルに変えて実装している。

レクサスの製品企画主査の山本晴之さんは「市販することには必ずしもこだわらず、このバギーの開発や研究で培われた技術が、他の市販車で採用されて広がっていく可能性も視野に入れている」と話す。

ホンダは、リサイクルの前と後で用途が大きく変わらない「水平リサイクル」を実現するコンセプトカーを出展した。

テールランプのカバーなどに使われているアクリル樹脂はリサイクルが難しいとされ、これまでは多くが焼却処分されていた。ホンダは、これをリサイクルする実証実験を、三菱ケミカルと共同で2021年から進めていた。

今回展示されている「SUSTAINA-C Concept」は、耐久性などの課題をクリアしたことで、再生されたアクリル樹脂を車体の多くの部分に採用することに成功。素材の発色の良さをいかすことで塗装の必要がなくなり、二酸化炭素排出量の削減も実現したという。

ホンダ先進技術研究所シニアチーフエンジニアの田中健樹さんは「さらに研究を進めて市販を目指したい」と話している。

「SUSTAINA-C Concept」に使われたアクリル樹脂について説明するホンダの田中健樹さん
「SUSTAINA-C Concept」に使われたアクリル樹脂について説明するホンダの田中健樹さん

EV時代に勢力図も変化

電気自動車(EV)が全盛の時代へと移り変わるなかで、エンジンの時代に性能と技術で世界を席巻した日本のメーカーの地位は、特に世界市場においては万全とは言えなくなっている。

中国に代表される海外の新興メーカーの勢いはすさまじく、価格だけでなく性能面においても国内メーカーが苦戦を強いられる場面も少なくない。

今回のジャパンモビリティショーは、11月3日から公開が予定されている映画「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」とコラボレーションしているが、記者会見ではそれに関連して海外メディアの記者から「ゴジラは、EVを武器に日本の自動車市場に押し寄せてくる海外企業の象徴ですか?」という質問も出た。

自工会は「ゴジラは、災害対策を進める自動車メーカーが立ち向かうべき自然災害の象徴です」と即座に否定したものの、国内メーカーの厳しい立場に海外からどのような視線が注がれているかということを示すやり取りとなった。

そんななかで今回、日本のモーターショーに初めて出展し、国内外の主要メーカーと肩を並べる規模のブースを展開したことで話題となったのが、EVを中心としたラインナップの中国メーカー「BYD」だ。

広々とした展示スペースで、同社の市販モデルやコンセプトモデルを多数展示。モーターや制御システムなど8つのユニットをコンパクトにまとめ、温度制御などにも優れた同社のEVの心臓部にあたる「e-Platform 3.0」などの最新技術も紹介していた。

BYDの「e-Platform 3.0」の展示
BYDの「e-Platform 3.0」の展示

   ◇

「ジャパンモビリティショー2023」は、前身の東京モーターショー時代も含めて最多の475社(10月4日発表時点)が参加。東京ビッグサイト(東京都江東区)を会場に、26日(木)から始まった。11月5日(日)に閉幕する。

公式サイトは https://www.japan-mobility-show.com/